ヒューマンドラマ

映画「ファースト・マン」感想・評価:月に降り立った男アームストロングの内面を描いたヒューマンドラマ

サマリー


★★★☆☆(お薦め)

2019年2月日本公開のアメリカ製作ヒューマンドラマ
監督 デイミアン・チャゼル(セッションラ・ラ・ランドファースト・マン
出演 ●ライアン・ゴズリング(きみに読む物語、ドライヴ、ラ・ラ・ランドブレードランナー2049ファースト・マン
●ジェイソン・クラーク(猿の惑星:新世紀ターミネーター:新起動/ジェニシスエベレスト3Dファースト・マン
●クレア・フォイ(ファースト・マン
●カイル・チャンドラー(地球が静止する日ゼロ・ダーク・サーティマンチェスター・バイ・ザ・シーファースト・マン
●コリー・ストール(アントマン、ファースト・マン

『ファースト・マン』本予告映像

 

ドキュメンタリータッチの重苦しい映画だ。何故なら「本当に月に行って帰ってくることが出来るのか」と視聴者を不安におとしいれる演出がなされているからだ。そして月面着陸の史実を淡々と忠実に再現しようとした努力が見られる。

ニール・アームストロングは冷静で寡黙な男だ。彼の内面に主眼をおいて作られている。そして視聴者が彼に成り切ってアポロ11号で月に向かい、そこに降り立つ疑似体験も出来る。映像だけでなく音響も凄い。

一般的には第三者目線、或いはドローン映像のように俯瞰的に撮影される。しかし、この映画では一人称視点が多く使われている。僕らはアームストロングの目を通して宇宙や宇宙船内部の計器類、隣の同僚を見ることになる。これがたまらない魅力だ。

派手さは無い。そして結末も分かっているからサスペンス要素も少ない。しかし、この信じられないミッションを成し遂げたアームストロングとはどんな男でどんな苦悩をしたのかが伝わってくる。お薦め映画だ、迫力のある映画館で是非観てほしい。

アカデミー賞監督のデイミアン・チャゼルが前2作とガラリと変わるテーマに挑戦し成功したように思える。彼はこの映画で「観客をブリキ缶のようなコクピットに入れたい」と主張している。それにライアン・ゴズリングの抑えた演技も見逃せない。

話のスジを少し紹介すると。ニール・アームストロング(ライアン・ゴズリング)は民間のテストパイロットだ。彼はNASAの宇宙飛行士に応募する。採用され、ヒューストンの有人宇宙センターで訓練が始まる。

宇宙競争ではソ連にいつも出し抜かれていた。指揮官のディーク・スレイトン(カイル・チャンドラー)は我々は月に人を送り込むと宣言する。

まず、母船を打ち上げる。母船にドッキングした月着陸船で月に着陸、離陸し、また母船にドッキングして地球に戻る計画だ。そのためドッキングの基礎となるジェミニ計画を推進する。

そしてこれが、成功すればアポロ計画へと移行する。同僚のエリオット(パトリック・フュジット)、エド(ジェイソン・クラーク)と仲良くなる。ところがエリオットは訓練機の墜落事故で死ぬ。そしてアポロ計画のパイロットに任命されたエドまでもが火災の事故で亡くなる。

1969年、いよいよ月に着陸するアポロ11号の船長にアームストロングが任命される。他の乗組員はバズ・オルドリン(コリー・ストール)、マイク・コリンズ(ルーカス・ハース)だ。アームストロングは愛する妻ジャネット(クレア・フォイ)と二人の息子に絶対帰ってくると約束し未知の世界に旅立つ。

その後のストーリーとネタバレ

アームストロングは同僚3人と宇宙に向け出発する。アポロ11号は打ち上げ成功だ。司令船が衛星軌道に入る・・・ここまで順調だ。司令船に格納されている月着陸船イーグルを出す。

ここから先が未知の領域だ。司令船から切り離されたイーグルにアームストロングとオルドリンが乗り込んで月へと向かう、1969年7月20日だ。

イーグルの操縦士オルドリンは船長のアームストロングと協力して月面に降下してゆく、月面近くでは半手動運転になる。着陸地点は当初から決められていた「静かの海」周辺だ。突然誘導コンピューターが警報を鳴らす。

ここからは、管制センターと交信しながら慎重にクレーターを避け、月に着陸する・・・神業に近い。アームストロングが最初に月に降り立ち足跡を残す。彼は有名な言葉「人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては大きな飛躍である」を述べる。

月面で、サンプルを採取したり、星条旗を立てたり、調査をしたり、と忙しく二人は船外活動する。アームストロングは幼い時にガンで亡くなった我が娘の腕輪をクレーターの中に落とす。

そして、イーグルに戻り、着陸船の台座を発射台として発射し司令船へと戻る。そして司令船に乗り移り、着陸船を切り離し地球への帰途に就く。

3人は無事に帰ってきた。しかし、未知の細菌等による感染など、万が一を考え3週間の隔離が必要だ。アームストロングは隔離室のガラス越しに逢いに来た妻ジャネットに手を差し伸べる。

レビュー

昨年、アメリカのスミソニアン国立宇宙博物館に行ったとき、月着陸船イーグルを見た。思ったより小さくキャシャな感じがした(実験船で本物ではない、本物は軌道上に廃棄されている)。

こんなブリキの缶詰の中にアームストロングとオルドリンが乗り込んで、月面から司令船に向かって飛び立ったとは奇跡のような感じがした。万が一このイーグルが飛ばなかったらと思うと胸が張り裂けそうだ。

二人はアポロ計画の技術者たちを信じて命を預けたのだ。当時のコンピューターはファミコンレベルと言われている。限られた燃料と酸素、身動きの取れないコクピット・・・こんな状況下でよく冷静でいられる。

既に、ケネディーは暗殺されてこの世にいない。この時の大統領はニクソンだ。彼は失敗したときの哀悼の言葉を用意していた。

この映画を観ていると、アームストロングは「強運」も持っていたと感じざるを得ない。このあと月面には10人のパイロットが続く。1960年代に投入されたアポロ計画の費用は9兆円以上と言われている。

この膨大な予算がネックとなり、宇宙開発はしぼんでゆく。つたない技術を精神力でカバーした、いい時代の出来事をこの映画は見せてくれる。

TATSUTATSU

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