ヒューマンドラマ

映画「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」感想・評価:ベトナム戦争の劣勢を暴露したジャーナリストの実話

サマリー


2018年3月日本公開のアメリカ製作 最高機密文書を暴露したジャーナリスト・ドラマ
監督 スティーヴン・スピルバーグ(プライベート・ライアンブリッジ・オブ・スバイジュラシック・ワールドペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書
出演 ●メリル・ストリープ(クレイマー、クレイマー、ソフィーの選択、プラダを着た悪魔、ジュリー&ジュリア8月の家族たちギヴァー記憶を注ぐ者ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書
●トム・ハンクス(プライベート・ライアングリーン・マイルブリッジ・オブ・スパイペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書

『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』予告編

 

まず初めにペンタゴン・ペーパーズ(P・P)とは当時のアメリカ国防長官ロバート・マクナマラの指示によってまとめられた最高機密文書「アメリカ合衆国のベトナムにおける政策決定の歴史1945~1967年」だ。

中味は「ベトナム戦争が勝ち目のない戦い」である事を如実に示した膨大な記録からなっている。政府はその真実を国民に知らせないばかりか、戦況は有利に展開していると「嘘」の報道までしていた。

この事実はトルーマン、アイゼンハワー、ケネディ、ジョンソンの4政権に渡って隠されてきた。どの大統領もアメリカがベトナムに負けたなんて不名誉な責任を取りたくなかったらしい。この間にアメリカ兵が5万8千人以上、そのほかにも100万人以上の尊い命が失われている。

このP・Pを暴いた「ワシントン・ポスト」紙のジャーナリストたちの勇気ある行動が描かれている。冒頭のベトナム戦争の場面以外はアクションシーンはなく、地味ではあるがサスペンスドラマとして一級品だ。第75回ゴールデン・グローブ賞6部門ノミネート、第90回アカデミー賞2部門(作品賞、主演女優賞)ノミネートされている。

アクションシーンやCGの多いエンタメ系が好きな人には向かないが、実話をもとにした渋いサスペンスドラマが好みの人には堪えられない作品だと思う。スティーヴン・スピルバーグは同時に「レディ・プレイヤー1」を撮っており、最も忙しい監督の一人だ。今年71歳、この年で毎年作品を発表している。創作意欲の衰えないタフガイだね。

ただ、僕にとっては疑問点が残る。P・Pを最初にスクープしたのは「ニューヨーク・タイムズ」だ。従って政府からの圧力をまともに喰らっている、。ジャーナリスト生命を懸けての戦いだ、だからこの映画を見た彼らは怒るだろうね。あくまで「ワシントン・ポスト」は後に続いただけに過ぎない。

スピルバーグが何故「ワシントン・ポスト」を選んだのか。リズ・ハンナの脚本が良かったのはもちろんであるが、主演女優にメリル・ストリープを使いたかったからではないのか?当時、アメリカの新聞業界で女性の社主はキャサリン・グラハム(メリル・ストリープ)ただ一人だった。

スピルバーグは、男性優位のジャーナリスト業界では経験が浅く、普通の主婦だと思われていたキャサリンが社運をかけて大胆な賭けに出る、そしてすぐに到来するであろう「女性の時代」を象徴するこの出来事を描きたかったのか・・・。

話のスジを少し紹介すると、1966年にダニエル・エルズバーグ(マシュー・リス)はベトナム現地に直接出向いて戦況を調査する。彼が見たものは泥沼化するベトナム戦争の現実だった。これを国防長官ロバート・マクナマラ(ブルース・グリーンウッド)に報告するが、彼は国民に向け全く逆の報道をする。マクナマラは「戦況は明るい」と嘘をついたのだ。

ダニエル・エルズバーグはランド研究所からトップシークレットのP・Pを密かに持ち出しコピーする。そしてこの文書を「ニューヨーク・タイムズ」紙にスクープさせようとしていた。

1971年、夫の自殺であとを継いでいた「ワシントン・ポスト」紙の社主キャサリン・グラハム(メリル・ストリープ)は社の株式公開を控え忙しく動き回っていた。

彼女は信頼を寄せる編集主幹ベン・ブラッドリー(トム・ハンクス)と朝食会で色々な意見を述べるが、ベンは彼女の口出しを嫌う。彼は「ニューヨーク・タイムズ」のニール・シーハンが最近姿を見せないことが気になっていた。

その予想が当たり「ニューヨーク・タイムズ」がP・Pをスクープする。これに対してニクソン大統領は機密保護法に違反するとして法的措置をとることを通達する。ホワイトハウスと新聞業界との闘いが始まる。

「ワシントン・ポスト」も独自に情報を掴み、「ニューヨーク・タイムズ」に追随しようと画策するが、ベンは周りの反対に合う。果たしてP・Pの新聞報道にキャサリンはオーケーを出すのか・・・。

その後のストーリーとネタバレ

ベンは極秘ルートでP・Pを入手する。これを自宅に持ち込みスタッフを集めて膨大な文書の中味を調査し新聞記事にまとめる。時間が勝負の徹夜の作業だ。

あとはこれを紙面に乗せるかどうかは会社の上層部の判断だ。キャサリンは昔から懇意にしていたマクナマラを訪ね、「あなたたちは私を含め国民をダマしていた」と非難する。この時点では新聞に載せるか彼女は決断できていない。

重役たちは、載せるべきではないと進言する。また、社の顧問弁護士は最悪の場合、機密保護法違反の罪でブタ箱にぶち込まれる可能性があると言う。ベンはこれを告発しないと自由の精神はなくなってしまうとキャサリンの決断を迫る。

彼女には会社の存続と従業員の暮らしがかかっている。しかし読者には真実を知る権利がある。ここでひるんでいては社の将来はないとゴーサインを出す。経験不足で一般の主婦だと思っていたキャサリンが実に大胆な決断を下したことに社の重役たちは驚く。

夜中に輪転機は回り、新聞の一面にP・Pの記事が載る。これで社会に「ベトナム戦争の真実」が知れ渡る。ホワイトハウスは新聞社を訴える。しかしそのほかの新聞社も一斉にP・Pの記事を載せる。この流れはもう誰にも止められない。

最高裁判所は国の掲載禁止命令を却下した。キャサリンやベン達が行ってきた行動は正しいと判断されたのだ。1975年にサイゴンが陥落しベトナム戦争は終わることになる。P・Pの暴露から4年後のことで、更にこのスクープはウォーターゲート事件へとつながって行く。

レビュー

冒頭にも述べたが、P・Pを一番最初にスクープしたのは「ニューヨーク・タイムズ」だ。これによって国からの差し止め命令が出る。しかし、この後「ワシントン・ポスト」が新聞にP・P記事を載せる。

「ニューヨーク・タイムズ」と「ワシントン・ポスト」は規模こそ前者の方が大きいが、もの凄く強いライバル意識を持っている。しかし「ワシントン・ポスト」が続いたことによって「ニューヨーク・タイムズ」は心強く感じたことと思う。これ以降、他の新聞も一斉に同調する。

新聞業界はお互いにライバルであるが協力するときには協力し合う。特に真実を国民に知らしめる使命は日本の新聞社より強いのかも知れない。真実をスクープするときにはもの凄い勇気がいるが頑張ってもらいたいね。

ところで、P・Pを暴露した本当の功労者はダニエル・エルズバーグだ。彼は実際にベトナムの最前線を体験している。そしてベトナム戦争が泥沼化していることをマクナマラに報告するが彼は事態を知っているにもかかわらず保身に走る。

これにはエルズバーグは相当頭に来たようだ。そして最高機密文書をリークする決心をする。今から考えると正しい決断だったが、当時の時代背景を考えると無謀と言えるかもしれない。

「ニューヨーク・タイムズ」はエルズバーグから入手したP・Pを3か月かかって精査している。これの公表によって生じる損害も想定していた。それでも発表を決断するジャーナリスト魂には頭が下がるね。

今、日本でも財務省文書の改ざんや隠ぺい工作が問題となっている。必ず悪事は表に出て来ると考えないといけない。これから先、色々な真実が暴露されてくると思う。いつの時代も裏表はあるからね。

TATSUTATSU

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