ストーリー
夕方フレンド テーマ曲
僕は典型的なサラリーマンだ。朝起きて朝食を食べ、歯磨きと顔を洗ってスーツを着込みアパートを出る。満員電車に揺られ会社に向かう。そして会社で社畜のように働き、定時には帰宅する。こんな生活を5年ほど続けている。
生活は安定しているものの、あまりにも平凡すぎて人生がつまらなく感じることもある。しかし、僕には他の人が持ってない特殊な能力がある。僕は実は「見える男」なのだ。
最初にこの能力に気づいたのは僕のお婆ちゃんだ。おばあちゃんも僕ほどではないが「少し見える」力を秘めている。僕が幼稚園くらいの時、公園やお寺、墓地で何かと話しているのをしばしば目撃している。
映画「さんかく窓の外側は夜」の予告編をどうぞ。この映画では「幽霊」が見える男が出てくる。ご参考に。
お婆ちゃんは僕が「霊」を見ていると分かったそうだ。しかし、この能力は歳を取れば普通は消失してゆく。ところが僕に限ってはこの能力が消失するどころか、強くなっているような気がする。
町を歩くとあちらこちらで「霊」を目撃する。彼らは半透明で人間の中に紛れ込んでいる。中には「悪霊」が取り憑いている人をしばしば見かける。「霊」たちは僕が見えるのを知っているから寄ってくる。たまっちゃもんじゃない。勘弁してほしい、僕はすぐに逃げる。
ところで最近、僕のアパートに夕方訪ねてくる女性がいる。僕が会社から帰ってしばらくすると必ずドアをたたく。20代半ばくらいの女性だが、物凄く生意気だ。名前をアケミと言う。
ずかずか上がり込んで、おせんべいをボリボリ食う。おせんべいのかけらをテーブルにまき散らすから、やめてくれと頼むのだけど応じる様子はない。
さんざん僕の素性を尋ねておいて一時間ほどで帰ってゆく。そんなことが3日程続いた。4日目にお礼をすると言うことで「映画デート」に誘ってくれた。ところがこれが「遊星からの物体X」というちびりそうなホラーだ。おかげで暫くスパゲティーが食えなくなってしまった。
5日目に彼女は祈祷師のお婆ちゃんハツと一緒にやってきた。簡単な祭壇を部屋の中に設け、その後ろに僕を座らせる。そしてローソクと線香をつける。
お婆ちゃんは僕の額に御札を貼り、念仏を唱える。一連の儀式が終わると僕に向かって「あんたはもうすでに死んでいる」「成仏しなさい」とびっくりするようなことを言う。
そんなことは信じられない。毎日会社へ行って普通の生活をしているのに・・・。アケミは僕に写真を見せる。リビングにうつぶせに倒れている僕だ。それに僕の名前が書いてあるお墓もある。
彼女は「急性の心不全でポックリいったよ」と言う。そして突然死した者の中に「自分の死を認識できないやつらが時々いる」と追い打ちをかける。そんなことを言われても到底信じることは出来ない。
あんたがいるからこの部屋に誰も住み着かない、迷惑だよと声を荒げる。でも信じられないものは信じられない・・・と突っぱねる。アケミはめんどくさそうに2つの鏡を取り出す。
1つは普通の鏡だ・・・問題なく僕がしっかり映っている。もう一つの鏡(霊が写る鏡)を見て愕然とした。そこに映っていたのは半透明の僕だった。アケミが鏡をのぞき込むと一目瞭然だ・・・アケミの横に半透明の僕が間違いなくいた。
これを見た瞬間、僕は自分の死を認識した。自分は既に死んでいたのだ。僕の体はふわりと線香に煙とともにアパート天井に登ってゆく。下では二人の話が聞こえて来る。
今回の除霊代50万にしようとか、次はこのアパートだとか・・・。その時、アケミが変なことを言い出す。「こいつを式神みたいにこき使って金儲けしよう」などと提案している。僕がゆうことを聞きやすいかららしい。
つまり、僕が悪霊となって、アケミが除霊する。そして除霊代をせしめる。僕は何度も悪霊役をやるのか・・・まあいいか、この世にまだ未練があるし、ごほうびに映画に連れて行ってもらおうっと。ベタベタな恋愛映画がいいな。
アケミは指を濡らして線香をつまんで消す・・・・天井まで上がった僕はそれ以上、上がれずそこに漂う。僕は中途半端のままだ。
あとがき:僕は5年前に心臓の手術を行った。その時自分の心臓が11時間も止まっている。当然のことだがその間は人工心肺が動いて体中に血液を送っている。
手術が終わり、麻酔から目が覚めた時、空気中を漂うようなフワフワした感触があった。もう僕は本当は死んでしまって幽霊のようになってるのかと考える。
大手術の後遺症は次々出てきて、僕を苦しめる。手術後5年経っても、回数は少なくなったがいまだに現れる。それほど生死を賭けた手術なんだと今更ながら思う。でも、最も大きな後遺症はこの幽霊になったようなフワフワ感かもしれない。「僕の心臓手術体験記」を参照にしてね。
TATSUTATSU
以下のミステリー小説も見てね。
「僕の金縛り体験記」
「連鎖する惨劇」
「クリスマスの雪女」
「幽霊が見える男」
「緑の少年」
「真夜中の鏡の怪」
「死相が顔に現れる」
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