サスペンス

映画「迫り来る嵐」感想・評価:連続殺人犯を追って夢の中をさまよい続けた哀れな男の物語

サマリー


★★★☆☆(お薦め)

2018年日本公開の中国製作サスペンスドラマ
監督・脚本 ドン・ユエ(迫り来る嵐
出演 ●ドアン・イーホン(迫り来る嵐
●ジャン・イーイェン(迫り来る嵐
●トウ・ユアン(迫り来る嵐
●チャン・ウェイ(迫り来る嵐
●チェン・チュウイ(迫り来る嵐

「迫り来る嵐」予告

 

とにかく暗い映画だ。まるで真っ暗な夢の中を漂っているような不思議な魅力がある。何が真実で何が幻想なのか?ポン・ジュノ「殺人の追憶」を彷彿とさせる重厚でスリリングなサスペンスドラマだ。

1997年中国の小さい村で起きた連続女性猟奇殺人事件、国営製鉄所の警備員ユィ・グオウェイ(ドアン・イーホン)は刑事にあこがれ事件に首を突っ込み始める。そして自分の手で連続殺人犯を捕まえようと大それた妄想にのめりこんでゆく。

彼は殺人事件が起こるたびに刑事に取り入り捜査情報を入手する。そして犯人は国営製鉄所の従業員だと目星を付ける。しかしユィは犯人探しに執着するあまり周りが見えなくなってくる。そして予想もつかない悲劇が彼を待ち受ける。

全篇にはうっとおしく雨が降り注ぐ、雨は僕らの心まで湿らせる、監督の作戦なのか。久々に引き込まれる映画を観た。それに、これがドン・ユエ監督の処女作と聞いてびっくり。東京国際映画祭で最優秀男優賞(ドアン・イーホン)、芸術貢献賞を受賞している。

話しのスジを少し紹介すると。刑務所から出てきたユィ・グオウェイは昔を回想する。彼は国営製鉄所の警備員だ。近くで起きた殺人事件の現場に急行する。

そこには上半身裸の凄惨な女性の死体があった。ジャン警部(トゥ・ユアン)によると同じ手口の連続殺人事件だという。ユィは刑事にあこがれジャン警部やその部下リー警官(チャン・チュウイー)に付きまとう。

そして国営製鉄所の従業員の中に犯人がいるのではないかと捜査協力を申し出る。彼は警察の情報をもとに従業員ばかりか町の人間にも聞き込みを始める。

ある日ユィは水商売のイェンズ(ジャン・イーイェン)と知り合い、恋仲となる。そんな時に製鉄所構内で不審な男を見つけ部下のリゥ(チャン・ウェイ)と追いかける。男を捕まえようと階段を上りかけたリゥは誤って転落し頭を強く打つ。

ユィは不審な男を列車の停車場に追い込む。しかし、後ろから男に首を絞められ殺されそうになるが振り払い追いかける。男は列車の間をすり抜け、製鉄所の外へと逃げる。

ユィは男を追って製鉄所に面する道路に出たがそこにはトラックが停まっているだけで男の姿はなかった。製鉄所に戻ってみるとリゥの様子がおかしい、急いで病院に運ぶが彼は脳内出血で亡くなる。

ユィは何としてでもあの男を見つけようと我を忘れてのめりこんでゆく。殺された女性が恋人のイェンズに似ていることを感じ取ったユィは彼女をおとりに使おうと考えるのだが・・・予想もつかない悲劇が待っていた。

その後のストーリーとネタバレ

ユィは恋人のイェンズに水商売を止めて美容院を始めないかと誘う。彼女は大喜びで美容院を始める。そしてユィは斜め向かいの酒場から彼女を監視する。

そこに、かつて婦女暴行事件を起こした製鉄所の元従業員が通い始める。ユィはそいつが連続殺人犯ではないかと後をつけ、調査を始める。

ところが、美容院に置いていたユィの荷物をイェンズが偶然見てしまう。そこには連続殺人事件に関するノートがあった。そして、殺された女の写真とイェンズの写真がはさんであった。彼女はびっくりする、殺された女と自分は良く似ているのだ。

イェンズはユィに問いただす。「殺人犯に私を襲わせたかったの?」と・・・。ユィは彼女に返す言葉もなかった。そして、彼女はユィの目の前で列車に飛び込んで自殺する。ユィはこの出来事で我を忘れる。

彼は調査していた製鉄所の元従業員を原っぱに追い込み、鉄の棒で何度も殴りつける。ユィは駆け付けてきた警官に取り押さえられる。元従業員は重傷でその後寝たきりになってしまう。

ジャン警部はユィに「この男は犯人ではない、あと一歩で連続殺人犯が分かったのに」とつぶやく。それからかなりの年月が経ち、ユィは刑務所から出て来る。

彼はジャン警部からの手紙を受け取り、読んでみるとびっくりすることが書いてあった。連続殺人犯はトラックに轢かれ死んでいたのだ。大昔、ユィが不審な男を追って製鉄所に面する道路に出た時の出来事だった。

彼はトラックが停車しているのを見たが、まさか、犯人がその車の下敷きなっていたとは。殺人現場に残された血液型と轢かれた男のそれは一致した。しかし、頭部の損傷が激しく、その男を特定することは出来なかった。

レビュー

ドン・ユエ監督は「どこにでもいるような人物がその時代の性質によっていかに影響を受けるかを描きたかった」と言っている。

香港返還が近づく90年代後半が舞台になっている。中国社会が激変してゆく。時代遅れの効率の悪い製鉄所はどんどん人員整理され、潰されてゆく。主人公も製鉄所を解雇される。

彼は古い時代に取り残されるが、連続殺人犯を追いかけることによって、現実から逃避し夢を見る。その夢の代償は大きく、彼の人生を暗く変えてしまう。

ダークなサスペンスドラマだが不思議な魅力をはなっている。それは時代に翻弄されても逞しく生きる人々がそこにいると言う事だ。現在、中国をこれだけ発展させた原動力がこの映画から垣間見えた気がする。

TATSUTATSU

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