ヒューマンドラマ

映画「PLAN 75」感想・評価:自分の死は自ら選択してもいいのかそれとも天命を全うすべきか

サマリー

 


★★★☆☆(お薦め)

2022年6月17日 日本公開 日本・フランス・フィリピン・カタール合作 ヒューマンドラマ
監督・脚本 早川千絵
出演 ●倍賞千恵子
●磯村勇斗
●たかお鷹

倍賞千恵子主演映画『PLAN 75』予告編【2022年6月17日公開】

 

僕らは自分の意志で生まれてきたわけではない。そして死ぬときも自由意志では死ねない(自殺は別・・・周りに迷惑をかける)。この映画では75才以上の高齢になれば自分の意思で死ぬことが選択できる。つまり、国が定めた「安楽死制度」を活用できると言うことだ。国が死んだ後も責任をもって全てを処理してくれる。

この社会背景として、若者による老人狩りが頻発する。若者は「何にもしない、或いは何にもできない老人達が税金を食いつぶすのはおかしい」と考える。自分たちが稼いだ金で奴らがのうのうと生きているが許せないのだ。

僕はジジイだ、でも70才まで働いてきた。ジジイは「うるさい」「きたない」「くさい」「ゆうことをきかない」と嫌われる。最近特に、世の中は老人に冷たいと感じることが多くなってきた。町を歩くと分からないことだらけだ、ATMが使えない、パソコンが苦手、スマホは使いこなせない、次から次へと移行される新たなシステムに適応できない。

歳をとってくると感じるのは体の衰えだ。僕は超高齢とは言えないが、下血して死にかけたり、11時間にわたる心臓手術も受けた。病院に行くたびに、新たな病気と弱点が明らかになる。

直近では帯状疱疹、痛風、花粉、腎臓の衰え、さらに目や耳・歯がやられてくる。無理をすれば足腰が痛くて2、3日は動けない。こんな状態でこれから生きてゆけるのかと考えさせられる。

この映画で描かれる「安楽死制度」は「PLAN75」と呼ばれる。市役所の窓口に行って申し込めばそれで手続き完了だ。支度金10万円がもらえる。プランのコーディネーターと電話で話が出来、順番が回ってくるまで申請者の心のケアを行ってくれる。

ところが土壇場になって止める人が多い。これでは「安楽死制度」の意味がない。コーディネーターたちは止めないように細心の注意をはらって老人たちをあの世に送り込まねばならない。

順番が来ると申請者たちはある場所に行き、カーテンで仕切られたベッドに横になる。嘔吐止めの薬を飲み、酸素マスクからガスが流され、数分後には静かに息を引き取ってゆく。

遺体は身ぐるみはがされ焼却処分だ。窓口は役所だが、最後の処理は下請けが請け負う。当然のことながらこんな仕事を請け負う業者は少ない、したがって廃棄物処理業者が、廃棄物や、犬猫の死体などと一緒に焼却する。死んだあとは人権などない、「生ごみ」なのだ。

話のスジを少し紹介すると。角谷ミチ(倍賞千恵子)はもう80才近い、仲間の老人たちとホテルの清掃係として働く。ところが仕事中に仲間の一人が突然倒れて亡くなる。ホテルは「高齢の女性を働かせるとはけしからん」との投書を利用して彼女らを全員解雇する。

角谷ミチは収入がたたれ、次の仕事を探し回るが道路工事の誘導係くらいしか見当たらなかった。親しい友人宅を訪れると、玄関から激しい異臭が漂っている。中に入ってみると彼女は孤独死していた。

さらに追い打ちをかけるようにアパートから立ち退きを要請される。理由は高齢者に貸したくないようだ。ミチは働き口がなく、友人も身寄りもいない、アパートも暫くして出て行かなければならない。今まで真面目に生きてきたのに・・・全てに絶望し「PLAN75」に応募してしまう。

それから彼女の唯一の楽しみは、担当のコーディネーターとの会話だ。孫のような彼女と話すことだけが救いだ、そして自分の順番が回ってくる・・・彼女は「安楽死」を受け入れてしまうのか。

あの清純派女優、倍賞千恵子が老体をさらけ出して迫真の演技を行う。彼女は現在81才だ。この年齢でこれだけの演技が出来るのだと改めて彼女の実力に脱帽する。

また、「PLAN75」を推進している市役所の窓口担当者 岡部ヒロムを演じているのが磯村勇斗、彼もじつにいい。彼は「PLAN75」の立て看板を設置している時に、腐ったトマトを投げつけられる。この制度に懐疑的になってゆく。このトマトを投げたのは僕らのような視聴者かもしれない。

この映画を見てSF映画「ソイレント・グリーン」を思い出した。この映画には「ホーム」と呼ばれる「公営安楽死施設」が出てくる。ここに行く者たちは毒薬を飲まされ、目の前に美しい自然の動画を見せられ、ベートーベンの「田園」を聞きながら息を引き取ってゆく・・・。

最後に「PLAN75」は物凄く暗い映画だ。くれぐれも落ち込んでいる時には見ない方がいいかもしれない。僕も2、3日立ち直れなかったからね。

TATSUTATSU

 

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