ミステリー小説

ミステリー小説「宇宙の深淵への旅」宇宙は本当に存在するのか、我々の心を映し出した鏡なのか

ストーリー

 

 


日々、暮らしにくくなっている昨今、何によりどころを求めればよいのか。何もしなければ時間だけが過ぎてゆく。かといって、自分にノルマを与えすぎるとメンタルに来てしまう。そんな時の箸休めに「寝る前の5分間で読むチョイ恐ミステリー」でものぞいてみて。

 

 

僕と親友のヒデオはよくチームを組んで山登りをする。今回は後立山連峰と裏銀座コースを一週間ほどかけて走破する計画だ。山を登り始めてから中盤に差し掛かる、鷲羽岳から西鎌尾根を経て槍ヶ岳の手前で雷雨に遭遇する。

山の雷は物凄く危険だ。僕たちが窪地に逃げようとした時、稲妻が走り爆音が轟く。僕はとっさにうつぶせた。雷が通り過ぎた頃をうかがって起き上がるとヒデオが動かない。

僕はパニクった、ヒデオが雷に打たれたのだ。彼のもとに近寄って胸に耳を当てる。心臓は動いている。僕は急いで救助を要請し、ヘリで麓まで運び、救急車で病院に向かった。

気が動転していたのか、その時の細かい記憶が吹っ飛んでいた。暫くして落ち着いた僕は先生からヒデオが一命をとりとめたことを知らされる。全身の力が抜け、急に睡魔に襲われその場に寝込んでしまった。目が覚めると病院のベッドに寝かされていた。

ヒデオもぐっすり寝込んでいた。それから数日たった頃、僕は見舞いに訪れた。もうヒデオは元気になって食事をとっていた。それから一週間後、病院に来た僕に向かってヒデオはおかしなことを言う。

口から真っ白な竜が体に入ってゆく夢を何度も見る。しかも、体にかつてないほどの生気が蘇る。体全体の神経が逆立ち研ぎ澄まされる、と言っていた。さらに数日後、本を読んでいたら不思議なことに気づいた。本のページが一瞬で頭に入ってくる。まるで本のページをカメラで写すような感覚だ。世間ではこれを「フォトメモリー」と呼ぶ。

本を読めば瞬時に内容が頭に入ってくる。そして知識欲がとめどもなく自分を襲ってくる。目から入った情報が頭の中で整理され、つじつまの合わない疑問が次から次へと湧き出てくる。そうするとそれを解決するためにさらに多くの情報を脳が要求する。

僕は退院間際のヒデオに会いに行った。彼は部屋の隅の天井にハエトリグモがいると言う。僕にはとても見えない、近づいてみると確かにそいつはいた。また、部屋の外の廊下に3人の人がいる・・・これも確認したところ当たっている・・・子供と二人の女性だ。

雷に打たれてからヒデオの5感はどんどん研ぎ澄まされていく。脳の中には神経細胞が140億個も密集して互いにつながり合い、ネットワークを形成している。記憶とはこれらのネットワークを電気信号が伝わることによってなされている。それが今回のアクシデントで伝達スピードが強化されたようだ。

人間にはもともと5感と6感が備わっている。それらが強化され超人のような能力を持ったのか・・・。しかしその弊害として頭が冴えて眠れない。2・3時間寝れればいい方だ。体を壊さないかと心配だ・・・とヒデオは独り言のように言う。

退院したあとヒデオは大きな図書館に籠る。膨大な本データーを頭に入れ、パソコンから各種論文にアクセスし、それらも頭に取り込む。そんなことが3年も続いた。彼は世間でいうところの「天才」になっていた。

ヒデオの頭の中には色々なテーマが浮かぶ、例えば人工知能、量子コンピューター、核融合、宇宙船やロケットの開発など・・・。しかし、彼が最も興味をそそられ、一生をかけても取り組みたいテーマが「宇宙」だ。

ビックバンから始まり宇宙は光の速度で膨張している。しかし、ビックバン説は本当に正しいのか、宇宙の年齢は138億歳なのか・・・。最近の研究ではそれよりも古い銀河がみつかっている。直近の説では267億歳と考える学者もいる。

ヒデオは宇宙を旅したい衝動に駆られる。最新の宇宙望遠鏡から得られる情報を頼りに「新宇宙論」を展開する。彼独自の視点で宇宙を論じ、この分野ではその時代の「寵児」になっていた。彼をテレビやSNSで見ない日はない。

ヒデオは山の頂上付近に自費で小規模な天文台を作る。そこを根城に膨大な情報を集め、世界レベルの論文を次々と発表する。僕もよく彼を訪ねる。僕はヒデオと会話できるレベルの知識は持ち合わせていない。僕の役割はヒデオの食事と健康管理を徹底することだ。彼をほっておくと何日間も徹夜し、飯もろくに食わないことがある。

ある日、ヒデオはおかしなことを言い始める。「宇宙」は意思を持っている。我々が見たいものを宇宙は見せてくれる。何100億光年先の銀河が見たければ、銀河はそこにある。更に古い銀河が見たければそれらも存在する。でも、現時点でそれらの銀河があるかどうかと言われると、もう無いかもしれない。地球に届いている光は太古の光なのだ。

それに宇宙の約95%は暗黒物質、暗黒エネルギーによって占められている。我々が見ている光る星は宇宙のほんの一部(5%)に過ぎない。つまり宇宙についてなんにも分かっていないと言うことだ。

さらにヒデオは「最近よくUFO或いはUAPを見る」。それらは時としてヒデオのまわりを動き回る。彼はそれらと一緒に宇宙を旅したいと強く思っているようだ。

ヒデオとくだらない話をすることがしばしばある。しかし、最近では全く話がかみ合わない。天才と付き合うと言うことはこういうことかもしれない。

その後、僕も仕事が忙しく、ヒデオのところに来たのは2週間も経っていた。ところが天文台には彼の姿は何処にもない。僕は嫌な予感がして部屋の中から近くの山まで必死で探し回った。一日中探し回って疲れた僕は机の上に手紙を見つける。

その手紙の内容は「僕の全財産を君にあげる。その代わり天文台を管理してくれ。必ず帰るから。」とのことだった。いったい彼は何処に行ったのだろうか。

僕は定期的に天文台を訪れ、掃除やら機械の整備などをつづけた。設備は傷まないように修繕し、外壁塗装も実施してきた。直近では最新式の望遠鏡に入れ替えた。コンピューターシステムのリニューアルもしてきた。

そんなことをしながらもう50年も経ってしまった。僕は80代だ。老い先短くこのまま管理を続けていくことは困難に思えた。僕は孫のリュウを連れて山を登るようになっていた。僕が亡くなった後リュウにここを継いでもらいたいからだ。

今日もリュウと一緒にここに来た。でもおかしい、天文台の入り口が開いている。中に入ってみるとそこにはヒデオがいた。分かれた時の30代のままだ。ヒデオは僕を見つけると微笑んだ。僕も懐かしくて涙が出そうだった。

ヒデオのそばに近づいた時、彼は「フウッ」と消えてしまった。幻覚なのか、いや見間違うことはない。僕は正真正銘のヒデオを見た。後ろについてきたリュウは「おじいちゃん、どうしたの」と首をかしげる。リュウには見えなかったのだ。

それから3か月後、最後の訪問をした。僕はリュウに支えられていた・・・物凄く息苦しい。医者から「心臓が限界だ」と言われている。これ以上医者の忠告を無視すると命の保証は出来ないとくぎを刺されている。

天文台に入っていくとヒデオの机に写真が置いてあった。ヒデオと僕が写った物だ・・・二人とも若い。多分、彼は光の速度で旅を続けているのではないか。光の速度に近づくほど時間がゆっくり流れる。だから、ヒデオは若いままでいられる。

彼がここに帰ってくるとき別の時空に飛び込んでしまったのか。パラレルワールドは無数に存在する。その中の一つに我々は住んでいるが、ヒデオは何処にでも行き来が出来るはずだ。

それから、50年ほど経つ・・・。

リュウが天文台に登ってくる。彼は著名な天体物理学者になっていた。天文台も少し大きく建て替え、最新式の設備が導入されている。そして正面の壁におじいちゃんとヒデオが写った古い写真が飾ってある。

リュウはおじいちゃんとよくここに来た時の思い出をしみじみと思い出す。あの時代の「宇宙理論」が懐かしい。今ではそれらは根底から覆され、全く新しいものになっている。UFOやUAPの謎もほぼ解明されている。

「新宇宙論」の幕開けだ。リュウはあけみを見つめる。彼女ともう何度もここに来ている。疲れたから今日はここに泊まって、亡くなったおじいちゃんとの思い出に浸ろう・・・。

一度だけ、ヒデオに遭遇したかも知れない。その時、彼は半透明の幽体のようだった。長い間、宇宙を旅すれば肉体は耐えられない。きっと、ヒデオの体から分離された「精神」だけが宇宙を永遠に彷徨っているのか・・・。

 

TATSUTATSU

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