ストーリー
日々、暮らしにくくなっている昨今、何によりどころを求めればよいのか。何もしなければ時間だけが過ぎてゆく。かといって、自分にノルマを与えすぎるとメンタルに来てしまう。そんな時の箸休めに「寝る前の5分間で読むチョイ恐ミステリー」でものぞいてみて。
幸運の女神とは「生死の境目に現れる」という。僕はもう長いこと生きているが今までに3度体験している。紹介しよう。
1度目は新入社員の駆け出しのころだ。僕はタクシーでお客さんとの待ち合わせ場所に急ぐ。ところが事故渋滞でなかなか進まない。大切なお客さんだから遅れるわけには行かない。
タクシーを諦め、地下鉄へと急いだ。階段を下りてホームを駆け出した。運よく列車が入ってくる。ところが前から来る男と接触し転びそうになった。男は素知らぬ顔をして過ぎ去る。その時、男の後ろに黒いものを見た。それは赤い目をしていたようにも見えた。
運よく、転びそうになる僕を支えてくれた女性がいた。彼女が居なければ線路に落ちていた。そして彼女の後ろに間違いなく、一瞬だが女神を見た。後でその時の記憶を呼び戻すと、女神は微笑んでいたように見えた。
2度目は本当にヤバい時だった。新入社員から30年が経っていた。課長になったものの重責も背負わされることになる。仕事の疲れと、精神的な重圧がかかり体調は最悪だ。数日前から右腹が異常に痛い。
僕は会合に行く途中、大腸から大量下血して倒れた。腸が破裂したようだ。意識を取り戻した時、目の前に若い女性の看護師がいた。そして彼女の肩越しに女神を見た。僕が倒れた場所は病院の目の前だった。
3度目はそれから数年後だ。健康診断で心臓に異常が見つかった。精密検査の結果、重症だった。僕はすぐに手術を受ける。11時間に及ぶ大手術で目を覚ました時、看護師さんがそこにいた。そして彼女の肩越しにやはり女神が見えた。
僕は3度の女神との遭遇で、彼女にほれ込んだ。記憶を探ると女神は母の若い頃、或いは好きな女優のようにも見えた。そして彼女は常に光り輝き微笑んでいた。
多分、僕が死ぬときに4度目の遭遇が出来ると思っている。でも、死ぬ前にもう一度会いたい。僕は「女神の伝説」を片っ端から調べ、何処に行けば会えるのか探した。
天照大神が祭ってある神社には何回も足を運んだ。全国の神社やいわれのある場所には出向いた。もう数年も仕事の合間に全国を探し回っている。やはり会えるはずがない。
ところが、仕事で有楽町を歩いている時、変な男に呼び止められた。その男は30才前後で「リュウ」と名のった。彼は突然「あなたの背中には何かが取り憑いている」と言う。
ありきたりのウサンクサイ話だが、彼の顔を見ると真剣な顔つきで清らかな目をしていた。僕は近くにある喫茶店に入った。彼は僕に「商売は拝みやをやっている」「だから拝み料5000円を頂きたい」と金の話を持ち出す。
まあ、騙されても5000円の損失で済むと渡した。彼は「私自身には霊力はないが、私には強力な背後霊が憑いている」背後霊はかってに「アケミ」と呼んでいる。「彼女からあなたを引き止めろ」と言われた。
男は僕に話しかける。かつて私は病で死にかけた。その時、守護霊が現れた。彼女は老婆、若い女性、少女に姿を変えて現れる。実際には女性ではないかもしれない・・・霊とはそんなものだ。私には彼女が見えるそして、手をつなぐことによって私にも霊が見える・・・アケミと一体化するからだ。
あなたの背中には得体の知れないものが取り憑いている。この霊と遭遇したいきさつを教えてほしいと「リュウ」は言う。僕は20代の頃に地下鉄で「女神」と遭遇し、今まで3度も女神と遭遇したことなどを説明した。
彼はそれは「女神」ではないと言う。地下鉄でぶつかってきた男の背後にいたものがあなたに憑りついた。そしてあなたには「女神」のように見せかけている。つまりあなたの理想の女が鏡に反射するように目の前に投影されている。
「リュウ」は次のように説明した。あなたの後ろに憑りついているものはあなたの生命エネルギーを糧として存在している。いわばあなたは「宿主」だ。「宿主」が死んでしまっては困るから憑りついた霊は必死にあなたを守ろうとする。
過去、何回か死にかけた時に現れ、あなたを救っている。これだけ長い間取り憑いていることはまれだ。きっとお互いに相性がいいのだろう。生命エネルギーを吸い取られているから少々疲れやすい・・・でも死ぬよりましだ。
僕は彼の言っていることは半信半疑だ。でも別に困るわけでもない。まあ、珍しい話が聞けたぐらいに思っておこう。彼は別れ際に、「もしも、どうしても除霊したいときはここに連絡ください」と簡単なメモをくれた。
こんな大都会に彼のような男が何をしているのか、こんな話を同僚とかに話したら、気が違ったかと思われそうだ。それにしても「リュウ」とかいう男はひょうひょうとして面白い。もう一度で会えるなら会ってもいいかなと最近思う。
TATSUTATSU
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