ミステリー小説

ミステリー小説「連鎖する惨劇」自分の目の前に迫り来る死とはあまりに身近なものだった

ストーリー


 

僕が東北地方にある小さな営業所にいた頃の出来事だ。恐ろしいことに僕が赴任する前の半年間に4人の社員が亡くなっていた。

1人目は自動車事故で即死、2人目はバイクの事故で死亡、3人目は心筋梗塞で倒れて死亡、そして最後の4人目は自殺である。40~50人足らずの小さな営業所で次から次へと起こる惨劇。

当時、営業所の中は雰囲気が暗く、次は誰なのかと皆がびくびくしていた。当然、神社の神主を呼んでお祓いはしてもらっている。こんな出来事はひょっとしたら全国にあるのかもしれない。ただ公になっていないだけだ。

不思議なことに、惨劇は同じ場所で起こる。均一ではないのだ。その理由は色々と解釈がある。道路なんかは事故が起きやすい場所が必ずある。スピードが出やすい曲がり角、見通しの悪い十字路、学校が近くにあり子供の飛び出しが多い場所・・・などなどきりがない。

建物では自殺の多い団地、入居者の入れ替わりが激しいアパート、一戸建ても同様だ。通りの激しい十字路沿いの家では、排気ガスと騒音に悩まされる。こんな場所では惨劇が起こる確率が高くなる。

僕はかつて高台の社宅に住んでいたことかある。夜になるとセキが激しくなり寝られない、家内もそうだった。体調は悪くなるし精神的にも不安定で追いつめられる。原因が分かるまで時間がかかった。海岸沿いにある工場の煙突から有害な煙が海風に乗ってやってくるのだ。とても我慢できず、社宅を変えてもらった。

しかし、営業所には連鎖する惨劇の原因が見つからない。何がそうさせるのか・・・死神でもとりついたのか、あるいは、その場所は呪われた場所なのか。

話を戻すと、僕はこの営業所の中間管理職として転勤してきた。新しいところに来ると新鮮ではあるものの、慣れるまでの3か月から6か月間は激務だ。単身赴任だから食生活などええ加減だ。

中間管理職は部下と上司に挟まれて精神的にもきつい。しかし、責任ある立場だからやりがいはある。日々、部下の悩みを聞いたり、仕事の進捗度合いをチェックしたり、上司とのコミュニケーションもうまくとらなければならない。

管理職は接待も多い、今から数十年も前だから結構派手な時期だ。一週間の激務をこなして土日は休めばいいと思うが、残念ながら土日は接待ゴルフが入ってくる。疲労に疲労が重なる。

 

数日間、悪夢を見る。そしてお腹が異常に痛い。でも病院に行かずなんとかやり過ごしていた。ある仕事で外出することになった。ところがその途中、大量に下血し道に倒れて気を失った。

気が付いたら病院のベッドの上だった。主治医から「血液の60%ほどが無くなっていたから、誰かが気が付かなかったら死んでいた」と言われた。

幸運にも倒れたところが大病院の前だったのだ。その後、原因が大腸憩室炎による腸管の破裂だったことが分かった。三週間後退院して何とか日常生活に戻ることが出来た。

この出来事で僕の「死生観」は劇的に変わった。「生と死は紙一重で、死は物凄く身近で穏やか、怖いものではないこと」を強く感じる。気を失う直前は痛みも何も感じない、ただ目の前に黒いシャッターが下りてくるだけだ。

ところが病院のベッドで目を覚ますと、体中がヒリヒリと痛む。生きていることとは「苦痛」なのだ。お腹が空くが当然絶食。その間、栄養を直接血管に注入される。トイレに行くのもつらいし、復帰できるのか精神的にも追い詰められる。

でも、体が元通りになってくると生きててよかったと感じる。主治医の先生にも病院にもお世話になりっぱなしで感謝しかない。僕はこうやって何とか生き延びた。「惨劇の連鎖」から抜け出すことが出来たのか?

かなり以前に遊び半分で、占い師さんにみてもらったことがある。彼女は「あなたの背中に白髪の小さなお婆さんがいる」と言った。そして、その「お婆さんは穏やかな表情をしているから悪いものではない」とも教えてくれた。きっと守護霊かもしれない。

しかし、悪い気はしないが僕はこの話を信じていない。人生には運・不運がある。もし、僕がアパートの中で倒れていたら死んでいたかもしれない。そう考えると「幸運」だけでは説明のつかないこともある。

TATSUTATSU

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