ストーリー
日々、暮らしにくくなっている昨今、何によりどころを求めればよいのか。何もしなければ時間だけが過ぎてゆく。かといって、自分にノルマを与えすぎるとメンタルに来てしまう。そんな時の箸休めに「寝る前の5分間で読むチョイ恐ミステリー」でものぞいてみて。
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僕は昨日、自分が死んだ夢を見た。自分が死ぬ夢には二つの解釈がある。一つ目は「夢が正夢となる不吉な前兆だ」。二つ目は「自分自身が生まれ変わり新たな出発を祝う良い夢だ」。どちらを選択するかは本人次第。
夢の内容は・・・僕は病院のベッドで寝ている。体は金縛りにあったように動かない。ベッドわきには妻や子供たちがいて、僕の顔を覗き込む。僕がふと、目を開けると「目の前に白い縄があった」。
その縄は天から降りてきたようだ。僕はとっさに縄を掴む。縄は天井を突き抜け上へ上へと登ってゆく。下を見ると僕の体があった。家族が皆、僕の顔を覗き込んでいる。体と魂が分離したようだ。
上から僕の体を見ると、足元に白髪のお婆さんがいた。お婆さんは不思議なことに天井の僕を見上げて微笑んでいる。僕を長い間見守ってくれていた「守護霊」なのか。さらに出入り口のドア付近に「黒づくめの男」がいた。
僕はどんどん上に登ってゆく・・・天国まで行くのか。次の瞬間、僕は大昔の実家にいた。狭い台所にあるちゃぶ台に集まって食事をしている。僕の前には若い両親とお爺さんがいる。美味しそうに湯豆腐を食べている。
懐かしくて涙が出そうだ。僕はランドセルを背負って小学校に行く。小高い丘を登って、幽霊屋敷とよばれていた廃墟の横を通って・・・。小学校の正門の前に文房具屋さんがある。ここで鉛筆とノートを買う。
校庭は少し小高いところにあり、横には小川が流れていた。放課後よく遊んだ場所だ。僕は小川を石でせき止め小さな池を作った。石を投げると草むらにいた「ガマガエル」に当たって、カエルが「グエッ」と泣いた。僕はカエルをいじめるつもりはなかったと後悔した。
次に、また場面が変わる。家から中学校に登校する。線路を横切る時、電車が通過した。そして中学校の校庭にいた。ここには誰もいないが一人でサッカーボールを蹴った。陽が傾いてきた、あたりは少しづつ暗くなってくる。グラウンドの片隅にあの「黒づくめの男」がいる。険しい目で僕を見ている。
僕はヤバいと家へと急ぐ。あれは誰なんだろうか、僕に好意をもっといるとは思われないし、敵意さえ感じる。家に帰っても誰もいなかった。確かにそうだみんな既に亡くなっている。僕は実家から海へと向かう。
お盆過ぎの海へは行くなと両親に言われていた。それはクラゲの大群が押し寄せ刺される、とか土用波に襲われるとの理由だ。本当は海に集まってくる亡霊たちに引きづりこまれるからだと僕は感じている。
でも、泳ぎたい欲求に負けて浅瀬で遊んでみる。海水浴は楽しい。時を忘れて魚たちと泳ぐ。よく考えてみると「海は僕ら生物を産んだ母親のようだ」でも油断すると「波に飲み込まれて死んでしまう」。「生」と「死」を併せ持つ不思議な存在だ。
地平線の向こうがオレンジ色に染まってくる。そろそろ戻らなくてはと思った時、かなり沖に来てしまっていた。しかも土用波が大きくうねる。おぼれそうになった僕の目の前に白い縄が下りて来る。
慌てて縄を掴む。縄は僕を天高く釣り上げる。このまま、天に昇ってゆくと思われたところにあの「黒づくめの男」が近寄ってくる。彼は大きなハサミを取り出し縄を切る。その時「男の顔」がしっかり見えた。
僕は絶叫を上げながら奈落の底に落ちてゆく、そして目が覚める。全身汗まみれだ。でも僕はまだ生きている。不思議な感覚だ、夢の中で死んでいたのに・・・現実には生きていた。
僕は夢を分析してみた。夢の中の「死」は穏やかで悪い気分ではない。天に昇ってゆく感覚は「快楽」さえ感じる。でも、これでいいのかとも思ってしまう。
そして、「黒づくめの男」とは驚くことに「自分」なのだ・・・はっきり分かった。天に昇ってゆく僕を阻止したのは自分自身だった。
夢の中に出てくる白髪のお婆さんは「守護霊」かもしれない。僕を見守り、寿命がくるまで寄り添ってくれる。でも「黒づくめの男」つまり、自分自身は「まだ死にたくない」と抵抗している。
「白」が天使「黒」は悪魔と誰が決めたのか・・・そんな取り決めなど無いはずだ。何故なら「生」と「死」は裏表だからだ。僕は2度ほど死にかけている。人間は生まれた時に「生物学的寿命」は決まっている。
心臓手術してくれた名医は、僕の心臓の弱さは生まれつきではないかと所見を述べた。だから現代医学が無ければ間違いなく55才の時に死んでいた。僕が今も生きているのは「現代医学」で生かされているからだ。
寿命とは不思議なもので、生まれながらに持っている「生物学的寿命」と外部要因による「運命」と二つある。元気な人でも「不慮の事故」で亡くなることがある。
僕は「生物学的寿命」を超えたように思う。「不慮の事故」さえなければもう少し生きられる。「寿命」とは不思議なものだ。ところで、あなたの後ろにある「縄」は「君の縄」なのか・・・。
TATSUTATSU
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