ヒューマンドラマ

映画「赤い闇 スターリンの冷たい大地で」感想・評価:ウクライナで地獄を見た若いジャーナリストの物語

サマリー


★★★★☆(見るべき名作)

2020年日本公開のポーランド・ウクライナ・イギリス合作のヒューマンドラマ
監督 アグニェシュカ・ホランド(赤い闇 スターリンの冷たい大地で
原作・脚本・製作 アンドレア・チャルーパ(赤い闇 スターリンの冷たい大地で
出演 ●ジェームズ・ノートン(フラットライナーズ赤い闇 スターリンの冷たい大地で
●ヴァネッサ・カービー(アバウト・タイム~愛おしい時間について~ジュピターエベレスト3D赤い闇 スターリンの冷たい大地で
●ピーター・サースガード(ニュースの天才、フライトプラン、ブルージャスミンエスター、マグニフィセント・セブン、赤い闇 スターリンの冷たい大地で

映画『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』予告編

 

僕らが高校生の頃は将来ジャーナリストなりたいと言う奴が多かった。でもジャーナリストとはいったい何者なのか誰に聞いても明確な答えが返ってこなかった。ジャーナリストを新聞記者と考えれば現在は魅力ある職業と言えるのか?

現在の新聞やマスコミの凋落を考えると誰がこんなに落ち目にしてしまったのか。やはり現代は真実を追求すると言う本来の目的を誰もが果たすことの出来ない環境なのか。それに代わってネットの世界が台頭している。こちらの方がかえって面白い。

フェイク記事もあるが新聞やテレビが報道しない真実に近い記事の方が多いように思う。このドラマは命を懸けて真実を追求した若き英国人記者ガレス・ジョーンズの物語だ。彼は30歳の若さで何者かに射殺されている。

真実を追求し、それを新聞で発表することは死を意味する。彼が自分の命を懸けて暴こうとしてモノはいったい何なのか。冒頭に狭い家畜小屋の中で動き回る「ブタ」が出てくる。この「ブタ」はあの有名なジョージ・オーウェルの小説「動物農場」からきている。

「スターリン」

つまり「ブタ」とは独裁者たちのことを現す。舞台は1933年大戦間期のソ連。世界恐慌の中でソ連だけが絶好調だ・・・何故か。この秘密を探るためガレス・ジョーンズはウクライナに潜入する。ところがそこで見た光景は地獄であった。

「ガレス・ジョーンズ」

「ホロドモール」と言う言葉を知っているか。ホロコースト、アルメニア人虐殺、ポル・ポト派による虐殺、ルワンダ虐殺と並んで20世紀最大のジェノサイドの一つと言われている。

スターリンによってウクライナ人たちは強制移住させられ、家畜や農地を奪われた。そのため400万人から1450万人の農民たちが餓死した。2006年にウクライナ議会はこの悲劇をスターリンの計画的な虐殺と認定している。

話のスジを少し紹介すると。元英国首相ロイド・ジョージの外交顧問を務めるガレス・ジョーンズ(ジェームズ・ノートン)はアドルフ・ヒトラーにインタビューした実績がある。

彼はヒトラーが世界大戦を起こすのではないかと危惧していた。そしてイギリスはソ連のスターリンと組むべきと考えていた。ジョーンズはフリーの記者としてスターリンに取材したいとモスクワに飛ぶ。

彼が頼るのはニューヨークタイムズのモスクワ支局長ウォルター・デュランティ(ピーター・サースガード)だ。ところが彼はスターリンには簡単に会えないと冷たい態度をとる。そして彼はジョーンズの友人ポールが強盗に殺されたと驚くべきことを告げる。

ポールはモスクワで何かを掴んでいた。それが原因で殺されたのか。ジョーンズはデュランティの下で働くエイダ・ブルックス(ヴァネッサ・カービー)に近づく。彼女の口から出てきた言葉は「ウクライナ」だった。彼は「ウクライナ」に単身調査に行くのだが・・・。

その後のストーリーとネタバレ

「ウクライナ」行きの列車に乗り込んだ彼は同行する監視人の目を逃れ、別車両に紛れ込む。その車両には極度にお腹を空かした多くの人々が肩を寄せ合っていた。そこで彼は一切れのパンと交換で厚手のコートを手に入れる。

今は雪の降り積もる極寒の地、「ウクライナ」のスターリノ駅に降りる。その駅では大量の穀物がモスクワ行きの列車に積み込まれていた。その場面をカメラに収めるがスパイと間違われて捕まりそうになる。

彼は銃声の中、逃げ回る。そしてたどり着いたゴーストタウンのような村。道には餓死者が倒れ、死骸のそばには泣き叫ぶ子供もいた。一軒の家の中にはベッドに餓死した夫婦が横たわっていた。彼らは食べるものが無く木の皮まで食べていたようだ。

スターリンが宣伝していた理想の社会主義国家の真実なのか。罪のない農夫たちから食べるものを収奪し、それをすべてモスクワに集める。これがスターリンの資金源だったのだ。

彼は自分の母が暮らした場所を訪ねると大きな物置小屋があった(彼の母はここで英語の教師をしていた)。この中で藁に包まれて睡眠をとる。しばらくして、そこに焚き木を取りに少女と少年が現れる。彼らについてゆくと粗末な家があり彼らの姉と思われる若い女の子が湯を沸かし、何かの肉を食わせてくれた。

ジョーンズはこれは何の肉かと尋ねると男の子の名前を告げる。彼は彼らの兄がとってきた獲物の肉だと思い奥の部屋を開けるとそこには餓死した彼らの兄と思しき遺体があった。彼らは兄の死体を食べていたのだ。それを見たジョーンズは激しく嘔吐する。

彼はそこを彷徨い、最後には警察に捕まる。そして収容所に収容されるがロイド・ジョージの元外交顧問と言うことでイギリスに送り返される。当然、見たことはすべて公表するなと脅される。

暫くして彼は自分が見てきた真実「ソ連の闇」を新聞に発表する。ところがニューヨークタイムズのウォルター・デュランティはこれをフェイクだと反論の記事を書く。

当時27才の若造の記事とピューリッツァー賞を受賞したデュランティの記事とでは世間が受け取る評価は異なっていた。しかし、そんな中でもジョーンズは真実を発表し続ける。

真実を追求してきたジョーンズは30才の若さで殺害される。彼の体には3発の銃弾が撃ち込まれていた。それとは対照的にデュランティは73才の天寿を全うする。

レビュー

ジョーンズはジョージ・オーウェルと親交があった。彼の小説「動物農場」や「1984」には管理社会の恐ろしさが込められている。

ジョーンズは日本にも滞在したことがあり、「満州国」について調べていたようだ。ソ連の諜報員リヒャルト・ソルゲとも接触している。彼はソ連を貶める記事を書き続けたことから一説には、その方面の暗殺者によって殺されたのではないかと言われている。

このドラマの中で印象的だったのはデュランティをはじめとする各国の記者たちは「モスクワ」に閉じ込められていた。彼らには尾行者が付きおかしなことが無いよう常に監視されていた。そして記者たちは酒と女とドラッグによって骨抜きにされた。

いつの世でも真実を追求し公表することには大きなプレッシャーが付きまとう。美味しい料理をたらふく食べられる「ブタ」になるかそれとも腹をすかした「人間」になるか・・・考えさせられるドラマだ。

TATSUTATSU

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