ミステリー小説

ミステリー小説「細胞に刻まれた海の記憶」浜辺から見るオレンジ色の夕日・朝日、何故か心が奪われる

ストーリー

 


今年になって不思議な夢を見た。仲の良い4人組で明け方から旅をする。大きな駅前のビルを出て南の方に向かう。車道だが車は不思議といない、その道を楽しく雑談しながらひたすら歩く。広い道はどんどん狭まってゆく。

暫く行くと道が二つに分かれる。友人のA君が「僕は」右に行くよ、彼女が待っていると言う。彼はY字道の右へスタスタといってしまう。そして彼女と合流し去ってゆく。

3人で左の道へ行くと森がある。B君は「疲れたからここでしばらく休む、先に行ってくれ」と言う。僕とC君は黙ったまま歩いてゆくと広い草原に出る。草原の先には青い海が見える・・・僕はここを目指していたんだ。

僕はそこからC君と別れ、一人で海に向かって歩いてゆく。陽がそろそろ傾いてきた。さらに歩いてゆくときれいな砂浜の海岸に出る。波が打ち寄せてくる・・・潮騒が心地よく響く。

海に夕日が沈もうとしていた。地平線がオレンジ色に染まる。僕は砂地に腰を下ろし海を眺めていた。ふと強烈な郷愁に襲われる。胸が押しつぶされそうだ。自然に涙があふれてゆく・・・僕が生まれる前の記憶のように。

どれくらい夕日を見ていたのだろうか。そしてふと、振り返ると見覚えのあるやさしい女性が微笑んでいた。ああ、君なのか、ここに来れば会えると思っていた・・・その後は記憶が飛んでしまった。

とりとめの無い夢だが、映像の中にオレンジ色の夕日が出てくる。僕はこれに涙を流していた。何故、海の記憶が夢の中に出てくるのか。

また、海水浴で海の中をゴーグルをつけて泳いでいると不思議な感覚に陥る。上下・左右があいまいになる。このしびれるような感覚は過去にも経験したことがある。僕らの「血」はしょっぱい・・・海から生まれた証拠だ。

長い間、海で暮らしていた僕らの祖先は勇気を出して上陸してゆく。暫くは海から離れるのが怖くて砂浜で暮らしていた。海に戻ったり陸地に上がったり・・・ウミガメのようだったに違いない。僕はウミガメの目線できっと海を見ている。

せっかく生まれた海から解放され、陸地へと進出したのに、何故海に戻るのか。クジラやイルカがそうだ。犬ぐらいの大きさのパキケトゥスと呼ばれているのが彼らの祖先と言われている。また、クジラのDNAを研究してゆくと陸上のカバに近いそうだ。

僕ら人間だって、一度海を離れ、小さなサルとなって森に住み着く。でも、また海に戻ってゆく種族があったに違いない。海岸沿いは魚や貝、海藻なんかがあって食べるものに困らなかった。毎日、海に潜ることによって毛が抜けて体はつるつるになってゆく。

アクア説又は水生類人猿説がある。この説では「ヒトが類人猿などの共通の祖先から進化する過程で、一時期半水生生活をおくっていた。」「この時に直立二足歩行、薄い体毛、厚い皮下脂肪、意識的に呼吸をコントロールする能力を身に着けた。」となっている。

これを完全に裏付ける証拠は出そろっていないがあり得ない話ではない。僕らの祖先は一時期、海で暮らしていたのだ。そして、また森に戻ってゆく。

この時、海に取り残された種族がいたとしても何らおかしくはない。人魚の伝説や半魚人など海の何処かにいるのかもしれない。あのシーラカンスでさえ生き残っているのだ。

海の底の洞窟や空洞で生き延びた人々がひっそり暮らしている・・・彼らをそっとしておくに越したことは無い。或いは、既に絶滅してしまったのか・・・。

僕らに残っているのは「細胞に刻まれた海の記憶」。この記憶が海へ僕らを誘う。そして海岸の小高い丘に座って夕日を眺める。このひと時が昔を思い出させ、細胞に生きる希望を与えてくれる。

さあ、日が暮れてきた。近くの海岸に急がなくては・・・。

TATSUTATSU

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