ミステリー小説

ミステリー小説「自然と一体化する恐怖」自然の中に溶け込み自分を一瞬見失ってしまう怖さ

ストーリー

 


 

日々、暮らしにくくなっている昨今、何によりどころを求めればよいのか。何もしなければ時間だけが過ぎてゆく。かといって、自分にノルマを与えすぎるとメンタルに来てしまう。そんな時の箸休めに「寝る前の5分間で読むチョイ恐ミステリー」でものぞいてみて。

「シャーマニズム」と言う言葉をご存じか。「自然界には神々や霊が存在し、人間と共生している。」「シャーマン(呪術師)は霊力によって神々と人間をつなぐ」そして「その力を病気の治療・予言・悪魔祓いなどに使う」。

僕は今から50年以上前に不思議な体験をしている。長野県のある市に住んでいた。ここは海抜400mもある。だからちょっと小高い丘を登るだけで簡単に1000mを超えてしまう。頑張れば2000mの山も楽ちんだ。

冬は寒いが夏は涼しい。空気と水がきれいで緑が多い。ここに住んでいれば長生きできそうな気がする。産業は少ないが森に囲まれ自然が美しい・・・野生動物も多い。

僕は夏になるとアパートから歩いて田んぼに行く。そこのあぜ道に腰を下ろし夕暮れを待つ。そうすると、「蛍」が光りだす。「蛍」は時間とともに増えてゆき、乱舞が見られる。自分が蛍に囲まれると別世界に来たような気がする。

初夏の僕の習慣だ。でも今日は田んぼではなく近くの川に行った。川幅は広いが水が少ない。川の乾いた小石の上に寝転んで空を見る。雲一つない満天の星空だ。星の瞬きの中に、流れ星、人工衛星が見える。僕は時を忘れて見続ける。

その時、星が僕に向かって降ってくるような錯覚に陥る。そしてあたり全体の自然が僕に覆いかぶさるように包んでくる。物凄く心地いい。いつの間にか僕は空中を漂っているような感覚になる。

川の上を飛んでいる。暫く漂い、上空から川を見る。そして地平線の彼方に光を見た。僕はそこに向かおうとする。光はどんどん大きくなる。でもそれに比例して何故か恐怖心が大きくなる。

光の中に何かが見えた時、僕は恐怖のあまり声を出した。そして目覚めた・・・自然と一体化して眠っていたのだ。あたりは真っ暗だ、時折蛍が舞ってくる。僕は懐中電灯を取り出し、急いでアパートに戻った。

今考えると何故、恐怖を感じたのだろうか。あの光の先に行ってしまうと自分の未来を見てしまう。或いは、記憶にはないがチラッと「自分の未来を垣間見た」のかもしれない。20才くらいの僕が未来を知ってしまうのは恐怖以外何物でもない。

もう一つ紹介しよう。2000mほどの山を真冬に登った。充分な装備をして日帰り登山だ。出発が遅れたため、山の頂上付近に来た時には午後2時くらいをまわっていた。冬山は物凄くきれいだ。人間にケガされた痕跡が全くない。

ところが風が出て吹雪いてきた。前方が見にくい・・・あと100mほどで頂上だ。僕は無心に登る。その時、前方から登山者がこちらに来るのが見え、はっと我に返った。

雪はもう胸ぐらいまであった。その時、「死の恐怖」を感じた。吹雪はますますひどくなる。僕は頂上を諦め、急いで下山した。あと少し登っていたら、雪に埋まって凍死していたかもしれない。

自然を軽視しているわけではないがいつもハイキングのように登っている山なのだ。天候によってこれだけ豹変するとは・・・自然の恐怖を感じた。

山には女性の神が宿っていると言われている。あの時頂上付近ですれ違ったのは人間なのか女神なのか。自然と一体になった時、頭の中に何かが入ってくる。シャーマンはその「何か」をお告げとして人々に繋げる。僕はその「何か」を自分の中にとどめる。

僕は友人の顔に大きなアザを見つけた。彼は登山中に「落石」を顔に受けて滑落しそうになったと話してくれた。よく山の事故で何人かのパーティのうち1名が亡くなることがある。また、雪崩に巻き込まれて死ぬ人がいる。山の神を怒らせたのか、それとも好かれて放してくれないのか・・・。

僕が自然と一体化して見た未来は記憶の中に今でもある。その未来はレールのようなものかもしれない。そして僕はそのレールの上を歩み続ける。

時々、会ったことが無い初対面の人に懐かしさを覚えたり。初めてきた場所なのに、前にも来たような気がするときがある。これらはあの20才の時に体験した未来の映像かもしれない。

TATSUTATSU

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