サマリー
2016年公開のアメリカ ヒューマン映画
監督 クリント・イーストウッド(硫黄島からの手紙、アメリカン・スナイパー、ハドソン川の奇跡、15時17分、パリ行き)
出演 トム・ハンクス(プライベート・ライアン、グリーン・マイル、ブリッジ・オブ・スパイ)
アーロン・エッカート(アイ・フランケンシュタイン)
ローラ・リニー(真実の行方、エミリー・ローズ)
導入部分は記録映画かと思うほど地味な出だしで少々退屈したけど、ドラマが進んでゆくにしたがって感動がじわじわこみ上げてくる・・・そんな映画だ。
結末がもっとも盛り上がる、涙が出るほど心にジーンと来る。昨今のCG全盛の時代に、ほとんどCGは使わず、しかも派手な演出もしない、クリント・イーストウッド監督一流の憎い映画作りだ・・・お薦めだネ。
この手法は大ヒットした「アメリカン・スナイパー」でも発揮された。物語は誰でもみんな知っている、2009年にニューヨーク上空で起こった飛行機事故なんだ。
離陸したジェット旅客機がバードストライクによって両エンジンを停止させてしまう。「近くの空港に着陸しろ」との管制官の指示を、機長の独断で無視して、真冬のハドソン川にみごとに着水する。
そして乗組員・乗客合わせて155人全員の生還を果たす・・・機長は一躍「英雄」となる。事故から着水まで208秒とあっと言う間の出来事だ。この5分も無い時間内に状況判断・決断・行動をしなければならない機長の精神的重圧は想像を絶する。
この208秒がこの映画の「キモ」になっている。ところが国家運輸安全委員会(NTSB)は航空機などのデーターをもとに、「本当に両エンジンが停止したのか?」「近くの空港に不時着する方がより安全ではないのか?」と機長を追及してくる。
しかも、NTSBはコンピューターによる飛行シュミレーションを何回も繰り返し、また操縦者も代えて実施している。そこから解析されたデーター上は、近くの空港に無事着陸できることを確認している。NTSBの委員達は人間よりもコンピューターを信用してしまう。
サリー機長(トム・ハンクス)もあの時の自分の判断は「間違いではないのか」と自問自答する。そして頭の中で何回もあの場面をなぞる。
しかし、何回考えても彼の結論は変わらない。彼はあの状況下では「あの判断しかない」と確信をもっている。自分を信じられなければこのパイロットと言う仕事は出来ない。果たして彼の判断は本当に正しかったのか・・・。
ネタバレとレビュー
「英雄」であっても世間の風評によっては犯罪者になってしまう・・・恐ろしい。155名誰一人として死なせなかったサリー機長でさえも世間やマスコミの攻撃に追い詰められてゆく。
孤立無援のチェースリー・”サリー”・サイレンバーガー(トム・ハンクス)を支えるのは妻のローリー・サイレンバーガー(ローラ・リニー)と副操縦士のジェフ・スカイルズ(アーロン・エッカート)だけである。
NTSB委員はサリーがミスを犯したと言わんばかりに彼を突き上げる。ところがNTSB委員達も決定的なミスを犯していることをサリーは指摘する。
コンピューターによる飛行シュミレーションには「空港管制官と通信する時間」「人間が状況を把握・判断する時間」「どの行動を取るか決断する時間」が抜けていた。
サリーの指摘通りこれらの時間を35秒と想定(あまりにも短すぎる時間ではあるが)し、飛行シュミレーションをやり直してみた。
その結果 旅客機がバードストライクから35秒後に別の飛行場に行くように行動すると、全てのシュミレーションで墜落となってしまう。
やっとサリー機長の判断の正しさが証明された。そして川の中に落下したエンジンを調べてみると、当初一つのエンジンは生きていたと思われていたことも間違いであることが分かった・・・両エンジンともに死んでいた。
バードストライクの直後は2基のエンジンともに死んでいたことも実証された。サリーはたかだか数十秒で状況判断し、決断を下している。彼はこの決断が出来たのは「42年間の飛行経験」のおかげだと言っている。
コンピューターの方が人間より正確でミスをしないとついつい考える。しかしコンピューターはそれを操作する人々のあくまで「補助」である。操作する人間が間違った数値を入力すれば、間違った結論しか出て来ない。
こんな出来事、つまり過度にコンピューターを信用してしまうことは現実社会にけっこうあるのではないか。そういう意味では人間の直感・経験からくる判断力の正確さ・重要さが再認識された事件だと思う。クリント・イーストウッド監督はこのことが言いたかったのかな・・・。
もの凄く地味で記録映画のようだが、この映画は見終った後から感動がよみがえる不思議な魅力をもっている。ハリウッドの派手な映画の中で「きらりと渋く輝く真珠のような作品」だ・・・こういう映画は近年まれだな。
TATSUTATSU
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