コメディ

映画「フェアウェル」感想・評価:中国とアメリカの慣習のギャップに悩むヒロイン

サマリー


★★★☆☆(お薦め)

2020年10月日本公開のアメリカ製作ハートフル・ヒューマンコメディ
監督・脚本・原作 ルル・ワン(フェアウェル
出演 ●オークワフィナ(ジュマンジ/ネクスト・レベルフェアウェル
●ツィ・マー(メッセージフェアウェル
●ダイアナ・リン(フェアウェル
●チャオ・シューチェン(フェアウェル

泣ける…『フェアウェル』日本版予告編

 

「フェアウェル」とは「お別れ」或いは「お別れの会」のことだ。この映画を見ていて感じるのは、中国の慣習がけっこう日本と近いことだ。それに中国の漢字に日本人は親しみを感じる。その逆もあり得る。

「ルル・ワン監督」

日本に中国人観光客が押し寄せるのは安近短(安くて、近くて、短期間で旅行が楽しめる。)ばかりではなく、「漢字」や「日本文化」に親しみを感じているからではないのか。

物語を通して、東洋と西洋の文化の違いを面白おかしく対比している。西洋では個人主義が台頭しているけど東洋では今だに家族主義が続いている。家族が支え合って生きているのが微笑ましい。舞台は中国・長春だ。

「長春市」

墓参りのシーンが出てくる。家族一同で亡き祖父の墓参りだ。線香をあげたり、墓にお酒を撒き、お菓子や御供え物を置く。花をたむける(最近では花が盗まれるから、花ビラをほぐして墓に撒く。)。さらに紙で作ったスマホや服などを墓の前で燃やす(亡くなった人の魂が冥途で困らないように)。そして家族一人ひとりの願いが叶うようにお墓に頭を下げる。

なにか日本とそっくりではないか。でもアメリカ人が見たら「なにこれ!」って思うかもしれない。監督のルル・ワンの自伝的物語・実話がベースになっている。主演のオークワフィナがゴールデングローブ賞と主演女優賞を獲得している。

一族の中心的な存在、祖母ナイナイ(官話で祖父方の祖母を意味する言葉)がステージ4の肺がんを患い余命3か月だ。でもナイナイには「良性腫瘍」だと嘘をついている。日本に住む伯父の息子ハオ・ハオ(チェン・ハン)の結婚式を中国の長春で挙げると一族郎党が集まる。「おばあちゃんの秘密のお別れ会」も兼ねてだ。

中国ではほとんど「がんの告知はしない」・・・死ぬまで恐怖を与えるよりも、知らない方が本人にとっては幸せだと考えているからだ。その通りだと思うが日本では「告知」するのが一般的になっている。嘘をついてもバレるからだ。日本はかなりアメリカナイズされている。

物語のスジを紹介すると。ビリー(オークワフィナ)の父ハイヤン・ワン(ツィ・マー)と母ルー・チアン(ダイアナ・リン)はニューヨークから中国・長春に結婚式のため旅立つ。ビリーを残したのは「嘘」がつけないからだ。

でもビリーは後を追って長春に行く。びっくりしたナイナイは温かくビリーを迎える。彼女は沈んだ顔をしている。ナイナイは時差ぼけだと気遣う。夕食が終わってホテルに戻る。ビリーは母に「ナイナイに告知すべき」と主張する。でも母はそれがいいこととは思われないと諭す。

父の兄の伯父ハイビン(ジャン・ヨンポー)はビリーに絶対「告知」してはいけないと念を押す。ナイナイはまだ元気そうだ、自己流の健康体操をビリーに教える。結婚式は3日後だ、ナイナイは結婚式の準備を取り仕切りあれこれと注文を出すのだが・・・・。

笑って、泣いての心温まるホームドラマだ。現在米中貿易戦争の真っただ中だが、こんなほっこりする映画で心を癒してはどうか。

その後のストーリーとネタバレ

ところがナイナイの体調が急に悪化する。ナイナイの妹、大叔母(ルー・ホン)からの連絡でビリーをはじめ家族が病院に駆けつける。主治医の話ではがんが進行しているとのことだ。ビリーは主治医に「がんを告知しなくてもいいのか」と尋ねる。医師は「中国では知らせません。患者を傷つけないためのいい嘘です」と答える。

ナイナイの夫がガンになった時、彼女は死の直前まで黙っていたと大叔母は話す。そんなことから家族は診断書を「良性腫瘍」と書き換えてナイナイを安心させる。アメリカでは本人に告知しないのは違法だが、ここ中国では個人の命も家族の一部だという考え方だ。だからナイナイに告知しても誰も喜ばない。

ビリーは中国で生まれ、アメリカに移住し2つの文化を経験している。彼女にとっては「ナイナイに対して不誠実だ」と悩む、そしてその葛藤を両親にぶつける。

ハオ・ハオとアイコ(アオイ・ミズハラ)の結婚式が盛大に始まる。多くの知り合いたちが結婚式に招待され、盛り上がる。でもナイナイの家族は複雑だ。彼女の秘密の送別会も兼ねているからだ。家族は笑ったり、涙を流したりと複雑だ。でもナイナイは大満足している様子だ。

結婚式が終わる。ナイナイは孫のビリーを一番可愛がっている。ビリーはニューヨークで学芸員になることを目指している。でも不合格通知が届いたと泣きながらナイナイだけに打ち明ける。彼女は「人間の価値は、何を達成したかじゃないの」「それまでの過程が大事なの」と慰める。

名残惜しいが家族はそれぞれの国へと帰国の途に就く。ニューヨークに戻ったビリーは気持ちが吹っ切れ、新たな気持ちで再スタートを始める。

それから6年も経つが、ナイナイは今でも健在だ。

レビュー

映画の中に雀が出てくる。ニューヨークのビリーの部屋に雀が来る。そして中国の彼女が泊まった部屋にも雀が来る。雀は「鳳凰のヒナ」と言われることがある。また、害虫を食べてくれる益鳥だ、縁起がいい。

ビリーにとって、雀は「神」の使いなのか、何かの幸運を呼び込む前兆なのか。彼女はニューヨークで殺伐とした生活を送っている。自分は何のためにここにいて何を目指すのかと悩む。

「幸運の白い雀」

でも、彼女は中国に行ったことによって、自分のルーツを再確認することが出来た。そしてナイナイに会って家族の絆の大切なことを思い知る。ニューヨークに戻って自分の暗い気持ちが吹っ切れたことを知る。この映画は中国とアメリカの異文化の対比だけのドラマではない。ビリーの再出発の物語でもある。

現在アメリカでは中国人を排斥する法案が成立しつつある。中国との経済戦争の真っただ中だ。アメリカは1882年に中国人排斥法を成立させた。しかし、この法律は1943年に廃止されている。しかし近年、習近平政権になって「中国の夢」を実現させようと彼らは激しい闘争を世界中で起こしている。しかもコロナの発生だ。

「中国の夢」とはアメリカを超えた「超大国」になることだ。そして中国人の富裕層はアメリカやカナダに移住し、そこの国籍を取ることがステイタスだ。しかし、アメリカではトランプ政権がこれに立ちふさがる、また1882年と同じようなことが起きようとしている。

果たしてこの戦いはどこまでエスカレートするのか。苦労しているのは中国系アメリカ人だ。暗い世の中になったものだと最近感じるね。

TATSUTATSU

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ジュマンジ/ネクスト・レベル

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