サマリー
★★☆☆☆(そこそこ面白い)
2018年5月日本公開のアメリカ製作ヒューマンドラマ
監督 クレイグ・ガレスピー(アイ,トーニャ史上最大のスキャンダル)
出演 ●マーゴット・ロビー(アバウト・タイム~愛おしい時間、ウルフ・オブ・ウォールストリート、ターザン:リボーン、スーサイド・スクワッド、アイ,トーニャ史上最大のスキャンダル)
●セバスチャン・スタン(キャプテン・アメリカシリーズ、オデッセイ、アイ,トーニャ史上最大のスキャンダル、アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー)
●アリソン・ジャニー(ザ・ホワイトハウス、ガール・オン・ザ・トレイン、アイ,トーニャ史上最大のスキャンダル)
●マッケンナ・グレイス(gifted/ギフテッド)
文部省推薦の甘っちょろいオブラートに包んだような映画に飽きてきた人にはお薦めだ。ドキュメンタリーの様でそうではない・・・あくまで楽しめるドラマだ。当事者たちのインタビューを交え、何が真実なのかを見てる僕らに問う方式も斬新だ。
当事者たちの主張は一致しない、誰が嘘をついているのか誰が真実を語っているのか。決して明るいテーマではない。それを辛辣なコメディドラマのようにしかも音楽と映像で躍動的に描いたクレイグ・ガレスピー監督の手腕に脱帽する。
まるでバイオレンス・サスペンス・アクション映画を見ているようだがこれがほぼ事実とは驚きだ。まるで有り得ない「マンガ」の主人公のような彼女がそこにいる。「クソ」を連発する下品で最低な奴らのバトルが、ここまで来るとかえって爽快だ。
「フィギュアスケート界を揺るがした史上最大のスキャンダル」「ナンシー・ケリガン襲撃事件」・・・これにに関与したと疑われたトーニャ・ハーディング(マーゴット・ロビー)。彼女はこの事件によって自分の人生をめちゃめちゃにされる。或いは自業自得か?
アメリカでトリプルアクセルを初めて成功させた天才少女トーニャ・ハーディング、彼女の半生が描かれる。この作品は第90回アカデミー賞で主演女優賞・助演女優賞・編集賞にノミネートされ助演女優賞をトーニャの母親役ラヴォナを演じたアリソン・ジャニーが獲得している。
その他ゴールデングローブ賞3部門ノミネート(助演女優賞獲得)、英国アカデミー賞5部門ノミネート(助演女優賞獲得)と世界的に評価の高い作品でもある。
話のスジを少し紹介すると、トーニャ・ハーディング(子供時代:マッケンナ・グレイス)は1970年オレゴン州のポートランドに生まれる。母親のラヴォナ(アリソン・ジャニー)はしがないウエイトレスで4番目の夫との間に生まれたトーニャを貧困脱出の道具とみなす。
トーニャは生まれながらにフィギュアスケートの才能を有しており、ダイアン・ローリンソン(ジュリアンヌ・ニコルソン)コーチのもとに通わせる。母親のラヴォナは娘を鬼婆のように毎日虐待する。
15歳のトーニャはスケートリンクで知り合ったジェフ(セバスチャン・スタン)と恋に落ちる。ところがこの男もDV男でトーニャに暴力を振るい、くっついたり離れたりの生活を繰り返す。
トーニャはリンクの上でも傍若無人の振る舞いを繰り返し、大会関係者の不評を買う。そしてコーチのダイアンをクビにしてしまう。さらに母親との大げんかで家から出てゆく。
しかし、そんな彼女にも転機が訪れる。19歳でジェフと結婚した翌年の1991年、全米選手権でアメリカ女性として初めてトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)を成功させる(伊藤みどり選手が世界で初めて成功させた技だ)。そして優勝、次の世界選手権で2位に輝やく。
ところがアルベールビル冬季オリンピックでトリプルアクセルを失敗、4位になってしまう。3位と4位では天と地ほどの開きがあり、スポンサーからは見向きもされない。教育の無いトーニャは母親と同じようにウェイトレスをして食いつなぐしかない、さらにジェフとも離婚する。
そんな失意のどん底で、元コーチのダイアンから声がかかる。トーニャは二年後のリレハンメル目指して特訓をスタートさせる。ところが彼女宛に「脅迫状」が届く、これによって1993年の北西部予選を棄権せざるを得なかった。
トーニャは私だけに脅迫状が来るのはおかしい。ライバルのナンシー・ケリガン(ケイトリン・カーヴァー)にも「脅迫状」が届かないとフェアではないと言う。
元夫のジェフは友人のショーン(ポール・ウォルター・ハウザー)にこの「脅迫状」の件を依頼する。ところが、ただ単に「脅迫状」を送る手はずだったものがナンシー・ケリガンへの強打事件にすり替わってしまう。
ナンシー・ケリガンは見知らぬ男によって棒のようなもので足を強打され試合を欠場する。彼女が欠席した1994年の全米選手権でトーニャは優勝し、オリンピック代表権を得たがジェフとショーン、そして実行犯のシェーン(リッキー・ラサート)がFBIに捕まってしまう。
果たして「ナンシー・ケリガン襲撃事件」はトーニャが依頼したものかそれとも彼女は全く関与していなかったのか・・・。
その後のストーリーとネタバレ
トーニャは「ナンシー・ケリガン襲撃事件」に関与した疑いでオリンピック代表権がはく奪されそうになる。しかし、彼女は逆にオリンピック委員会を告訴し、何とか出場を維持する。
しかしリレハンメルオリンピックに出場したものの成績は振るわず、8位に終わる。それとは対照的にナンシー・ケリガンは銀メダルを獲得する。
オリンピック後に裁判が再開され、彼女は罪を認めることによって懲役は免れる。しかし「3年の執行猶予、罰金16万ドル、社会奉仕活動500時間、全米フィギュアスケート協会登録抹消、スケート協会主催の協議会・イベントなどの生涯出場禁止」と言う厳しい判決が下る。
トーニャは「フィギュアスケートを私から奪わないで」と涙ながらに訴えるが、聞く耳を持つ人はいなかった。彼女は2003年にプロボクシングに挑戦するが6試合で引退する。
2010年39歳で3度目の結婚、現在は7歳の息子の良き母として暮らしている。
レビュー
まるでアクション映画かと思わせるような暴力の応酬。母親のラヴォナは怒って娘にナイフを投げつける、それが腕に刺さってしまう。夫のジェフも彼女に暴力を振るう。彼女も負けてはいない、何度も警察沙汰になる。
ジェフはトーニャに対する接近禁止命令を受けるが、拳銃を持って押しかけ発砲する。彼女自身にも問題はあるがあまりにも生活環境がひど過ぎる。彼女の周りは下品なバカばっかだ。
躍動感あふれるフィギュアスケートのシーンではもちろん代役を立てたり、上手く編集したりと苦労のあとが見られる。いくらマーゴット・ロビーがスケートの練習をしてもトリプルアクセルは飛べないからだ。音楽の使い方もバツグンだドラマを盛り上げる。
最後のエンドロールのところで実際の人物が出てきたのにはびっくりした。結局のところ「ナンシー・ケリガン襲撃事件」の真実は、それぞれの登場人物の話がバラバラだ。いったい何が真実だったのか・・・もう今となってはそんな事どうでもいいのかも知れない。
トーニャはリレハンメルオリンピックで銀メダルを取ったナンシー・ケリガンへのコメントとして「彼女は銀メダルを取ったのにまるで犬のクソを踏んだような顔をしている」と辛辣な言葉を吐いている。
この映画を見ていると、スポーツマンには悪人はいないとか「健全な精神は健全な肉体に宿る」なんかは幻想にしか思えない。日本でも大相撲の暴力問題、女子レスリングのパワハラ、バトミントンの醜聞、カヌー競技のドーピング問題・・・などヤバい事件が噴出している。
トップアスリートともなれば綺麗ごとばかり言ってられない。誰が滑り落ちるのか、誰を出し抜くのか、誰を精神的に追い詰めるのか、誰の技を盗むのか・・・そんなのが当たり前の極限の世界なのかもしれない。
TATSUTATSU
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