ヒューマンドラマ

インドの迷子がたどる運命の悲惨さ:映画「ライオン25年目のただいま」感想・評価


サマリー

2017年4月日本公開のオーストラリア・アメリカ・イギリス合作のヒューマンドラマ
監督 ガース・デイヴィス(ライオン25年目のただいま
原作 サルー・ブライアリー「25年目のただいま 5歳で迷子になった僕と家族の物語」
出演 ●デーヴ・パテール(スラムドッグ$ミリオネア、エアベンダー、チャッピーライオン25年目のただいま奇跡がくれた数式
●ルーニー・マーラ(ドラゴン・タトゥーの女、ソーシャル・ネットワーク、her/世界でひとつの彼女、キャロル、ライオン25年目のただいま
●デビッド・ウェナム(ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔ヴァン・ヘルシング、300〈スリーハンドレッド〉、ライオン25年目のただいま
●ニコール・キッドマン(バットマン フォーエヴァー、アイズ・ワイド・シャット、めぐりあう時間たち、リピーテッドライオン25年目のただいま

『LION/ライオン ~25年目のただいま~』予告編

本日観に行ってきました。やはりアカデミー賞に6部門ノミネートされているだけあって、平日の昼下がりなのにけっこう人が入ってた。女性の観客が多かった。

監督のガース・デイヴィスはこれが初監督作品とは、信じられないほど凄い才能を持ってる。それに配役にも恵まれた。

特に5歳時の主人公を演じたサニー・パワールは大きな瞳と愛くるしい笑顔で観客に訴えて来る・・・この映画が大ヒットしたのは彼のおかげも大きい。

事実をベースにした物語で、涙なくしては見られない・・・お薦めだ。ど派手なアクション映画や超現実的なSF映画も面白いけど、タマにはヒューマンドラマで胸を熱くするのもいいかも。

原題のLION/ライオンとは主人公の本当の名前の意味だ。彼はライオンのように逞しいし、幸運も持っている。

5歳の時迷子になったサルーは孤児院を経てオーストラリア タスマニアの夫婦のもとに里子に出される。サルーは新しい父母のもとで成長し25年の歳月が流れる。

ある日サルーはキッチンに置いてあったインドの揚げ菓子「ジャレビ」を見て昔を思い出す。昔の記憶が呼び覚まされた彼は生みの母と兄に逢いたいと思うようになる。

その思いは日増しに大きくなり、彼は寝ても起きてもそのことから離れられなくなる。そして彼は5歳時の記憶を頼りにとGoogle Earthを使って自分が住んでいた場所・家を探し始める。

成長したサルーをデーヴ・パテール、彼の彼女ルーシーをルーニー・マーラが演じる。そして育ての母スーのニコール・キッドマン、育ての父ジョンのデビッド・ウェナムが両脇をかためる。

映画を見て泣きたい方にはお薦めだね。なかなか感動して泣くことが無い昨今だけど、映画館の中くらいは涙を流してもいいんじゃない。

ストーリー

5歳のサルー(サニー・パワール)は兄のグドゥ(アビシェーク・バラト)と母のカムラ(プリヤンカ・ボセ)幼い妹との極貧の生活だ。

昼は少しでも生活費を稼ぐために兄とサルーは石炭運搬列車に飛び乗り、石炭をくすねてはそれを市場で売る。今日はミルク2袋の収穫だ。

ある夜サルーは兄を手伝いたくて、無理を言って一緒に出掛ける。兄弟は列車の車両を這いずり回って金目のものを探そうとする。

疲れたサルーは駅のベンチで横になる、兄のグドゥは仕事が終わったら迎えに来ると列車の間をすり抜けて行ってしまう。

サルーはそのうち寝てしまうが目が覚めても、いつまで待っても兄は戻ってこない。慌てたサルーは回送列車に間違って乗ってしまう。

列車に乗り込んだ駅から給水塔が見えた。列車はどこの駅にも止まらず数日間走り続ける。やっと到着したところはコルカタ駅(昔のカルカッタ)だった。

その駅には多くの浮浪者や孤児がたむろしていた、サルーはその中で眠る。この駅はもの凄く危険なところで人さらいに追い掛け回され、死に物狂いで逃げる。

それから何か月の間、浮浪児としてそこら中をさまようが、ある青年が孤児院に連れて行ってくれた。ここでは寝るベッドと食事が与えられたが檻の中で不自由な生活だ。

ある日ミセス・スードと言う女性が来て家を探してくれたが、サルーの住んでいた「ガネストレイ」と言う町は見つからなかった。そのうち彼女はオーストラリア人夫妻の里子の話を持ってくる。

サルーは初めての飛行機に乗りオーストラリアへと向かう。空港では里親のスー(ニコール・キッドマン)とジョン(デビッド・ウェナム)が温かく迎えてくれた。

ネタバレとレビュー

サルーはオーストラリアに来てから25年が経ち大きく成長する。少々問題児だけど弟のマントッシュ(ディヴィアン・ラドワ)も同じインドからの里子だ。

サルーはメルボルンでホテル経営学を学ぶ学生だ。彼は同じクラスのルーシー(ルーニー・マーラ)と付き合うようになり、彼女と深い関係になって行く。

ある日同じクラスのインド仲間たちのホームパーティにサルーとルーシーは招かれる。彼はここで自分がインドで迷子だったことを打ち明ける。皆は彼の生い立ちに同情する。

彼は台所でインドの揚げ菓子「ジャレビ」を見た瞬間 衝撃が走る。インドの市場で「ジャレビ」を兄にねだったがお金がなくて買えなかった切ない思い出がよみがえる。

口に運んだ「ジャレビ」の初めての味に、サルーは兄や母に逢いたいと思うようになる。この思いは日を増すごとに大きくなり、学校もやめてしまう。

インド仲間の協力を得たり、Google Earthを使って自分が住んでいた場所・家を探し始めることに没頭する。そんな彼を見てルーシーは心配する。

サルーはインドの何処に住んでいたのか、母の名前も自分の苗字さえ分からない。ただ列車に乗り込んだ駅の近くに大きな給水塔があったことだけは記憶に残っている。

この給水塔を目印とし、コルカタ駅から二三日の距離の駅をくまなく地図上で探し回る。Google Earthで地図を拡大し調べていたとき、ふと昔の記憶がよみがえり、その場所と地図がリンクし始める。給水塔が有った駅はブルハンプールだ。

場所がほぼ特定出来たことをルーシーに知らせる。そして育ての母スーにもインド行きを打ち明ける。その時スーから「サルーとマントッシュを育てたのは神から啓示をうけたからよ」とサルーを抱きしめる。

サルーは直ぐにインドに飛ぶ。彼は自分の記憶を確かめながら林を抜け小道を通り村に入って行く、そして昔住んでいた家を見つけるが、そこは家畜小屋になっていた。

そこの持ち主に聞くと家族は近くにいると言う。そして長い間待ち焦がれた生みの母との再会だ。お互い一目見た時から母・子であることを感じ取っていた。彼女は息子が必ず帰ってくると信じ、引っ越さなかった。

二人は抱き合い涙を流す。母の隣には成長した妹がいた・・・三人で抱き合う。ふとサルーは兄に逢いたいと尋ねるが、兄のグドゥは25年前、サルーが迷子になったその日に列車事故で帰らぬ人になっていた。

サルーが記憶していた町の名「ガネストレイ」は「ガネッシュ・タライ」、母の名は「カムラ」だった。そして自分の本当の名前は「サルー」ではなくて「シェルゥ」だ。ヒンディー語で「ライオン」をあらわす。

サルーの家族は実際にはもう一人、男の兄弟がいた。そして一夫多妻の風習からこのようなシングルマザーの子供達が多いらしい。サルーにも実の父親がいるが彼はもう一つの家庭も持っている・・・子供には無関心だ。

子供が5歳で迷子になれば餓死するか人さらいにさらわれるか、通常は厳しい現実がある。でもそこを生き抜いたサルーには幸運以外に何かを持っているような気がする。

インドで行方不明の子供は毎年8万人以上になる。厳しい現実を目の当たりにするとこのドラマの持つ意味は大きい。迷子の子供がいなくなる日が来ることを祈るばかりだ。

TATSUTATSU

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