ミステリー小説

ミステリー小説「銀座は宇宙人との出合の場所」先進的な彼らは山奥、廃屋、原っぱのような寂れた場所にいるはずがない

ストーリー


よく宇宙人との遭遇は森の中とか廃墟とか寂れたところが多いと聞く。また、彼らは外見は裸の剥げて大目の「グレイタイプ」ばかりだ。彼らにこんな話をしたら笑われるよ。

実は彼ら宇宙人は銀座、パリ、ニューヨーク、ロンドンなど大都会が好きなんだ。僕は実際、銀座で宇宙人に遭遇した。信じなくてもいいから、とりあえず話を聞いてみて。

僕は典型的なサラリーマンだ。オフィースは有楽町にある。でも昼休みなんかは昼食を食べに銀座に行く。別に高いところに行くわけでもない、予算は1000円だ。まあ奮発しても1500円が限度だ。

今は少なくなったがかつてはお客さんと銀座で飲み歩いた。交際費もたっぷりな時代だった。だから高級店は良く知っている。今夜も接待だ、解散後に僕は疲れてバス停のベンチで少し休憩していた。

ふと気づくと僕の横に物凄くきれいな女性が座っていた。僕の顔を覗き込んで、美味しい寿司が食べたいと言う。いいお店を紹介してくれたらおごってあげると言われた。

あまりの美人なのでこれはヤバいと思いつつも、店の紹介くらいはいいだろーと了解した。寿司の美味しい店は僕のレパートリーの中にある。店の近くまで行くと一緒について来いと言う。

こんな高級店はめったにゆかない、店の大将にお願いしてお任せで握ってもらった。彼女は美味しい美味しいと言って、大満足だった。彼女がお金を払い終えると次は美味しいコーヒーが飲みたいと言う。

僕の行きつけのブルーマウンテンが売りのカフェにエスコートした。ここでも彼女は大満足だ・・・ここは僕が清算した。そしたら最後に高級ウイスキーが飲みたいと言う。やや高いが高級バーに案内した。ここでも彼女は一番高いお酒を飲んで目を潤ませた。

3軒もまわったのに1時間ぐらいだ。彼女は店に長居しない主義なのか、合理主義なのか分からない。彼女からお礼したいからついてきてと路地に誘う。僕はかすかな期待をしたが見当違いだった。

彼女は僕の顔を見て「自分は宇宙人」だと言う。宇宙人の多くは美男美女だと。あのアラン・ドロン、ヘップバーン、マリリン・モンロー、ブラッド・ピットもそうらしい。

彼女いわく、均整の取れた顔立ちは自然には出来ない、これらはすべて遺伝子操作だ。そしていいもの見せてあげると真っ黒な路地を先へ進む。突然視界が明けると、そこには見たことのない世界があった。

彼女は「モモ」と叫ぶ。そしたら空から乗り物が下りてきた。ポルシェの天井が無いような空中カーだ。これに乗って空中を高速で散歩する。

巨大な円筒形の空間がどこまでも続いている。湾曲しているから宇宙ステーションの一部のようにも見える。分厚いガラスで空間が仕切られているのか、星が空に見える。太陽も見えるが2つある・・・不思議だ。

地上部分は森におおわれ、ところどころに巨大な建物が空高くに伸びている。クリスタルのように輝いている。空からは程よい明るさの光が差し込んでいる。空中には無数の「モモ」が飛び交う・・・衝突しないのか?

彼女はイノソンという外壁で作られた巨大な宇宙コロニーだと言う。僕はエネルギー源は何かと聞く・・・ダイソン球(恒星を丸ごと覆う建造物によってエネルギーを効率よく利用する設備)なのかと。その方式は古い、ブラックホールからエネルギーを取り出している。しかも無尽蔵だ。

僕は「カルダシェフ・スケール」(宇宙文明の発展度を示すスケール)だとタイプいくつの文明かと尋ねた。彼女は「タイプⅣ」だと言う。ちなみにわれら地球文明はタイプ0.7程度だ・・・タイプⅠにも到達していない。宇宙には「タイプⅦ」の文明もあると言う。これらはもっと進んでいて銀河を制御するだけでなく、銀河を産み出している。

20~30分ほど空中散歩を続けた、その間僕はスマホで撮影を続けた。彼女は「そろそろ帰る?」と聞く。「モモ」と地上に降りると、「またね」と彼女は微笑む。彼女いわく「時空に小さな穴をあけるのに地球全体の一年分のエネルギーを消費する」・・・でも彼女らにとっては大したもんじゃないらしい。

僕は気が付くとバス停のベンチに座っていた。一時間半ほど経過していた。先ほどの出来事を思い浮かべてみる。彼女の顔を浮かべると不思議なことに気づいた。彼女はしゃべっていると思っていたがあのきれいな唇が動いていない。彼女の声は直接、脳に届いている。声ではなく「意思」或いは「意識」なのか。

間違いなく彼女は僕の脳をハッキングしたと思う。僕と接触した真の目的は何なのか、何かを盗まれたり、DNAのサンプリングなど、身に覚えがない。あるいは単純に彼女の気晴らしなのか。僕らが犬と散歩するように、戦争ばかりしている下等な僕らとの接触は「癒し」をもたらすのか。

今までの出来事は夢なのか、それとも彼女によって幻覚を見せられたのか・・・。ポケットを探ると小石があった。宇宙コロニーの中で拾ってとっさにポケットに隠したモノだ。それにスマホには多くの写真が残っていた。

暫くたってから、僕はこれらをSNSに載せて発信した。あまり話題にはならなかったが、一部のひとから生成AIによる画像が素晴らしいと賛辞を頂いた。そんなもんだろーね、僕の話やスマホ写真を信じる人は誰もいない。僕は今日もベンチで休憩をとる。

あれ以来、なんにも起こらない。退屈な時間が過ぎてゆく。

TATSUTATSU

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