サスペンス

映画「鵞鳥湖の夜」感想・評価:虚無的な世界にあっても逞しく生きる女たち

サマリー


★★★☆☆(お薦め)

2020年9月日本公開の中国製作サスペンスドラマ
監督・脚本 ディアオ・イーナン(薄氷の殺人、鵞鳥湖の夜
出演 ●フー・ゴー(鵞鳥湖の夜
●グイ・ルンメイ(薄氷の殺人、鵞鳥湖の夜
●リャオ・ファン(鵞鳥湖の夜
●レジーナ・ワン(鵞鳥湖の夜

『薄氷の殺人』監督×グイ・ルンメイ出演『鵞鳥湖の夜』予告編

 

中国南部を舞台にした、フィルム・ノワール(虚無的・悲観的・退廃的な犯罪映画)的な暗い映画だ。前作「薄氷の殺人」は息が真っ白に凍る厳冬期の物語だが、今回はうだるような暑い真夏だ。2012年回想も含めて7月17日~7月20日の出来事だ。

「ディアオ・イーナン」

監督・脚本のディアオ・イーナンは前作「薄氷の殺人」(2014年)で第64回ベルリン国際映画祭で金熊賞を受賞している。実力派監督の4作目にあたる。地元中国では大ヒットした。

中国は世界第二の経済大国に上りつめた。しかし、2020年5月28日、李克強首相が「昨年の中国人の平均年収は3万元(約45万円)だった。」「月給1000元(約1万5000円)の人が6億人もいる。」と内情を暴露した。

まだまだ、多くの人が貧しいのだ。大都市は華々しく発展しているが取り残された都市周辺も多い。このドラマの撮影はあれで有名になった、中国中部の大都市「武漢」だ。さらに、この大都市の周辺、旧農村「城中村」が主な撮影場所になっている。

開発に取り残された「鵞鳥湖(がちょうこ)」周辺は、地図にも明確にされていない無法地帯だ。ここにはやくざや娼婦がたむろし、いかがわしい商売が横行、貧しい人々は粗悪な集合住宅に住む。

監督はリアリズムに徹する。過去に実際にあった犯罪を参考にしている。底辺をうろつく虐げられた女、それらの女は男たちを騙し、したたかに生きて行く。決して男と女の恋愛物語ではない、おもちゃにされた女はそれらの男たちを地獄へと導く。

話のスジを少し紹介すると、刑務所から出所してきたチョウ(フー・ゴー)は5年間も妻ヤン(レジーナ・ワン)と息子をほったらかしだ。彼はバイク窃盗団の会合に出席する。

ところがチョウが幹部をしている窃盗団と猫目・猫耳兄弟が仕切る組が縄張り争いでケンカになる。チョウの子分、金髪男がなにあろうか猫耳に発砲してしまう。仲裁に入ったマーの提案で制限時間内に何台バイクを盗めるか競争によって縄張りを決めることになった。

ところが、猫目が卑劣なトラップを仕掛け金髪男を殺害、チョウにも銃弾を浴びせる。深手を負ったチョウはバイクで逃げる途中、誤って警官を射殺してしまう。

警察はチョウの首に30万元(約460万円)の懸賞金をかける。彼を見つけて警察に通報すれば30万元が転がり込んでくる。チョウは「鵞鳥湖」周辺を逃げ回る。そして、逃げきれないことが分かると、自分の妻から警察に通報させ、お金を残してやりたいと思うようになる。

チョウは子分を使って妻ヤンに会いたいと連絡するが、目的の場所に現れたのはリウ(グイ・ルンメイ)だった。果たして彼女は信用できるのか何故妻は来ないのか・・・。

その後のストーリーとネタバレ

警察のリウ警部(リャオ・ファン)は機動隊を「鵞鳥湖」周辺に配置し、その網を徐々に狭めてゆく。チョウは動物病院で傷の手当てをし、その後姿をくらましている。

リウは「鵞鳥湖」で「水浴嬢」と呼ばれる娼婦だ。元締めのホア(チー・タオ)からチョウの妻ヤンを探せと言われる。リウはヤンを見つけ出し、「チョウが会いたいと言っている。」と伝える。

「鵞鳥湖」のワンタン店で落ち合う約束になっていた。しかし、ヤンの周りには私服警官らしき一団が張り込んでいてチョウは近づけない。ヤンは情報を警察にうったのだ。チョウの手下チャンは「自分の首にかかった報奨金30万元をヤンと息子に残したい」とチョウからの伝言を伝える。

これを聞いたヤンはパニックになって発作を起こす。仕方なくリウはヤンの代理として駅でチョウと落ち合う。そして廃屋にチョウを残して二人は別行動をとる。夜が明け、昼頃になってチョウはリウと落ち合い、ボートで岸を離れる。幻想的な暗闇の中二人は体を合わせる。

チョウは「もう逃げるつもりはない、最後の願いは報奨金を妻に残すことだ」と、そして「あんたから妻に報奨金を渡してくれ」と訴える。

リウは手はずを整え、チョウに集合住宅の302号室の鍵を渡す。彼はそこへ向かう。しかし、そこで待っていたのは福目とその手下たちだった。リウはチョウを裏切ったのかそれとも福目の要求に逆らえなかったのか。

チョウはすきを見て手下たちを殺害、部屋から逃走する。そして逃げている最中にリウを見つける。彼女は顔を引きつらせて彼を見る。チョウはそんなリウを連れラーメン屋に入る。そして二人でラーメンをすする、リウは勘定を払うふりをして警察に通報する。

チョウは警官隊に包囲されているのに気づく。部屋から走り出て銃撃戦になるが、チョウは射殺される。警官たちは彼の死体の周りで記念撮影する。大捕物は終了した。

暫くしてリウは警察から現金で30万元受け取る。リウ警部は彼女を車に乗せ銀行へと送る。ところが彼女は銀行をすり抜け、現金の入った袋を大事にかかえ路地に入ってゆく。そこにはヤンがいた。二人が微笑みながら歩いてゆくのをリウ警部は見ていた。

レビュー

暗くて、哀愁を帯びたドラマだが、結局大金をせしめたのはリウとヤンの二人の女たちだ。彼女らは男たちに翻弄されるがしたたかに逆境を切り抜け大金にありつく。しなやかで逞しい女たちを描いて、結末は清々しささえ感じる。

「グイ・ルンメイ」

グイ・ルンメイ(リウ役)は前作「薄氷の殺人」に引き続いてヒロインを演じている。ディアオ・イーナン監督の信頼が厚いのが分かる。ドラマを通じて彼女のけだるいような表情が実にいい。運命を受け入れ、したたかに生きる女たちを監督は描きたかったのか。

「フー・ゴー」

それに対し、男たちの武骨で生き方がへたなこと、対照的だ。パンフレットに寄稿された町山広美さんが言うには、ヒロインのグイ・ルンメイは波瑠、主役のフー・ゴーは吉田栄作によく似ている。確かにその通りだ。

昔の良き日本にもこんな風景があった。グイ・ルンメイが被るつばの広い白い帽子が青空に生えてまぶしかった。

TATSUTATSU

迫り来る嵐

 

 

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