ストーリー
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今でも、後悔の念が消えない。初夏になると思い出す、忌々しい記憶だ。親友のA君が亡くなってもう数年も経つ。何故、彼を助けてあげられなかったのか・・・もう少し早く気づいてあげれば悲劇は回避できていたのに。
A君とは大学に入ってからの友人で、6年も苦楽を共にしてきた。大学を卒業し大学院に進んだ。そして同じ研究室で同様のテーマを分担して研究してきた・・・いわば戦友だ。
僕らは合成化学の研究をしていた。高価な化学物質を触媒を使って安く作る方法を見つけ出す。世の中に役に立つ研究だ。そして研究はほぼほぼ完成に近づいている。卒業までにある程度めどをつけないといけない。研究室に寝泊まりすることも多くなってきた。
そんな時期、親友のA君の様子がおかしい・・・学校をしばしば休むようになってきた。そして僕の前に現れた時には、彼の様相が激変していた。目が窪み、頬はコケ、顔は青白い。体調でも悪いのかと彼に聞くが、「そんなことは無い」、食事もシッカリとっている・・・と言うのだ。
僕は担当のB教授に相談し、A君のアパートを覗いてみることにした。近くに来たから寄ったと嘘をついて彼の部屋に上がった。入った途端、異臭とジメットした重苦しい空気に包まれた。
部屋は薄暗く、カーテンをいつも締め切っているようだ。彼は、夕方にC子さんが来て、毎日夕食を作ってくれる。C子さんは明るいところが苦手で、部屋は薄暗くしてるんだと言う。女性と付き合っていると聞いてはいたが、部屋に来て料理を作ってくれるほどの仲とは思っていなかった。
冷蔵庫に飲み物が入っているから勝手に飲んでくれという。僕は冷蔵庫の扉を開けた。びっくり、そこには何日間も放置された食材があった。中には悪臭を放つものも・・・食べ残しの弁当だ。
本当に彼女が来て食事を作ってくれているのだろうか、それとも彼はおかしくなっているのか。僕は室内を覆う耐えきれない闇に早々にオイトマした。彼の部屋にいると僕までおかしくなりそうだ・・・そして何か得体の知れないものの存在も感じた。
帰る途中に、妹に電話してみた。妹は少し霊感を持っている。「明日でも一緒に行ってみる」と言ってくれた。大学の帰りに駅で待ち合わせてA君のアパートに行った。
彼はよく来てくれた上がってくれと愛想はいい。でも部屋は薄暗く、空気は昨日同様、重かった。今日は妹と一緒なんだと紹介した。妹は「何かいる」と小声で僕に知らせる。そしてちょっとトイレ借りますと奥の寝室にこっそり向かう。
そこには、得体の知れないものがいた。腰を抜かしそうになるのをこらえて僕の所に戻る。そして「早く帰ろ」と促す。僕は妹が少し震えているのを見て、すぐに彼の部屋を出た。
妹はおびえた様子で「寝室の隅に白い服を着た女が居た。」と言う。そして重苦しい空気は女から発せられている。「女はこの世のモノではない」「早くあの部屋から彼を出さないと大変なことが起こる」と僕を見る。
妹は「友人で霊感の強い子がいる。その母親は除霊師だ・・・連絡を取ってみる」と震えながら家に急いだ。清めの塩を玄関でふりかけ家の中に入る。
僕は眠れなかった。ひょっとしたら、A君は悪霊に取り憑かれているのか・・・そしてうつらうつらしかけた明け方、不思議な夢を見た。
僕は薄暗い森を一人で歩いている。森を抜けると広い草原があった。そして突然雪が降ってくる。数メートル先に男女がいた。二人は深い雪をかき分け山に登ってゆく。
その二人の男女の身なりに驚いた。洋服ではなく和服なのだ。しかも、100年以上前の時代劇を見ているような不思議な感覚になる。そして二人は吹雪で見えなくなる。起きた時、そんな記憶が残った。
A君の所にすぐに行きたかったが、妹たちとのスケジュール調整に手間取り、二日後になってしまった。僕は妹とその友人、母親の4人で急ぎアパートに向かった。玄関の呼び鈴を鳴らしても出てこない。僕らは慌てて大家さんから鍵を借りてドアを開けた。
A君はいなかった。そして家の奥の悪霊と思われる白いモノの存在もなかった。妹の友人とその母親は「ヤバい、今しがた連れてゆかれたかも」と、慌てふためく。霊に敏感な連中にとっては一刻の猶予もないと感じたようだ。
僕と妹に周りを探すようと言われた。僕らは手分けして数百メートル四方を探し回ったが徒労に終わった。どうしても見つからないのだ。
それから二日ほどして悲劇が現実となる。海に浮かんでいるA君の遺体がみつかったのだ。さらに、その近くの海底には軽自動車が沈んでいて、運転席には白い服を着た女性の腐敗した遺骸も発見された。
女性はC子さんのようだが・・・数週間海の中にあったため特定に難航したようだ。そして二人とも自殺なのか事故なのか今となっては分からない。僕がもう少し早く駆けつけていればこの惨劇は防げた。事の重大さの判断が出来なかった自分を責めた。
何年か経って、こんな話を聞いた。東北地方のある村では、「山で吹雪に遭遇して亡くなった女性は雪女になる」そして「その魂は恋しい男を探して村や町に降りて来る」。
気を付けないと「雪女」に取り憑かれ、あの世送りにされる。しかし「雪女」は誰にでも取り憑くわけではない。若くて気に入った恋しい男だけなのだ・・・。
A君もC子さんも東北の出身だ。こんな伝説が現代まで及ぶとは思わないが、C子さんの亡霊がA君を迎えに来たような気がする。大昔から伝わる伝説・・・現代まで続いている。激しい恋の結末は悲劇に終わる。
今では親友A君の顔さえ思い出せない。あの出来事は現実に起きたのか・・・。
TATSUTATSU
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「連鎖する惨劇」
「クリスマスの雪女」
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