ミステリー小説

ミステリー小説「深紅の死神現象」死の直前に第6勘が感じる現象とは

ストーリー


 

この話は僕の友人Aから聞いたものだ。彼はこの世にはもういない、亡くなってから10年も経つ。そろそろ公表してもいいころだと思う。以下に彼の話を紹介しよう。

君は「魂と肉体」とは同一のものではなく、分離していることを知っているか。物質を細分化出来ないところまでさかのぼってゆくと原子核とその周りをまわる電子に行き着く。原子核を肉体だとすると魂は核の周りをまわっている電子だ。

でも、この電子はつかみどころのない物体だ。間違いなく原子核の周りをまわっているのだけど、何処にあるのか分からない。電子雲と呼んで、確率的な場所を雲のように表現するだけだ。

魂も同じだ。肉体の周りをオーラのように飛び交っている。が、時として光の速度で考えもつかない処へ旅をすることがある。特に眠っている時がそうだ。

僕は先日、鮮明な夢を見た。場所はニューヨークの5番街だ。セントラルパークとティファニーが見える。どうやらそこを歩いている青年の肉体に僕の魂がもぐりこんだようだ。僕はその青年の目を通して周りの景色を鮮明に見ている。

さらに人が話す声や顔に降り注ぐ光の束、腕をすり抜ける心地よい風の微妙な感覚までも感じた。その時間は0.5秒程度なのか5秒程度なのか分からない、ただその短い間幸福な気分に浸っていた。突然、その青年が倒れる。倒れる瞬間何者かに撃たれたのが見えた。即死かもしれない、同時に僕は目が覚めた。

その悪夢を見てから僕の周りで不思議な現象が起こるようになった。ある日、道路を歩いていると「危ない」と誰かに突き飛ばされた。同時に車が突っ込んできた。かろうじて僕は助かったのだ。助けてくれた人にお礼を言ってその場を立ち去った。

その瞬間を今でもスローモーションのように思い出す。そしてその時、嗅いだことのないこの世のモノとも思えない懐かしい香りを感じた。不思議な話だが臭いではなく体全体で感じたのだ。ラベンダー、ローズ、金木犀・・とも違う我を忘れるほどうっとりする香りだった。

そして、ここから悲劇が連鎖する。次にこの香りを感じたのは、工事中のビルの近くを歩いていた時だ。僕はとっさにその場を飛びのいた・・・と同時に上からブロックが落下して道で砕け散る。頭に当たれば死んでいたかもしれない。そうであれば僕は死を回避する能力を身に着けてしまったのか。

そんな出来事がしばしば続きながらも、死を何回も回避してきた。僕は夢で既に死んでいる。しかし、現実では生きている。あの夢が現実であれば生死を彷徨った宙ぶらりんの状態だ。死から逃れられないのではないかと不安に押しつぶされそうになる。そしてこんな経験をした人が世の中にいないか調べに調べまくった。

苦労したが、アメリカに古い文献があるのを見つけた。この文献は「クリムゾン・リーパー・フェノミナン」と呼ばれるものだ。日本語にすると「深紅の死神現象」とでも言うことか。

中身を要約すると「ある男が、食べ物をのどに詰まらせ仮死状態になった。心臓がしばらく止まったが運よく物が喉から外れ息を吹き返したそうだ。」「彼は仮死状態の時、目の前に深紅の夕焼けを見た。それはあまりに美しく、それに向かって歩いてゆく。しかし、目の前にどす黒い川が横たわっていた。向こう岸に誰かが彼を呼び手を差し出す。手を伸ばそうとした時、そいつはドクロだった。彼は瞬時に手をひっこめたところ目が覚めたそうだ。」

彼は息を吹き返してから、不思議な能力が備わった。自分の命が危険にさらされると目の前に深紅の光が見え、危険を回避することが出来た。彼はそれから何年生きたのか、死神に出会えたのか・・・何の記述もない。

この文献を書いた研究者の推測では、宇宙はある法則に基づいて規則正しく動いている。この法則は絶対で、これに逆らうことは出来ない。この法則から逸脱すると、これを修正しようとする力が働く。いったん死んだ人間が生き返る。これは法則に反する、これをもとに戻そうと魂をあの世から連れに来る。ドクロ顔の男が悪魔ということになる。

僕は夢の中では既に死んでいる。だからドクロが何回も僕をあの世に引きづりこもうとする。そのたびに回避してきた。我を忘れるほどうっとりする香りが僕を救ってくれる。僕は香りだが文献は深紅の光になっている。個人個人によってとらえ方が違うようだ。

以上のような話だった。ところが暫くしてAは車にハネられ亡くなった。そんな馬鹿なと思う。彼は死を回避する能力を授かったはずだ。ということは彼は自殺したとしか考えられない。

これはその後分かったことだが。Aが亡くなる少し前に、彼の妻が突然入院したそうだ。どんな病気か詳細は知らない。これは推測だが、ドクロはAの代わりに妻を連れてゆこうとしたしたのか・・・それでAは逃げるのを諦めたのか。

真相はAが亡くなった今、誰も分からない。

TATSUTATSU

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