邦画

映画「空母いぶき」感想・評価:日本国民に戦争と防衛とはどこが違うのか問いかけるファンタジードラマだ

サマリー


★★☆☆(そこそこ面白い)

2019年5月公開の航空機搭載型護衛艦ドラマ
監督 若松節朗(ホワイトアウト、沈まぬ太陽、空母いぶき
原作 かわぐちかいじ「空母いぶき」
出演 ●西島秀俊(Dolls、休暇、ラストレシピ~麒麟の舌の記憶~、劇場版MOZU、クリーピー散り椿蛇のひと空母いぶき
●佐々木蔵之介
●本田翼
●佐藤浩市
●藤竜也

映画『空母いぶき』新予告編

 

かわぐちかいじ作、恵谷治監修のマンガ「空母いぶき」の映画化だ。ドンパチ主体の戦争映画を期待した方にはやや不満かも知れない。自衛隊の防衛思想一点張りのストーリーで国民への配慮が伺われる。戦争映画と言うより「空母いぶき」を舞台にした人間ドラマだ。

この映画で特に強調されるのが「シビリアンコントロール(文民統制)」と「交戦ではなくあくまで自衛権の行使」の2点だ。

「シビリアンコントロール(文民統制)」とは、自衛隊の指揮を執るのは内閣総理大臣や大臣であって、軍人ではないと言う事だ。このため議会や政府関係者が議論する場面は多いが、自衛隊のトップは意図的に出していない。このドラマに出て来る自衛隊の最高位は海将補まで。特に一佐、二佐が指揮官の中心となる。

次に「交戦と自衛権の行使とはどこが違うのか」だ。自衛隊は戦争をするのではなく、あくまで国を守る為の自衛権の行使である。これがくどいほど出て来る。だから相手が攻撃してくるまで待つ、そのために護衛艦が犠牲になったり、戦闘機が撃ち落とされたりする。

ヘリコプター搭載護衛艦「いずも」

原作では自衛隊と中国人民解放軍との衝突が尖閣諸島を挟んでの展開になる。しかし、この映画では、フィリピン海西の「初島」が舞台になり。相手は3年前に建国された架空の国「東亜連邦」になっている。

現在、日本は空母を持っていない。このドラマ「いぶき」のモデルになったのはヘリコプター搭載護衛艦「いずも」だ。将来は空母に改修し、F-35Bが搭載される可能性がある。

「空母いぶき」

ドラマを見ていて感じるのは敵はミサイルや魚雷をバンバン撃ってくる。自衛隊はそれを迎撃用ミサイルなどで撃ち落とすのだが、本当に都合よく迎撃できるのか疑問。それに、本気になって攻撃してくる相手と撃ってくるまで待つ「待機作戦」では交戦する前に戦いが終わってしまう。

味方の潜水艦が敵潜水艦に魚雷を撃ち込まずに体当たりしたり、護衛艦はミサイルを使わずに大砲を敵艦に向けて撃つ。これらは相手の船を沈めて多数の戦死者を出さないための配慮だ。実際の戦いでこんなことは有り得るのか?

それに日本に駐留する米軍の話が全く出て来ない。とにかく、非現実的なストーリーなのだ。あくまで、楽しいファンタジー戦争ドラマだと思って見ることをお薦めする。このドラマを見て、米軍、ロシア軍、中国軍、自衛隊はどう思っているのかな。たぶんコメディだと笑っているかもしれない(それより興味ないだろうね)。

話しのスジを少し紹介すると。国籍不明20隻の漁船が領海侵入し初島に上陸する。海上保安庁巡視船「くろしま」が派遣されるが消息を絶ってしまう。

内閣総理大臣、垂水慶一郎(佐藤浩市)は海上自衛隊を「海上警備行動」のもと現地へと向かわせる。任務にあたるのは日本初の空母「いぶき」を旗艦とし、護衛艦「あしたか」「いそかぜ」「はつゆき」「しらゆき」、潜水艦「はやしお」からなる第5護衛隊群だ(現在、海上自衛隊は第4護衛隊群までしかない)。

第5護衛隊群を統率するのは湧井群司令(藤竜也)、空母「いぶき」の艦長は秋津一佐(西島秀俊)、副長は荒波二佐(佐々木蔵之介)だ。現場に急行する護衛隊群に敵潜水艦がミサイル攻撃する。ほとんどのミサイルを迎撃したが一発が「いぶき」の甲板に被弾する。

「いぶき」は甲板を修理しないと戦闘機が飛び立てない。しかし、艦隊は直進を続ける。果たして彼らを待つのは何者なのか・・・。

その後のストーリーとネタバレ

「いぶき」は甲板に被弾し、この衝撃で湧井群司令が耳に大ケガをする。そして群司令の権限は秋津一佐に移る。第5護衛隊群が直進する先に敵の空母艦隊がこちらに向かってくるのが確認される。敵は3年前に建国された「東亜連邦」だ。

秋津一佐と荒波二佐は防衛大学の同期だ。荒波は戦争は絶対避けるべきと秋津に進言するが秋津は国民を守る為には戦わなければならない時があると譲らない。

初島に向かった偵察機が撃ち落とされ、これによって内閣総理大臣、垂水慶一郎は自衛隊に対し「防衛出動」を許可する。(「防衛出動」とは相手の出方によっては武器の使用が可能になること。過去にはこの「防衛出動」が許可されたことは無い。)

敵空母から発艦した戦闘機が艦隊にミサイルを撃ち込むが駆逐艦によって迎撃され、一機を撃墜する。その時、敵の潜水艦が再び現れ、「いぶき」に向け魚雷が発射される。駆逐艦「はつゆき」によって迎撃されるが一発を撃ち漏らす。

このままでは「いぶき」に直撃すると思われ、「はつゆき」が盾となって「いぶき」を守る。魚雷が「はつゆき」に命中し、激しく炎上する。艦長の瀬戸(玉木宏)は重傷を負う。潜水艦「はやしお」艦長、滝(高嶋政宏)は魚雷を撃たずに敵潜水艦に体当たりし、無力化する。

次に敵の駆逐艦2隻が向かってくる。ミサイル攻撃すれば撃沈出来るが多くの人命が失われることから、駆逐艦「いそかぜ」の主砲を打ち込み無力化する。さらに敵は空母から発艦した10機の戦闘機を放つ。

甲板の修理が終了した「いぶき」から5機のF36が出撃する。敵を4機撃墜したが味方の1機が海に落ちる。そしてさらに数隻の敵潜水艦が現われ魚雷を放ったと思われたがそれは国連同盟国(アメリカ、イギリス、フランス、オーストラリア他・・・・)の攻撃支援だった。敵の潜水艦は全て撃沈され、敵艦隊は初島から撤退してゆく。

内閣総理大臣、垂水慶一郎による各国や国連への支援要請が功を奏したようだ。

レビュー

始めから最後まで「待機作戦」で、領海侵犯してきた敵艦隊を撃退することはできるのか・・・・。結局、最後は国連のもとに集まった他国の軍隊に救われるストーリーになっている。これではあまりに面白くない。

第5護衛隊群と戦闘機による航空戦はCGだと思われるがこの部分のレベルは上がっている。しかし、躍動する「空母いぶき」艦内や戦闘機格納庫、そして戦闘機が次から次へと飛び立つ映像がもっと欲しかった。

指令室セットの中だけの劇では迫力に乏しい。今回、かなり期待して見に行ったが残念ながら平凡な映画になってしまった。寂しいね。

TATSUTATSU

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