ミステリー小説

ミステリー小説「友引の夜」友を黄泉の国に引きづりこむ言い伝えは果たして本当なのか

ストーリー

 


日々、暮らしにくくなっている昨今、何によりどころを求めればよいのか。何もしなければ時間だけが過ぎてゆく。かといって、自分にノルマを与えすぎるとメンタルに来てしまう。そんな時の箸休めに「寝る前の5分間で読むチョイ恐ミステリー」でものぞいてみて。

 

あけみが突然亡くなった。車で交差点を通過中、横から信号無視のトラックに追突された。車の側面は大きく陥没し、即死だったそうだ。

僕らは大学時代の親友だ。僕とA、Bはあまりの出来事に言葉を失った。あけみの故郷は北海道だ。葬式に出席したのはBだけだった。海外出張中のAと多忙中の僕は出席できなかった。

3人そろった時点で仲間内だけで「お葬式」をやろうと言うことになった。現地に飛んで墓参りをした後、旅館に泊まって「お葬式」と称して軽く飲食した。当日は「友引」で、この日を決めたのはAだった。

男3人と女1人のおかしなグループだが不思議と気が合っていつも一緒だった。今回の出来事で特に心を痛めたのはAだ。彼は海外出張から戻ったらあけみにプロポーズするつもりだったと白状した。

Aのあまりの落ち込みに僕らは心配した。元気づけようと一週間に一回ほど飲み会を設けた。その席でAは不思議をことを言う。毎夜、夢の中にあけみが現れるとしくしく泣くらしい。

何回か会ううちにAの夢は具体性を帯びてきた。あけみは井戸のように深い穴の中から上を見上げて寂しそうに泣く。自分は独りぼっちでさみしいと訴える。いたたまれなくなったAは穴の中にロープを垂らして降りて行こうとする。

毎夜毎夜、同じ夢が繰り返される。Aは少しづつ穴の底に下がってゆく。あけみに届きそうなところで目が覚めるらしい・・・いつもだ。寝汗をかいて、精神も消耗して来る。僕とBは心配して時々Aを訪ねる。でもどうすることも出来なかった。

Aは1週間程会社を休んだ後、アパートの屋上から飛び降りた。二人を失った僕らは途方に暮れた。4人の結びつきは僕が考えている以上に強かったのだ。そして残された僕らにも影響が及ぶとは・・・。

暫くしてBが不思議な夢を見たと言う。大きな川が流れて水量も多い。時々、ゴウゴウと音がする。暫く川沿いを歩くと橋が架かっていた。橋の向こうからBを見つけたあけみがこっちに来いと手招きする。

あけみはいつもの笑顔でBを呼ぶ。Bは橋を渡ろうとして目が覚める。この夢は毎晩続くが不思議なことに恐怖感は無かった。Bは打ち明ける、あけみは生前、そろそろ結婚しろと両親がうるさい。3人のうちの誰かが私と結婚してくれたらうれしいのにね・・・なんてことを言ってたらしい。

Bは会社の健康診断で心臓に異常がみつかった。不整脈が出たり、時々胸が痛む時があると言う。これがあるためあけみには結婚の話は出来なかった。誰しも、少なからず何処かが悪くなる。今の世の中で完全な健康体を持っている人なんているんだろうか。

僕は時々Bと合って話をする。Bは例の夢の話をする。時々、夢の中にあけみが出てくる。橋を渡って少しづつ彼女に近づいていると言う。もう数メートル先には彼女がいて、にっこり笑う。あけみは相変わらずきれいだ。でもよくみると後ろに誰かいる。

それからしばらくしてBが心不全で亡くなる。どうも、夜中にアパートの中で倒れたらしい。もし昼間、会社内で倒れたら命は助かったかもしれない。この時、Bは例の橋を渡り終えたのかなと思ってしまった。青春真っただ中で3人とも逝ってしまうなんて。

暫くして、あけみが僕の夢の中に出始めた。僕は砂浜を歩いている。まぶしいほどの晴天で海から吹いてくる風が心地いい。後ろから誰かが来る。振り返るとあけみがいた。

僕のそばに来ると手を握って肩を寄せて来る。髪のいい香りがする。どれくらい歩いただろーか、ふと目が覚める。そんなことがしばらく続いた。夢の中であけみは僕が一番好きだと言ってくれた。

夢は自分が思い描くものだ。彼女の言葉は僕が作った言葉なのだ。でも悪い気はしない。暫くあけみの夢を見続けた。彼女は夢の中で僕の心を安らかにしてくれる。ある日、あけみはスカートをたくし上げて海の中に入ってゆく。

海の中でこっちに来てと手招きする。最初は膝くらい、何度も夢を見るうちに腰までつかっていた。そして気が付くと胸まで海の中に入っている。そのうちにおぼれてしまうかもしれない。

ところが最近ではあけみの夢を見なくなっていた。僕は会社のある人と付き合い始めたからだ。その人はC子さんと言う。彼女はどことなくあけみに似ている。そして僕はC子と結婚した。

C子と暮らし始めてもう30年以上経つ。残念ながら子供は出来なかった。でも幸せな人生と感じる。時々、彼女は昔の学生時代の話をする。それが不思議なことに4人グループ時代に経験したものによく似ている。

たぶん僕がそんなことを話したのかもしれない。C子はいつも若々しく歳を取らないように見える。それに対して僕は衰えてゆく。そしてこんな風にも感じる。僕の生きている世界は現実なんだろうかと。

現実世界であればC子はあけみの生まれ変わりだ。そうでなければこの世界はあの世か。どちらにせよ、どっちでもいいことだ。だって、今いる世界が毎日充実しているし楽しい。会社に新入社員が入ってきた。その中の二人はどことなくA、Bに似ている。「輪廻転生」とはよく言ったものだ。

「友引」とは「亡くなった人が友を呼び寄せる」・・・こんなことを真に受ける人は少ない。でもあけみが亡くなってからA、Bがこの世から居なくなってしまった。最後に残った僕もいつかは死んでゆく、だって人生、そんなもんだろう。

 

TATSUTATSU

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