サスペンス

映画「空海-KU-KAI-美しき王妃の謎」感想・評価:楊貴妃の死の真相は何だったのか

サマリー


2018年日本公開の中国・日本合作の歴史ヒューマンドラマ
監督・脚本 チェン・カイコー(北京ヴァイオリン、空海-KU-KAI-美しき王妃の謎
原作 夢枕獏「沙門空海唐の国にて鬼と宴す」
出演 ●染谷将太(ヒミズ、寄生獣、バクマン。、聖の青春、空海-KU-KAI-美しき王妃の謎
●ホアン・シュアン(空海-KU-KAI-美しき王妃の謎
●阿部寛(大帝の剣、自虐の詩、トリック劇場版、テルマエ・ロマエ、麒麟の翼、空海-KU-KAI-美しき王妃の謎
●チャン・ロンロン(空海-KU-KAI-美しき王妃の謎
●松坂慶子(青春の門、蒲田行進曲、死の刺、空海-KU-KAI-美しき王妃の謎

「空海 -KU-KAI- 美しき王妃の謎」予告

RADWIMPSによる主題歌「Mountain Top」

Mountain Top [映画『空海―KU-KAI―美しき王妃の謎』主題歌]

 

映画の予告編を見ると「日中共同製作史上最大のプロジェクト」「監督は中国の巨匠チェン・カイコー」「製作費150億円、5か月間の中国ロケ」「6年かけて再現された長安」「日中のオールキャスト集結」・・・と凄い宣伝文句が並ぶ。中国では一足先に公開され大ヒットを飛ばしている。

この凄さにつられて昨日映画を観に行ってまいりました。確かに目を奪われるような絢爛豪華で幻想的な映像、巨大なセット、膨大なエキストラによる群衆・軍隊、CGを多用したファンタジーワールド、楊貴妃の美しさ・・・料金の価値はあると思う。僕にはまあまあ面白かった。

ただ、観客席を見渡すとご年配の方が多い、若い方にはあまり人気が無いようだ。それに中国で受けるように作られている(日本人にはきらびやか過ぎる、まるで歌舞伎とか京劇を見ているようだ)。また中国の歴史に興味がないと何のことやらよく分からない。

物語は楊貴妃の死の真相を追い求めるミステリーだ。空海(染谷将太)と白楽天(ホアン・シュアン)がシャーロック・ホームズとワトソンのように謎を解きながら真実にせまる・・・これがこの映画のキモだ(東洋の「ダ・ヴィンチ・コード」と呼ばれる)。

そもそも楊貴妃とは中国唐代の皇妃として有名だ。貴妃とは皇妃の順位を表す称号で、本名は玉環である。当時の皇帝、玄宗の寵愛を受ける。さらに楊一族の重用が原因となって国が傾いてゆく。

古代中国の4大美人(西施、王昭、貂蟬、楊貴妃)の一人で、豊満で音楽や舞踏の才能を有していた。国が傾いたことによる責任を取らされ縛り首にされたと言い伝えられている。

当時の美人の基準は今とは異なるらしい。今は欧米的な目元くっきり、鼻が高いことが美人の条件だが。唐代では豊満な肉体と色々な分野で優れた才能(音楽、舞踏、詩など)を持った女性が好まれたようだ。

空海とは平安時代初期の僧で弘法大師とも呼ばれる。真言宗の開祖で804年に遣唐使の留学僧として唐に渡っている。唐で密教を習得して日本に帰国する。

白楽天は白居易のことで、空海よりも2才年上になる。彼は楊貴妃のことを調べ、彼女の伝記「長恨歌」を書いている。空海と白楽天は805年に長安に居て、ひょっとしたら親交があったのかも知れない。

原題は「Legend of the Demon Cat(妖猫の伝説)」だ。悪魔のような邪悪な猫が出てきて災難をまき散らす。この猫には誰かの怨念が乗り移っているのか、その起点となる物語は30年前にさかのぼる。

空海と白楽天は30年前の出来事を時間を遡るように時を超越し、まるでその時代に生きているかのごとく体験する。その時代は玄宗皇帝のピーク時で豪華な「極楽の宴」が執り行われている。

玄宗(チャン・ルーイー)、楊貴妃(チャン・ロンロン)、李白(詩人:シン・バイチン)、安部仲麻呂(遣唐使:阿部寛)、高力士(玄宗の腹心、宦官:ティアン・ユー)などの息遣いが聞こえる。

日本語吹き替え:
白楽天(高橋一生)
楊貴妃(吉田洋)
玄宗皇帝(イッセー尾形)
白龍(東出昌大)
丹龍(筧一郎)

そこに玄宗が可愛がっていた黒猫がいた。この猫が30年も生きているのか・・・。楊貴妃は目を奪われるほど美しい、しかし不穏な空気が漂い、暗黒の時代が来ようとしていた。それを察知していた安部仲麻呂は楊貴妃を日本に連れて帰ろうとするのだが・・・。

ストーリー

今から1200年以上前の中国の長安にて不気味な事件が発生する。役人の陳雲樵(ちんうんしょう:チン・ハオ)の妻 春琴(しゅんきん:キティ・チャン)の前に不気味な黒猫が現われる。

黒猫は言葉をしゃべり、春琴に柳の根元を掘ってみろと言う。猫の言うとおりにしたらカメに入った金貨が出てきた。陳雲樵は喜びこれを遊びに使うが、それによって身を持ち崩して行く、そして春琴もおかしくなってゆく。

その時 王宮では皇帝が奇病にかかり虫の息であった。そこに日本から来た僧 空海(染谷将太)に法術によって病を治せとの沙汰が下るが時すでに遅く、皇帝は亡くなってしまう。目の前で皇帝の不審な死を見た空海は、床に猫の毛と足跡を見つける。同時に記録係の白楽天(ホアン・シュアン)も死因は病気ではないと感じていた。

白楽天は役人を辞め、李白を超える詩人を目指していた。現在執筆中の玄宗皇帝(チャン・ルーイー)と絶世の美女 楊貴妃(チャン・ロンロン)の悲劇を描いた「長恨歌」を執筆中であったが、なかなか筆が進まなかった。

そんな白楽天は空海と出会い、親交を深めてゆく。白楽天は胡玉楼(歓楽街の店)へと空海をさそった。そこで妖猫に操られた女が玉連と言う女に毒を盛る。玉連の体はみるみる腐りかけたが、たまたま居合わせた空海の法術によって事なきを得る。空海は皇帝を殺した同じ猫の仕業だと役人に話す。

役人は空海と白楽天に妖猫の探索を依頼する。調べてゆくにしたがって皇帝の死と陳雲樵に起こった悲劇が30年前の楊貴妃の死と関係があることを掴む。

陳雲樵の屋敷に出向いた二人は妖猫に憑りつかれた春琴から不思議な話を聞く。黒猫は玄宗皇帝の飼い猫で、陳雲樵の父・陳玄礼によって生き埋めにされたと話す。空海と白楽天は30年前の事が書かれた遣唐使 安部仲麻呂の日記を彼の側室 白玲(松坂慶子)から手に入れる。

その日記によると次のようなことが書かれてあった。楊貴妃を我が物にしようとした将官・安禄山(ワン・デイ)が謀反を起こす。玄宗皇帝は10万の部下とともに都を追われる。さらに近衛兵であった陳玄礼(陳雲樵の父)が皇帝を裏切る。

陳玄礼は国が傾いた原因は楊貴妃にあるとし、貴妃の命を要求する。玄宗皇帝は楊貴妃を殺すことは出来ないと、困り果て側近と相談するのだが・・・。

ネタバレ

幻術師 黄鶴(リウ・ペイチー)は首の横に針を刺せば仮死状態に出来ると言う。彼には丹龍(オウ・ハオ)、白龍(リウ・ハオラン)の二人の弟子がいる。彼の弟子の一人を実験代として針を打ち仮死状態とする。これを見た楊貴妃はこの計画を了承する。

計画は上手くいった、楊貴妃は首をくくって死んだことになっていた。楊貴妃は石棺の中に埋葬された。ところがこれは玄宗皇帝と黄鶴の策略であった。仮死状態は数日しか持たない、石棺の中で息を吹き返した楊貴妃は石のふたを指でかきむしり死んでしまう。

白龍が駆け付けた時には既に亡くなっていた。白龍は極楽の宴で楊貴妃を一目見てから彼女の虜になっていた。石棺を開けると眠るように死んでいた楊貴妃の体が腐り始めていた。彼女は毒薬(体が腐る妖術)まで飲まされていたのだ。

白龍は楊貴妃の体内の毒を口移しで吸い取る。今度は自分の身が腐り始める。彼は最後の力を振り絞って自分の魂を近くにいた皇帝の黒猫に乗り移らせる。

そして30年後にこの妖猫による復讐劇が始まったのだ。しかし空海と白楽天はこの謎を解いて墓に駆け付け、石棺のふたを開けて中を見るが楊貴妃の死体は見当たらない。

そこに今は瓜翁と呼ばれるかつての丹龍が現われる。彼は楊貴妃と白龍の体を氷室に移し、遺体を保存していた。楊貴妃の遺体は今でも生きているように美しかった。そして復讐を終えた妖猫は力尽きて死ぬ。

その後白楽天は楊貴妃の伝記「長恨歌」を書き上げる。そして大師(火野正平)の教え通りに空海は、青龍寺で密教を習得し日本に帰国する。

レビュー

物語は玄宗皇帝の唐時代、寵愛した楊貴妃によって国が傾いたと記録に残されている。楊貴妃は縛り首にされたとされているが真実はどうなのかよく分からない、時の権力者は富を集中させ、信じられないほど豪華な生活を営む。

従って一人の女性によって国が滅んだとは考えにくいが、1908年清を操っていた西太后は溥儀(ラストエンペラーで有名)を皇帝に即位させる。清は滅ぶがその原因の一つに西太后の金遣いが荒さが指摘されている。国の予算を使って贅沢の限りを尽くしたらしい。

かなり前になるが北京を旅行したときに紫禁城(故宮博物館)を見学したことがある。この巨大な木造建築群には部屋が9999室あると聞いた。1万と言う数字は「神」の数字であることから1部屋少ない部屋数にしたらしい。古びているがかつては超豪華だったと思われる。

空海と白楽天は805年に長安に居たことが記録に残っている。この時代の長安は最先端の都市と言われ空海を魅了したのではないかと思う。これらの史実を結び付け、楊貴妃の死の真相をドラマとしているのは面白い。

安部仲麻呂は奈良時代における遣唐使として留学する。そして唐の国家試験に合格し高官にまで登ったと言われている。今から考えると大変な秀才だね。彼は日本に帰国しようとしたが色々な事情でその願いは叶わず73才(770年)で亡くなっている。中国史上、最高の詩人李白と親交を重ねたことが記録に残っている。

このドラマで、安部仲麻呂は楊貴妃に思いを寄せ、日本に連れて帰ろうとしたシーンがある。皇帝の奥さんを横取りしようとすることが本当に出来るのかなと思うが、やはりドラマだからね。

色々な当時の出来事に思いをはせこの映画を見ればさらに面白さ倍増だ。中国の歴史や旅行が好きな人には堪えられない作品だね。

 

TATSUTATSU

映画「犬猿」感想・評価:クソ真面目な弟、超狂暴な兄、賢いがブスの姉、美人だがアホの妹がバトルを繰り広げる前のページ

映画「シェイプ・オブ・ウォーター」感想・評価:人間と半魚人の究極の愛は許されるのか次のページ

関連記事

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

人気記事

アーカイブ

最近の記事

2024年3月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031
  1. ホラー

    映画「サスペリア(2018年)」感想・評価:暗闇から人間社会を牛耳る恐怖の魔女た…
  2. 歴史映画

    映画「ノア約束の舟」感想・評価‐太ったノアはすぐにダイエットだね
  3. コラム

    映画「アバウト・タイム」にみる充実した人生を送る為の時間の使い方
  4. ヒューマンドラマ

    聖職者による幼児性的虐待を描いた映画「スポットライト 世紀のスクープ」感想・評価…
  5. SF

    映画「ターミネーター:ニュー・フェイト」感想・評価:シュワちゃんとリンダの老人パ…
PAGE TOP