ストーリー

僕はもう既に70歳を過ぎてしまった。自分でもここまで生きられるとは思っていなかった。我が家は短命な家系だ祖父は60代、両親は70ちょっとで亡くなっている。
また、最近同級生が突然死した・・・ショックだった。サラリーマンを50年近くやってきた。多くの同僚たちと仕事をしてきた。優秀な奴も数多く見かけた。でもで優秀な奴ほど病気に侵され脱落してゆく。あとに残された家族が可哀そうだ。
そう考えると人生は何だろうかと思ってしまう。単純に長生きすればいいのか・・・いや違うだろう。僕だってひょっとしたら明日死ぬかもしれない。「死」とは物凄く身近にあるものと感じる。
映画「フラットライナーズ」をご存じだろうか。医大生5人が人工的に心臓を止め、数分後に蘇生させることで臨死体験をする。果たして死後の世界はあるのだろーか。

動画をどうぞ。
僕は60才くらいの頃、産業医の先生から心臓に雑音があると言われ、心エコーと言う精密検査を実施した。その結果「重度の弁膜症」であることが分かった。毎年、健康診断を受け、当然心電図も測定している。いつも異常なしだったのでびっくりしてかなり落ち込んだ。
ほっておくと心臓に負担がかかり、心不全であの世行きだ。心臓は一生懸命動いているのに弁が開きっぱなしで血液が体に行き渡らない。心臓はどんどん肥大化してゆく・・・壊れるまで。僕は、心臓手術をすることを決断した。検査入院で長時間の手術に耐えられることが確認でき、入院・即手術ということになった。

僧帽弁というところがやられており、弁形成手術となる。伸びきった弁の一部を切除し縫い合わせて形を整える。その時、自分の弁が使えないと分かれば、カーボン素材の機械弁か豚の弁を移植することになる。両者欠点があって機械弁は血栓(血の塊)が出来やすい。
だからワーファリンと言う血栓を溶かす薬を死ぬまで飲みつづけなければならない。怪我をしたら血が止まりにくい。では豚の弁はどうかと言うとこれも厄介で、何年かに一回取り替えなければならない。もう、手術はごめんだ。僕は機械弁を選択した。
幸い何とか弁形成手術で間に合った。皆さんも、動悸や息切れがあったら、すぐに調べることをお勧めする。遅れれば遅れるほど回復が難しくなる。心臓にも負担がかかる。心臓は毎日、毎日頑張っている沈黙の臓器だ。
実際の心臓手術方法を調べてみると、えっ、こんなこともするのかあんなこともするのかと・・・のけぞるぐらいびっくりし、かえって心臓に悪い。手術への深入りはやめた。知らない方が身のためかも・・もう先生にゆだねるしかない。まさに「まな板の鯉」「陸に上がったまぐろ」状態だ。

手術は実に11時間にもおよんだ。その間、心臓を止めなければならない。心臓を長時間止めてしまうと動かなくなる恐れがある。だから薬を心臓に注射し、いったん心臓を眠らせる。数時間後に心臓が動き出すのでまた注射して繰り返す。
その間、人工心肺が動いて全身に血液を送り出す。心臓が止まっていても血液が体中を循環しているのだ。だから、残念ながら臨死体験はしていないと思う。よく、手術中に幽体離脱して天井の隅から手術中の自分を眺める・・・ということもなかった。

手術自体は苦でもない麻酔で眠っているからだ、苦しいのはその後だ。手術が終わるとICU(集中治療室)に移される。その時にびっくりするほど体から多くのチューブが機械に繋がっているのを知る。
それぞれのチューブがどんな役目をしているのか知りたいとも思わない。麻酔はきいているものの、物凄く息苦しい。水の中でおぼれるようなイメージだ。しかし、時間が経過するにつれ一本一本自分の体からチューブが外れてゆくのは正直うれしい。
心臓は不整脈が出まくって自分の臓器ではないように感じる。心臓が苦しみもがいているのだ・・・自分でも分かる。2・3日すると先生が「やっと心臓らしくなってきたね」とほほ笑む。手術3日後に自分でトイレに行けたがつらくて歩くのもままならない。本当に現役復帰できるのか心が折れそうになる。

昼夜、悪夢を見まくる。今が夢の世界か現実か判断つかないこともある。夢の中には、三途の川もあった・・・頭の中に刷り込まれているからやっぱり出て来る。そんなに大きな川ではないが目の前にどす黒い小川が流れている。向こう岸から懐かしい人たちが僕を呼ぶ。僕は渡ろうとするが渡れない。橋の代わりになる板や棒を探す・・・なかなか見つからない。探す途中に目が覚める。
次に何かに追い回される夢も見る。逃げろ逃げろと自分を追い立てる。昔、トラウマとなったモンスターたちが入れ代わり立ち代わり僕を襲う。僕は物陰に隠れるが気が気でない。エイリアンやゴジラみたいなやつもいたような気がする。夢の中を浮遊することもある。

今考えると、ひょっとしたら臨死体験をしていたかもしれない、記憶に残ってないだけだ。ベッドの横に常に誰かがいるような感触がある。看護師さんが24時間モニターで見守ってくれているから・・・彼女なのか。それとも毎日来てくれる家内か、あるいは僕をあの世に連れて行こうとしている誰かか?
退院したが、暫く後遺症に悩まされた。目が片方見えにくくなる。手がしびれる。体の平衡感覚が短時間なくなる。それに時々、空中を歩いているような感触に襲われる。実際、僕は生きているのかそれとも死んでいるのか、自分自身が信じられないことがある。一度生死を彷徨うと、ここがこの世だと確信できない。これが最も大きな後遺症なのかもしれない。

僕は運が良かった。病気を見つけてくれた先生には今でも感謝している。そして最先端の医療環境、僕を担当した執刀医。とにかく一流の人々に出会えた。今考えると母も心臓病を抱えていた。我が家系に伝わる負の連鎖。この連鎖が子にも伝わっていないことを祈るばかりだ。
TATSUTATSU
次回作「緑の少年」を見てね。
以下のミステリー小説も見てね。
「僕の金縛り体験記」
「連鎖する惨劇」
「クリスマスの雪女」
「幽霊が見える男」


















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