ミステリー小説

ミステリー小説「南米の原生林で生きた宝石を見つける」エメラルドのように深い輝きを持った生き物は本当にいるのか

ストーリー


日々、暮らしにくくなっている昨今、何によりどころを求めればよいのか。何もしなければ時間だけが過ぎてゆく。かといって、自分にノルマを与えすぎるとメンタルに来てしまう。そんな時の箸休めに「寝る前の5分間で読むチョイ恐ミステリー」でものぞいてみて。

 

 

僕は南米のある関係者から依頼され、新種の植物や希少植物の採集を行っている。この仕事を手掛けて数年になる。新種が見つかればこれを研究し、新薬の開発に結び付ける。そして世の中に役立てる。

ご存じのように植物由来の医薬品は非常に多い。例えばコーヒーから得られるカフェインは解熱・鎮痛剤に使われる。木の皮から得られるキニーネはマラリアの治療薬、センブリは整腸薬、ゲンノショウコは下痢止め、鎮痛剤のモルヒネはケシから・・・きりがない。

僕が発見したある植物は感染症に効果があった。臨床試験を経て将来、特効薬の一つになるかもしれない。おびただしい植物を採取しても、その多くは廃棄の憂き目にあう。しかし、それらは本来、何らかの役に立つはずだ。

僕は自然にあるすべての植物には効用があると考えている。薬ではなく、匂いや色が良く精神をリラックスさせるとか、食用・調味料に出来るとか、植えると土を肥えさせるとか・・・ただそれを確認するまで膨大な時間がかかる。

植物採集は根気のいる仕事だ。時給にすると割が合わない。でもジャングルの中を飛び回っていると体中の細胞が活性化され、生きている実感が湧いてくる。

僕は植物学の博士号を持っているが小動物や昆虫にも知識と興味がある。少し前にこんな体験をしている。今回それを紹介しよう。

美しい昆虫や希少昆虫は場合によっては高値で売買されることがある。でも乱獲すればその種は消えてゆくので細心の注意が必要だ。

ある地区の原生林の落ち葉の上で宝石のようなコガネムシを見つけた。プラチナコガネの亜種でエメラルドコガネと言う。全身エメラルドグリーンに輝くこの虫は数十年に渡って発見されなかった。専門家の間では絶滅したと考えられていた。

この発見によって、全身の毛が逆立つほど興奮した。その虫をかごに入れキャンプに持ち帰った。写真を撮ったり、大きさを測ったり、動きを観察したり。僕はこの美しすぎる虫のとりこになった。見てるだけで心が癒される。

採取した場所の周辺を何日も探し回り、他の個体を入手しようとした。調査をしてゆくとある植物をエサにしていることが分かった。たまたま今回、落ち葉の上で見つけたが、本来は土の中にもぐって夜にしか姿を現さないと考えられる・・・発見は運が良かったのだ。

一つの個体がみつかったことでこれが繁殖できるのには少なくとも50~100匹程度はいると予想した。必ずいるはずだ。ところが探しても一向に見つからない。僕は近くの集落の人から情報を得ようとした。

その人はもう70代で、僕が捕まえたエメラルドコガネを見せた。彼はそれを懐かしそうに見る。かつては家の灯りに群がり、朝早く起きれば電灯の下にかなりの数が落ちていた。あまりに美しいので捕まえて町に持って行ったところ1匹1万円ぐらいで売れた時期があったそうだ。

ところが数十年前からピタッと見ることが無くなった。当時は都市開発が盛んで森や密林が消えて行った時期と重なる。自然がなくなるにしたがって、この美しい昆虫も消えてしまった。

当初は関心を寄せた昆虫であったがいなくなると記憶から抜け落ちてしまう・・・つまり無関心だ。そうすると誰も自然のことなど考えない、どんどん破壊される。生活は近代化されたが「自然」と言う大きな遺産を失った。

エメラルドコガネは美しいから目立つがそうでない昆虫や小動物たちはかなりの数が絶滅していったに違いない。寂しいがこれが現実だ。どこかで開発をストップさせないと取り返しのつかない日が来ると強く感じた。

僕はエメラルドコガネを標本にして持ち帰ろうとした。しかし、残り少ない種を絶滅から救うには自然に返した方が良いと思った。非常に残念だが、採取した場所に放した。

それから半年ほど経つ。エメラルドコガネの採取地を訪れた。ところがその場所は木々は伐採され更地になっていた。大規模な都市開発だ。広大な更地を目の前にしてため息さえも出てこなかった。

僕は定期的に日本に帰国する。その時家の近くの森や里山を散歩するのが好きだった。季節によって色々な生き物に出会えワクワクする瞬間だ。野鳥、リス、ウサギ、ヘビ、カエル、トンボやチョウ、セミ、カブトムシ・・・。

今日はどれに遭遇するか楽しみだ。ところが最近、これらの生き物の数や種類が減ったように思う。都市開発、空中からの農薬散布、道端は除草剤をまいた跡ばかりだ。

間違いなく我々の故郷も無くなってゆく。見えないところで少しづつ自然が破壊されてゆく。もう耐えられない。最近、日本に帰国したくないと考える。今年は世界の何処に行けばいいのか探してみよう。

TATSUTATSU

ミステリー小説「守護霊と旅する男」彼は何処に向かって旅をするのか、旅はいつ終わるのか

ミステリー小説「幸運の女神を探せ」生死の境目に現れる微笑みの彼女にもう一度会いたい

人生に疲れた時に見るお薦め映画ベスト20:人生は長く苦しいけど時には気分転換をお好きな映画で

ミステリー小説「友引の夜」友を黄泉の国に引きづりこむ言い伝えは果たして本当なのか

ミステリー小説「キツネの霊に憑りつかれた男」多くの人々の中で唯一動物霊に憑りつかれた理由とは前のページ

関連記事

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

人気記事
アーカイブ
最近の記事
2025年5月
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031  
  1. サスペンス

    映画「キングスマン:ゴールデン・サークル」感想と評価:頭を撃たれたハリーが復活す…
  2. ラブラドール

    老犬ラブラドール「恍惚散歩」‐ネネちゃん音や光は感じるかい
  3. SF

    映画「ギヴァー 記憶を注ぐ者」感想・評価‐人間は感情の無い生活に耐えられるのか
  4. SF

    映画「キング・アーサー」感想・評価‐新感覚ドラマと迫力ある映像・音楽に酔いしれる…
  5. 海外ドラマ

    TVドラマ「HANNIBAL/ハンニバル1-1,2」感想・評価‐はまりそうな自分…
PAGE TOP