ミステリー小説

ミステリー小説「セピア色の病」異次元世界を垣間見る能力を得た男の悲劇

ストーリー


 

日々、暮らしにくくなっている昨今、何によりどころを求めればよいのか。何もしなければ時間だけが過ぎてゆく。かといって、自分にノルマを与えすぎるとメンタルに来てしまう。そんな時の箸休めに「寝る前の5分間で読むチョイ恐ミステリー」でものぞいてみて。

動画をどうぞ。

「パラレル 多次元世界」予告

 

「パラレル 多次元世界」という映画がある。鏡がポータルだ。ここを通過して別次元にゆけるのだが・・・それを知ったがために次々と難問が持ち上がる。

この映画とちょっと異なるが、別世界をのぞいてしまった男の話をしてみよう。この話は僕の友人A君から聞いたものだ。

彼(T君)が最初に異変に気付いたのは数年も前の話だ。無色透明のミネラルウォーターのペットボトルがかすかに「セピア色」に見えた。最初はほとんど気にも留めていなかった。

ところが半年後、はっきりと分かるほど自分が見ている世界がセピア色に包まれているのを知る。「セピア色」と言う表現を使ったが、ひょっとしたら「色」ではなく自分自身の感覚が変化しつつあるのかもしれない。

彼は慌てて眼科医の所に駆け込む、しかし異常はみられない。納得できないことから全身の健康診断も実施した。何を調べても大きな変化はない。外界の情報は正確に目から入ってくる。それなら、それを判断する脳に原因があるのか・・・高額な脳ドックも念のためやってみた。

特に異常は見られないが、脳の深部がやや活発に動いているようだ。でも、これが「セピア色」と関係しているのか確証はない。そのうち本来なら雲一つない青空に異変が起こり始めた。

空には無数の「クラゲ状の物体」が見えるようになった。彼は焦って、ネットなどで自分の症状と同じ人がいないか調べてみた。そしてB医学部教授の論文を知ることとなる。教授に面会を求めた。

教授は忙しい中、スケジュールを開けて会ってくれた。教授は過去に同様の症状を数例知っている。病は「セピア色症候群(仮)」と呼んでいた。

この病は残念ながら治らない。一時しのぎではあるがここにある特殊な眼鏡をかければ「異様な色と物体の出現」を緩和できると言う。症状が重くなってしまった患者はどうなるか尋ねてみた。教授は「個人情報」は開示は出来ないと教えてくれなかった。教授の顔色から悲劇的な結末が予想される。彼は打ちのめされる。

それでも、定期的に教授の元に通い治療を受けることとなった。特殊な眼鏡は確かに一時しのぎでしかなかった。そのうち、人の背後にオーラのように光が見えるようになった。まるで「幽霊」でも見ているかのようだ。

彼は全ての人間の背後から何かうごめくモノを見る。生命エネルギー、或いは生体エネルギーなのか・・・。まるで実態がつかめない。

そのうち、その白いオーラのような物体が彼に影響を及ぼし始めた。白いオーラから触手(手のようなもの)が伸び自分の肩に触れたのだ。このことを教授に話した。しかし、過去にそんな例はなく、思い過ごしではないかと言われた。それからしばらくして彼は忽然と消えてしまう。

教授を訪ねた彼(T君)のご両親は教授から次のような話を聞く。人間とは不思議なもので何十年或いは何百年に一度の確率で「突然変異個体を発生する」。その変異個体が環境にうまく適合し今日まで人間は生き延び繁栄してきた。

実は私の息子も「セピア色症候群(仮)」を患い自殺している。そしてこの病気の謎を解明しようと半生をかけてきた。残念ながら病気の原因も治療法も見つけ出すことは出来なかった。

しかし、息子をよく観察してみる。当初、幽霊に見えたものが「異次元の生き物」ではないかと思うようになった。何故ならほんの少しではあるが意思を伝えることが出来たからだ。

白い色をした物体は時に人間のようにふるまうことがあった。こちらの問いかけに反応する・・・息子はそんなことを話した。しかし、彼は四六時中「そいつ」に付きまとわれ神経をすり減らした・・・耐えきれなくなり自殺した。

その後50年ほど経って衝撃的な論文が発表された。その論文の要旨を以下に述べる。「セピア色症候群は人間の進化の一つだ。パラレルワールド又はマルチバースは存在する。そして並行宇宙間で行き来出来ればその世界の文明に大きな影響を与える。」

「並行宇宙間を旅することはたやすく出来ることではない。それぞれの宇宙の時間の進み具合は異なっている。ある世界の5分は我々の世界の30分かもしれないし、或いは1年かもしれない。また逆かもしれない。」

「こちらが別の宇宙を認識できたことは、向こうからもこちらが見えているはずだ。」「そして別の宇宙の方が科学技術が進んでいると仮定すると我々の宇宙にいる人間を引っ張り込むことが出来る。」

「並行宇宙に引っ張り込まれた人間が何年か後に元の世界に戻されたとき、その世界は50年とか100年経っているかもしれない。」「しかも、ノーベル賞級の知識を持って。」

僕はかつてTと呼ばれていた。でも今では別の名だ。何故なら僕がいない間に肉親や知り合いはほとんど亡くなってしまった。でも僕自身は消えた時と大きく変わっていない・・・若い姿のままだ。

僕が異次元の世界に引きづりこまれた時、偶然にも異次元の僕に巡り合った・・・運が良かった。異次元の僕は天才科学者であり、双子のように入れ替わって過ごしていた。この世界で見るもの聞くモノすべてに興味をそそられる。

この世界はかつての僕の世界より相当進んでいた。宇宙ロケットや宇宙開発など目を見張るものがある。僕も異次元の僕の仕事を手伝いながら毎日を楽しく過ごす。気が付くと数年が経っていた。そして、そろそろ帰りたくなった。

僕が帰るにあたって色々と骨を折ってくれた。元の世界に戻るにはいつでもと言うわけには行かない、場所と時間が重要なのだ。そして元の世界に戻ってきた。

ところがこの世界では50年以上が過ぎていた。両親は亡くなっていたが、いつか帰ってくる僕のために家と貯金を残してくれた。僕はTの息子と名乗ってこの世界に住み始めた。さあ、今から「常温核融合炉の論文」でも書くとするか・・・。

 

TATSUTATSU

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