サマリー
★★★☆☆(お薦め)
2019年5月日本公開のアメリカ製作ヒューマンドラマ
監督・脚本 ガス・ヴァン・サント(グッド・ウィル・ハンティング、エレファント、追憶の森、ミルク、ドント・ウォーリー)
原作 ジョン・キャラハン「ドント・ウォーリー」
出演 ●ホアキン・フェニックス(サイン、ヴィレッジ、ザ・マスター、ドント・ウォーリー)
●ジョナ・ヒル(マネーボール、ドント・ウォーリー)
●ルーニー・マーラ(ドラゴン・タトゥーの女、ソーシャル・ネットワーク、her/世界でひとつの彼女、キャロル、ライオン25年目のただいま、ドント・ウォーリー)
●ジャック・ブラック(キング・コング、ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル、ルイスと不思議の時計)
地味だけど心がもの凄く温かくなるお薦め作品だ。「世界で最も皮肉な風刺漫画家」ジョン・キャラハン(ホアキン・フェニックス)を描いている。彼は車の事故で胸から下が全身マヒの身障者だそれにアルコール依存症でもある。
けっこう中味はシリアスなんだけどコメディと言っていいほど明るく滑稽で楽しい。彼と彼の仲間たちを見ていると人間はこんなにも優しくなれるんだと目頭が熱くなる。
現代社会では失ってしまった優しさをこの映画に求めてみてはどうか。そしてウィットに富んだ風刺やユーモアでクスリと笑わせてくれる。人間どんなに苦しい時でも明るさとジョークを失ってはいけないなんて月並みだけど再認識した。
監督のガス・ヴァン・サントは名優ロビン・ウィリアムズからこの映画を作りたいと20年前に提案があった。しかし、ロビン・ウィリアムズもジョン・キャラハンも亡くなってしまう。
ガスはこの地味な映画の脚本を完成させていたが何処の映画会社もなかなか興味を示してくれない。そして唯一アマゾン・スタジオが興味を示す。彼はアマゾンに企画を持ち込む前にホアキン・フェニックスに役を引き受けてほしいと頼み込んでいた。
このドラマはホアキンなしでは成功しなかったと思う。それほど彼の演技は素晴らしい。映画のテーマはアルコール依存症からの脱却と生きる意味を探す心の旅だ。ジョン・キャラハンはアルコール依存症を克服するために12のステップ・ミーティングに参加する。
そこには同じような仲間がいた。そして彼らに支えられることが生きる糧になってくる。彼は風刺漫画を描くことで自立を模索する。それを恋人アヌー(ルーニー・マーラ)も支えてくれる。
彼は2010年59才で亡くなったが風刺漫画家として足跡を残している。彼の壮絶な人生をこれほど爽やかに映像化できるのはガス・ヴァン・サントの人柄なのか。
ストーリーを少し紹介すると。ジョンは母親に捨てられた孤児だ。養父母や学校の先生、周りの人たちとも上手く行かない。彼は13才の時から隠れてお酒を飲むようになってしまう。
酒びたりの生活を送るジョン・キャラハンは酒場でデクスター(ジャック・ブラック)と意気投合し、何件もはしごする。そして泥酔状態で車に乗り込む。運転はデクスターだ、ところが彼は居眠り運転で電柱に激突する。
ジョンが気が付いたら病院のベッドで寝かされていた。医師は彼に残酷な宣言をする。胸から下が全身麻痺だ。もう一生歩くことはできないと・・・・彼は突然、奈落の底に突き落とされる。そして底知れぬ恐怖におびえる。
その後のストーリーとネタバレ
ジョンは体を固定する機器に挟まれリハビリ中だ。介護してくれる人がいなければうんこもおしっこも垂れ流しだ。そこにセラピストのアヌー(ルーニー・マーラ)が現われる。ジョンにとっては女神のような人だ。
ジョンは苦しいリハビリを乗り越え、電動車いすに乗れるまでに回復する。彼は凄いスピードで車いすを走らせしばしの自由を満喫する。そして住み込みの介護人に世話になりながらアパート暮らしを始める。
大変な運命にもまれても彼は酒を止めなかった。そして周りに悪態をつき自分自身を呪う。そんな時母の幻影を見る。母に助けてもらいたい一心だったのか。これを契機に彼は禁酒を始める。
裕福なドニー(ジョナ・ヒル)がスポンサーになっている禁酒会に参加する。ドニーもかつてはアルコール依存症だった。この会では何でも本音で接しあう。ジョンは会が気に入り12のステップ・ミーティングが始まる。
同時にジョンはマンガを描き始める。絵の勉強で大学にも通い、大学新聞で「風刺漫画家」としてキャリアをスタートさせる。彼の風刺漫画は多くの人に受けいれられるが、「あまりに過激だ」と批判も来る。
街で偶然アヌーとあう。彼女はスカンジナビア航空の客室乗務員に転職していた。そして二人は恋人同士となる。ステップ・ミーティングは順調に11ステップまでくる。
ドニーは昔、迷惑をかけた人々に謝罪することがこのステップだとジョンを優しく諭す。ジョンは養父母、学校の先生・・・迷惑をかけた人々を全てまわり謝罪を受け入れてもらう。そして自分をこんな目に合わせ逃げたデクスターにも会いにゆく。デクスターは涙を流しジョンをハグする。
最期のステップは自分を許すことだ。そして彼は「風刺漫画家」としての才能を開花させてゆく。
レビュー
原題の「Don’t Worry,He Won’t Get Far on Foot」は「心配しないで、彼は歩けないから」と訳すのかな。どういう風に理解するかはみなさん考えてほしい。
ジョン・キャラハンは風刺画家として実に才能を持った人だ。自分自身を「車いすに乗った宇宙人だ」と評している。不自由な手でフェルトペンを押さえ、味のあるイラストと洒落た文章を書き込む。
映画の中には身障者のセックスについて論じるシーンがある・・・大人向きだ。それにジョンは看護婦さんに「僕の顔の上にお尻をのせてほしい」と頼み込む。看護婦さんは夜中にこっそりと希望をかなえてあげる。
また、恋人のアヌーとセックスするシーンもある。けっこう、あけっぴろげなドラマだ。禁酒会を主宰するドニーはゲイだ。そして彼はエイズで亡くなって行く。
ジョン・キャラハンは母を赦し、自分も許して行く。そしてイラスト画家が自分の天職であることを知って死ぬまでペンを持ち続ける。生涯をかけて自分を含めすべての人を許して行く・・・キリスト教の国アメリカらしいね。
TATSUTATSU
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