SF

映画「ブレードランナー2049」感想・解説:デッカードがレプリカントかどうか徹底解説する


サマリー

2017年10月日本公開のアメリカ製作近未来SF映画(サイバーパンク)
製作総指揮 リドリー・スコット(エイリアンブレード・ランナーブラック・レインブラックホーク・ダウンプロメテウスエクソダス:神と王
監督 ドゥニ・ヴィルヌーヴ(灼熱の魂、プリズナーズ、複製された男ボーダーラインメッセージブレードランナー2049
原案 フィリップ・K・ディック「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」
出演 ●ハリソン・フォード(スター・ウォーズシリーズブレードランナー、インディ・ジョーンズシリーズ、ブレードランナー2049パワー・ゲームアデライン
●ライアン・ゴズリング(きみに読む物語、ドライヴ、ラ・ラ・ランドブレードランナー2049
●ロビン・ライト(ドラゴン・タトゥーの女コングレス未来学会議誰よりも狙われた男エベレスト3Dブレードランナー2049
●ジャレッド・レト(ファイト・クラブ、パニック・ルーム、スーサイド・スクワッド、ブレードランナー2049
●アナ・デ・アルマス(ブレードランナー2049

映画『ブレードランナー2049』日本版予告編

 

1982年にサイバー・パンクの草分け「ブレードランナー」が公開されて、実に35年後にこの続編「ブレードランナー2049」が作られた。はっきり言って「生きててよかった」と思うほどの出来栄えで魅了された。

前作のテイストを保ちながら、スタイリッシュでクールな映像、どんでん返しのストーリー、音楽もヴァンゲリスを彷彿とさせる哀愁を帯びそれでいて力強いサウンド。見たことのない近未来の情景を垣間見させてくれる。

地表を覆うソーラーパネル、空にそびえる過密都市、地球温暖化によって海面が上昇し都市を守る防波堤、荒廃したオレンジ色の砂漠、すし詰めの歓楽街、ゴミの山の貧民街・・・。

主役は最高性能のレプリカント「ネクサス9型」K(ライアン・ゴズリング)だ。彼は他のレプリカントと異なり人間的な感情を持っている・・・何故なのか。背景には「ネクサス8型」を中心とするレジスタンスが存在する。

レプリカントと人間の違いは「子供を産める」かどうかだけだ。人間とレプリカントは危うい均衡を保って共存している。ところがレプリカントに「子供を産める」能力が備わってしまえば、バランスは崩れ戦争になる。

天才タイレルが産み出した「人工子宮」を持つレプリカント、それを再現させようとあがくウォレス(ジャレッド・レト)。まるで「猿の惑星」のようにレプリカントが人間に取って代わるのか。シリーズ化されそうな雰囲気を持った結末にも目が離せない。

難点を言えばブレードランナーファンには分かり易いが、初めての方には少々複雑でスジが分かり難いかも知れない。予備知識を簡単に解説すると。

 

おさらい

2019年地球環境は破壊され、富裕層は他の惑星に移住している。地球に残された住民は酸性雨降り注ぐ過密都市ロサンゼルスに押し込められるように生活していた。

ブレードランナー(1982年)予告

BD【予告編】『ブレードランナー ファイナル・カット』

宇宙開拓の最前線では遺伝子工学で作られたレプリカント(人造人間)が人間の奴隷として危険な任務に従事していた。彼らは生まれて数年すると自我に目覚め宇宙基地から脱走して生まれ故郷の地球に戻ってくる。

タイレル社が製造する「ネクサス6型」レプリカントは体力・知能共に人間を上回るが、彼らの寿命は4年しかない。特殊な試験(フォークト=カンプフ検査)をしないと人間と区別がつかない。

脱走してきたレプリカントを処分(殺害)するのがブレードランナーと呼ばれる専任捜査官である。ブレードランナーであるリック・デッカード(ハリソン・フォード)は4名のレプリカントを処分するが、「ネクサス7型」と思われる試作レプリカントのレイチェル(ショーン・ヤング)と逃亡する。

その後タイレル社は「ネクサス8型」と呼ばれる寿命に制限のないレプリカントを製造する。そして人間と識別しやすいように製造ナンバーなどが書き込まれた眼球が移植されている。

ブレードランナー ブラックアウト2022のショートアニメ

【渡辺信一郎監督による前奏アニメ解禁!】「ブレードランナー ブラックアウト 2022」

その後2022年にブラックアウトと呼ばれる大停電が起きる。これによって世界中の電子データーが失われる。この大惨事はレプリカントによって引き起こされたと風評が流れレプリカントの製造は禁止されてしまう。(「ネクサス8型」レプリカントの所在が不明となる。)

2036年:ネクサス・ドーン レプリカント禁止法の破棄と「ネクサス9型」の製造

【『ブレードランナー 2049』の前日譚】「2036:ネクサス・ドーン」

天才科学者ニアンダー・ウォレス(ジャレッド・レト)が開発した遺伝子組み換え食物によって長年の飢餓が解消される。ウォレスはタイレル社を買い取り、レプリカント禁止法を破棄させ、人間に従順な「ネクサス9型」を製造する。

ロサンゼルス警察(LAPD)に所属する「ネクサス9型」のブレードランナーK(ライアン・ゴズリング)は「ネクサス8型」を見つけ解任(殺害)させるのが仕事だ。彼は製造型番のKと呼ばれるが、ジョーと言う名前も持っている。

2048:ノーウェア・トゥ・ラン (サッパー・モートン正体表す)

バウティスタがレプリカントに!短編『2048:ノーウェア・トゥ・ラン』本編映像

ストーリー

今回もいつもの通り「ネクサス8型」であるサッパー・モートン(デイヴ・バウティスタ)を解任したKは彼の敷地から人骨を見つける。人骨はケースに入れられ枯れた大木の根元に埋葬されていた。

その人骨には製造ナンバーが印字されていて、しかも子供を産んだ形跡がみられた。この骨の人物は誰なのか、レプリカントが子供を産むとは・・・。Kの上司ジョシ警部補(ロビン・ライト)は関係者と子供を探し出し抹殺しろとKに指令を出す。

ウォレス社を訪問したKはラヴ(シルヴィア・フークス)と言う「ネクサス9型」レプリカントに合い、タイレル社の情報から大昔のブレードランナー リック・デッカードが浮かび上がる。

Kはサッパーの農場を再調査すると枯れた大木の根元に「6.10.21」と彫られた数字を発見する。これは彼の生年月日(2021年6月10日)と偶然にも一致する。

Kは激しく動揺する。彼は人間にもレプリカントにも心を開かない、唯一AIのジョイ(アナ・デ・アルマス)だけが心の支えだ。彼は自分が埋葬されたレプリカントの子供ではないのかと悩み、自分探しの旅を始める。

果たしてKの記憶は本物なのか、レプリカントが生んだ子供はKなのか或いは別にいるのか、リック・デッカードとの関係は・・・。

その後のストーリーとネタバレ

Kはロサンゼルス警察のDNA保管庫から2021年6月10日生まれのデーターを調べ上げ、ある孤児院を見つける。そこでは多くの子供たちが奴隷のように働かされていた。

過去の子供たちの資料を探してみたが2021年6月10日生まれのページだけは破り取られていた。Kはこの施設で見覚えのある風景を見る。彼は木彫りの木馬をガキ大将に取られまいと、ボイラー室の灰の中に隠した記憶があった。

そこを探してみると布にくるまれた木馬があった、木馬の足の裏には「6.10.21」と彫られていた。Kは偽の記憶を植え付けられたと思っていたのが実は真実だったとは。

Kは自分の記憶が信じられず、ステリン研究所(レプリカントの記憶を創造する研究所)のアナ・ステライン博士(カーラ・ジュリ)に鑑定してもらう。その結果Kの記憶は他人の記憶がコピーされたものであることが判明する。

Kは真実を知って激昂する。アナ・ステライン博士は免疫不全のため8才から広大な無菌室の中で暮らしていた。彼女はKの記憶を調べているうちに、何故か涙を流す。Kはそれを不思議に見ていた。

木彫りの木馬を調べてみると大量のトリチウムが検出された。核で汚染された地域は昔の歓楽街ラスベガスしかないとそこに向かう。

途中、ミツバチの巣箱がみられた、誰かが住んでいるようだ。廃墟となった大きな建物のの中に入って行くと人の気配が感じられる。突然Kはデッカードらしき男に銃で耳を吹き飛ばされる。Kは追跡者と誤解されたようだ。デッカードをなだめ彼の話を聞く。

彼はレプリカントのレイチェルと逃避行を続けたが子供が出来たと言う。彼女は帝王切開で女の子を産むが、亡くなってしまう。そして女の子が見つかれば殺される運命であることから子どもをある組織にゆだね、自分は一人で逃亡を続けたとのことだった。

そんな時にウォレスの部下ラヴが突然襲ってくる。Kを常に監視していたようだ、彼は痛めつけられ、デッカードは連れ去られる。

デッカードはウォレスの部屋で私に協力しろと迫られる。ここにはレイチェルと良く似たレプリカントがいた、協力すれば彼女と楽しく暮らせることが約束されていたが、彼は断る。

ウォレスはラヴにデッカードを別の場所に連行しろと指示を出す。そのころKはレプリカントのレジスタンスに助けられていた。そのリーダーであるフレイザ(ヒアム・アッバス)はデッカードから子供の秘密が漏れる。苦肉の選択だが彼を殺さざるを得ないと言う。フレイザは身元が刻印されている右目を摘出していた。

Kはスピナー(飛行車)に乗って連行されているラヴの大型スピナーを攻撃する。Kは重傷を負ったがラヴを倒し、デッカードを救出する。デッカードは「何故俺を殺さないのか」とKに尋ねる。Kは「死んだことにしとけばいい」と言う。

彼はデッカードをアナ・ステラインのところに連れてゆく。Kは自分の記憶がアナのコピーであることに感づいていた。デッカードを「娘に逢ってやれ」と送り出す。顔面蒼白となったKは建物の入り口の階段で降りしきる雪を見ながら体を横たえ目を閉じる。

字幕版ではデッカードが自分の娘アナ・ステラインに逢うシーンが挿入されている。僕は日本語吹き替え版の方が好きだね。

レビュー

Kは最高の能力を持ったレプリカントだ。怪力の大男サッパー・モートンでさえも難なく倒してしまう。しかしロサンゼルス警察の中では「人間もどき」と呼ばれ蔑まれている。

上司のジョシはKを高く評価している(愛情さえ感じている)のが救いだ。彼には他のレプリカントにない人間らしさがある。それはアナの記憶が埋め込まれているからだ。彼女は人間とレプリカントの混血だ?そう考えるとデッカードは人間であると言う事になる?(レプリカントかもしれない)

何故、アナの記憶をKに移植したのか?レジスタンスは「ネクサス8型」で「ネクサス9型」には到底太刀打ちできない、「ネクサス9型」のKを仲間に加えたかったのかも知れない。

デッカードがブレードランナーの経験を生かし、DNA保管庫に嘘の状況を書き込むよう指示する。レイチェルから双子の赤子が生まれる(本当は女の子一人)。女の子はすぐに死ぬが、男の子は育ちそして行方不明となる。Kは偽の記憶を埋め込まれ、レイチェルの子供としておとりになる・・・Kは利用されたのだ。

KはAIのジョイを愛している。彼女はAIだから肉体は無い、でも買った娼婦と自分をシンクロさせKとセックスまでしてしまう。まるで「her/世界でひとつの彼女」とそっくりだ。エマネーターを使えば屋外でも彼女のホログラフィーが使える点が面白い。でも結局ジョイのデーターは消去されてしまう。

ウォレスは子供が産めるレプリカントを創りだそうと必死になるがうまくゆかない。彼はレプリカントを増やして世界征服をたくらんでいるのか。最後にKは死んでしまうのかそれとも生きているのか中途半端で終わる。さらにデッカードもウォレスもレジスタンスも生きていることを考えると当然続編が予定されていると思う。

アメリカでの人気が今一と聞いているが、ストーリーが長くて暗く色気が少ない、それにアクション場面も少ないことが原因なのか・・・よく分からない。でも僕は「スターウォーズ」のような派手さはないが映画の質はいいし、じわじわ人気が出て来る映画だと思っている。

ライアン・ゴズリングがぴったりの役柄でハリソン・フォードとわたり合っている。またドゥニ・ヴィルヌーヴ監督のセンスの良さには驚嘆する、リドリー・スコットが選んだだけのことはある。

ストーリーももちろんよかったが、誰も見たことのない近未来の映像が生き生きとみられるだけでも楽しい。こんな無機質の荒廃した未来がやってくるのか・・・。

僕としてはデッカードがレプリカントではなく人間であって欲しい。結局Kは彼の息子ではないことになるが、アナの記憶を受け継いでいることを考えると息子と言ってもいいかもしれない。

リドリー・スコットは「デッカードはレプリカント」と主張しているが、ハリソン・フォードは「デッカードを人間として演技した」と意見が分かれている。

ドゥニ・ヴィルヌーヴはこれについてはあいまいだ。デッカードが人間であるかレプリカントであるか今では検証する方法が無い。彼も自分がどちらかか迷っている、彼が死んだときに遺骨に製造番号があるかないかでしか結論が出ない。慌てて結論を出す必要はないかもしれない。

「哀愁」がブレードランナー2作品のテーマだと思う。科学がもの凄く発展しているのに誰も幸福感に浸っていない。地球上で生きるのが精一杯だ。人間の奴隷として創られたレプリカント達は虐げられ、戦争にまで駆り出される。

前作では、デッカードに仲間を殺されたレプリカント ロイ・バッティが自分の命が尽きるのを知って彼の命を救うシーンが感動的だ。今回の作品でも、Kが自分の命を懸けてデッカードを救う。

人間の奴隷として創られたレプリカントがいつしか人間に敵対する。でも結局最後はデッカードを助けて死んでゆく。「哀愁」漂うストーリー展開だ。世の中の景気が良くなれば、このような暗い近未来SF映画が流行ると思うのだが・・・。

カミさんを誘っても、見たくないと言う。娘を誘っても「一人で行って来い」と連れない。この映画の良さはマニアしか分からないのか。しょうがない、また一人で二回目見に行くか・・・。

TATSUTATSU

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コメント

    • ランスロット
    • 2017年 10月 29日 11:09pm

    違いますよ。デッカードはレイチェルと同じく、寿命の制限がない「ネクサス7型」で、レイチェルと同様に生殖能力を与えられた特別なレプリカントだったのですよ。レプリカント同士だったからこそ、生殖が可能だったのです。ウォレスはそのことを示唆するせりふを述べているではないですか。
    仮に生まれた娘が人間とレプリカントのハイブリッドだったりしたら、レプリカントによる反乱を目指すネクサス8型たちが崇拝し、自分たちの指導者にしようなどと考えるはずがないじゃないですか。
    さらにデッカードは、強力な放射能に汚染されて人間など住めない、荒廃したラスベガスで20年以上暮らしてきたのです。レプリカントであることの何よりの証拠ではないですか。

      • tatsutatsu
      • 2017年 10月 30日 10:04pm

      ランスロットさんへ

      コメントありがとうございます。
      ランスロットさんの言う事が正しいかもしれません、ただミツバチが出て来るシーンがあります。
      ミツバチは極端に放射能に弱い昆虫だと言われています。彼らがいると言う事は放射能レベルが
      かなり下がっているのではないでしょうか。

      ネクサス8型のサッパー・モートンが外では防護服を着て作業をし、靴の土を家の中に入れないようにしている。彼らも放射能には
      やや弱いのではないでしょうか、ネクサス9型のKは防護服を着てないことから放射能にはかなり耐性があるかもしれません。

      前作の「ブレードランナー」ではデッカードは人間として描かれています。また原作においても彼は人間です。もしデッカードが
      レプリカントであればレジスタンスと行動を共にしてもいいのではないでしょうか。

      女の子がレプリカントのお腹から生まれてきたことが重要で、たとえそれが人間とのハイブリットとしても問題ないのでは。

      ドゥニ・ヴィルヌーヴとしてはこの点は最後まであいまいにしておきたいのでしょう。その方が物語として面白い。
      現実としては、確かに人間は放射能に耐えられない、木で出来た仔馬も強力なトリチウムを発している。当然人間ならラスベガスに住めない。

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