ヒューマンドラマ

映画「ドリーム」感想・ネタバレ-有人宇宙船計画を成功させた3人の陰の天才

サマリー


2017年9月日本公開のアメリカ製作ヒューマン映画
監督・脚本・製作 セオドア・メルフィ(ヴィンセントが教えてくれたこと、ドリーム)
原作 マーゴット・リー・シェタリー「Hidden Figures(隠れた人物たち)」
出演 ●タラジ・P・ヘンソン(ベスト・キッド、ベンジャミン・バトン 数奇な人生、ドリーム、PERSON OF INTEREST、Empire 成功の代償)
●ジャネール・モネイ(ムーンライト、ドリーム)
●オクタヴィア・スペンサー(スノーピアサー、ドリーム)
●ケビン・コスナー(アンタッチャブル、ダンス・ウィズ・ウルブス、JFK、ボディーガード、ウォーターワールドエージェント:ライアンバットマンVSスーパーマン

映画『ドリーム』予告A

 

映画がヒットするのは色々な要素がある。お金のかかった大作と宣伝、ハリウッドスターの共演、大人気映画の続編など・・・。でも、もの凄くいい映画は口コミで広がる。

この作品も口コミで広がり、人気では「ラ・ラ・ランド」や「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー」を追い越している。

内容は地味だけど「NASA」を陰で支えた3人の黒人女性の物語だ。三人は天才級の頭脳を持っているが「黒人」と言うだけで差別され評価されない。

でも国を挙げての宇宙開発競争には彼女たちの頭脳が必要だ。彼女たちはそんな厳しい環境の中で奮闘する。初めは白い目で見ていた連中達も、最後には彼女たちを理解しそれ相応の待遇を与える。

この映画のキモは能力に優れる彼女たちが偏見と差別に合いながらも、それを逞しく乗り越えて自分たちの権利を勝ち取って行くところにある。

アメリカのマーキュリー計画(有人宇宙飛行計画)がベースになっている。脚色されてはいるがれっきとした実話だ。彼女たちの奮闘ぶりをコミカルにそして感動的に描いている。たまにはこんな地味な映画で目頭を熱くさせるのもいいかもしれないよ。

監督・脚本・製作を担当したセオドア・メルフィはこの作品が監督二作目の才能ある男だ。2016年のアカデミー賞 作品賞と脚色賞にノミネートされている。

また、主演のタラジ・P・ヘンソンは海外ドラマPERSON OF INTERESTやEmpire 成功の代償でブレイクしている演技派女優だ。昔「ベスト・キッド」にも出ていたね。

ジャネール・モネイも歌手・作曲家・音楽プロデューサーとして活躍する才媛だ。作品賞を取った「ムーンライト」にも出演している。

オクタヴィア・スペンサーも映画の中で見られるように存在感のある女優だ。多くの映画や海外ドラマに出演している。


スノーピアサー

そしてケビン・コスナーがもの凄くいい味を出して脇を固めている。彼は俳優だけでなく、映画監督、映画プロデューサーでも活躍している。最近はもっぱら渋いわき役が多い。

時代背景は1961年のNASA(アメリカ航空宇宙局)、宇宙船の軌道計算などはびっくりすることに手計算だ。しばらくしてIBMのコンピューターが導入される。

でも導入された当初は、電子計算機の取り扱いに苦労したようだ。コンピューターから出て来たデーターをわざわざ手計算によって験算していたようだ。数字が違っていれば人命にかかわるからね。

何事も最後は機械ではなく人間同士の信頼がものを言う。その当時は宇宙を制したものが世界を制する的な考えがあり、米ソの宇宙開発競争が過熱していた時代だ。


「ガガーリンを乗せたボストーク1号」

もし、宇宙ロケットの先端に核を乗せて攻撃されたら一巻の終わりだと本気で考えていたようだ。そんな背景を頭に浮かべながら天才女性たちが男どもを牛耳る場面が痛快で面白い。

そして黒人に対しては差別の残る時代だ、主人公は近くに非白人用のトイレが無く800mも先へトイレを探しながら駆け回る。その当時はそれが普通だったのだ。彼女たちは差別を撤廃させるべく行動をとる。まさにキング牧師が唱えた「ドリーム」だ。

ストーリー

時は1961年、ヴァージニア州ハンプトンにあるNASAラングレー研究所に3人の優秀な黒人女性が配属される。彼女たちは「西計算グループ」に集められ、宇宙船の軌道計算などを行う計算手として働き始める。

このグループのリーダー的な役割を担うドロシー(オクタヴィア・スペンサー)は管理職への昇進を打診するが、上司のミッチェル(キルスティン・ダントス)に却下される。黒人女性が管理職になった前例がないからだ、との理由であった。

メアリー(ジャネール・モネイ)は技術部への転属が決まったことから、将来エンジニアになりたいと思うが、黒人女性としてはハードルがあまりに高すぎた。

幼い時から数学の天才と言われてきたキャサリン(タラジ・P・ヘンソン)は黒人女性として初めて宇宙特別研究本部に配属される。この部署は部長のハリソン(ケビン・コスナー)をはじめ全員白人であった。

ここには非白人用のトイレすらなく、コーヒーも白人用と非白人用に新たに分けられていた。キャサリンは天才数学者なのに人間計算機的な役割しか与えられなかった。

彼女はトイレに行きたくなると、部屋から出て800m先にある有色人種用へ駆けつけなければならず、雨の日はずぶ濡れになって最悪だ。それでも3人は家庭を持ち、仕事(NASAのマーキュリー計画)に全力を傾けていた。

1961年4月12日ソ連のボストーク1号が世界で初めて有人宇宙飛行(ユーリ・ガガーリン)を成功させる。ソ連に先を越されてしまったことから、政府上層部からNASAに強烈なプレッシャーがかかる。

果たしてアメリカの威信をかけたマーキュリー計画は達成できるのであろうか・・・。

ネタバレとレビュー

キャサリンの能力は徐々にハリソンから評価され、部の中でも中心的役割を果たして行く。彼女は当初、重要な会議への出席が許可されていなかった為、ターゲットの変更が煩雑で計算をやり直すことが多かった。

この無駄な点をハリソンに直訴し、会議への出席を許可される。そして出席者の前で軌道計算などをその場で瞬時に披露し皆を唖然とさせる。誰もが彼女の非凡な才能を認めざるを得なかった。

ドロシーは新たに導入されたIBMコンピューターの責任者となり、管理職への道が開ける。メアリーはエンジニアの資格を取る為、夜間学校に通う許可が下りる。彼女らは自分たちの「夢」を実現させようとしていた。

キャサリンはもう一つの嬉しい出来事が待っていた。彼女の夫は3人の娘を残して早くに亡くなっていたが、新たに知り合ったジョンソン中佐(マハーシャラ・アリ)に求婚される。

1962年2月20日アメリカがジョン・グレンを乗せて初めての有人宇宙飛行を行うことになった。ロケットの打ち上げ直前になって、重大なトラブルが発生する。

この重要な場面はコンピューターには頼れない。急きょロケットの軌道計算の確認をキャサリンにお願いする。彼女はハリソンの部から異動していたが、また呼び戻され、最終チェックを実施する。

彼女のおかげもあって有人宇宙飛行は成功しロケットは順調に打ち上げられる。グレンは地球周回軌道から今度は地球に帰還することとなる。

ところが船の耐熱パネルの一部が剥離したと思われアラームが鳴るが大気圏への突入が強行される。みなは生きた心地がしない、着陸船が海に着水するまで固唾をのんで見守る。

着陸カプセルがパラシュートを広げ海に落下する。グレンは無事だった。これよりアメリカは新たな宇宙時代の一歩を歩み始める。

NASAの宇宙開発にこんな秘話があるとは知らなかった。キャサリン・ジョンソンは現在も99才で存命だ。彼女はNASAに33年間在籍し多大な功績を遺したことから2015年に大統領自由勲章を授与されている。

ドロシー・ヴォーンはFORTRANと言うコンピューターのプログラミング言語を習得し、西計算グループをNASAにとってなくてはならない存在にした。

メアリー・ジャクソンはNASA初の黒人女性としてエンジニアになった。彼女はパイオニアであり、多くの人々に影響を与えている。

今から60年近く前の出来事だけど、こんな素晴らしい女性たちがNASAの裏方として働いていたことをこの映画は世界に知らしめた。

TATSUTATSU

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