サマリー
★★★☆☆(お薦め)
2020年2月日本公開のイギリス・アメリカ合作戦争映画
監督・脚本・製作 サム・メンデス(007スカイホール、007スペクター、1917命をかけた伝令)
出演 ●ジョージ・マッケイ(1917命をかけた伝令)
●ディーン=チャールズ・チャップマン(1917命をかけた伝令)
●マーク・ストロング(サンシャイン2057、シャーロック・ホームズ、裏切りのサーカス、ゼロ・ダーク・サーティ、リピーテッド、イミテーション・ゲーム、キングスマン、シャザム!)
●アンドリュー・スコット(1917命をかけた伝令)
●リチャード・マッデン(ロケットマン)
●コリン・ファース(裏切りのサーカス、マジック・イン・ムーンライト、リピーテッド、キングスマン)
●ベネディクト・カンバーバッチ(裏切りのサーカス、8月の家族たち、SHERLOCK、イミテーション・ゲーム、ドクター・ストレンジ)
2020年第92回アカデミー賞で10部門ノミネートされ、視覚効果賞・撮影賞・録音賞を獲得した実力作品だ。全編にわたってワンカットに見える映像で伝令兵士の一日を描いた前代未聞の作品だ。
こんなことが出来るのも撮影技術が格段に進歩したおかげだ(撮影監督はロジャー・ディーキンス、この作品で賞を取っている)。監督のサム・メンデスは第一次世界大戦の秘話を祖父から聞いて、これを彼なりに脚色し映像化した。
当時は有線・無線電話よりも伝令が多く使われた。だからひょっとしたらこんなドラマがあったのかもしれない。伝令は二人一組で戦場を駆け抜け重要な作戦を伝える。
サム・メンデスがワンカットにこだわったのは「観客に戦場を走り抜ける兵士の息遣いを感じさせたい」からだ。但し、「プライベート・ライアン」や「ハクソー・リッジ」のように肉片や血しぶきが飛ぶような残酷な場面は抑えられている。
僕たちは伝令兵士に感情移入し戦場を駆け巡る。そして彼らの行く手には何が現れるのかドキドキしてみることになる。しかし、欠点もある。映像の切り替えが無いことは逆に単調になってしまう。
伝令兵士が走るのを延々と見せられるだけでは飽きてしまう。だから彼らが走る行く手に、戦闘機の落下、スナイパーの攻撃、敵の兵士に追っかけられるなど・・・見せ場も用意している。若い二人の主人公に対しイギリスを代表するベテラン達が脇を固めている。
話のスジを少し紹介すると、1917年第一次世界大戦が始まって3年。ドイツ軍とイギリス・フランス連合軍は長大な塹壕を挟んで一進一退を続けていた。
4月6日の金曜日、ウィリアム・スコフィールド(ジョージ・マッケイ)とトム・ブレイク(ディーン=チャールズ・チャップマン)上等兵はエリンモア将軍(コリン・ファース)から呼ばれる。
マッケンジー大佐(ベネディクト・カンバーバッチ)に明朝の攻撃を中止するようにと書かれた手紙を届けろとのことだ。ドイツ軍は退却に見せかけて大佐のデヴォンシャー連隊第二大隊を待ち伏せしている。
マッケンジー大佐率いる軍隊1600人が突撃すれば、ドイツ軍のおびただしい砲兵隊によって全滅させられる最悪の事態が考えられる。これは航空写真によって得られた情報だ。
1600人の中にはトム・ブレイクの兄ブレイク中尉(リチャード・マッデン)もいる。しかし、デヴォンシャー連隊第二大隊に追いつくにはドイツ軍に占領された街の中を通らなければならない。そして時間は一刻一刻と過ぎてゆく。
二人は危険なドイツ軍の占領地に入ってゆく、果たして命を懸けた伝令は間に合うのか・・・。
その後のストーリーとネタバレ
ウィリアムとトムは鉄条網の隙間から前線へと向かう。途中、ドイツ軍が作った塹壕の中を進む。ところがここに爆弾が仕掛けてあった。爆発とともにウィリアムががれきに埋まってしまう。トムは彼を掘り出す。運よく大きなダメージを受けて無いようだ。
先に進むと、農家の建物が見える。丘の上には牛がいる。そして小屋には搾りたてのミルクが桶に入っていた。ウィリアムはそれを水筒に入れる。空ではドイツ軍とイギリス軍の戦闘機が戦っていた。
ところがそのドイツ軍の戦闘機が打ち落とされウィリアムとトムめがけて滑空してくる。そしてそれをよけると、中から火だるまのパイロットを助け出す。しかし、パイロットはトムの腹をナイフで刺す。慌てたウィリアムはドイツ兵を撃ち殺す。
トムは「母に手紙を書いてくれ」と言い残して息を引きとる。ウィリアムはトムの遺品をしまうと、突如現れたスミス大尉(マーク・ストロング)に話しかけられる。伝令内容を察した彼は頑固なマッケンジー大佐の対処方法を教えてくれた。必ず、第三者の前で彼に手紙を渡せと・・・。
そして途中まで大尉の軍隊のトラックに乗せてもらう。しかし橋が壊されている。ウィリアムはトラックから降り、壊れた橋を伝わって向こう岸へと渡る。その時、スナイパーから狙われる。橋を渡りスナイパーのいるところへと階段を上ると奴を撃ち殺す。
ところがウィリアムも撃たれ階段の角で頭を打ち付け気を失ってしまう。気が付いた時には夜だ。幸いかすり傷だ。ドイツ軍に占領された街には彼らがうようよいた。彼らの追撃を逃れ地下に入ると女と赤ん坊がいた。女はフランス人らしい、頭のケガを布で拭いてくれる。
赤ん坊は女の子供ではないようだ。彼女に水筒のミルクを渡して、また走り始める。何とか、目的の軍隊がいる森までたどり着いた。精魂尽き果てて座り込むが何としてでも攻撃を止めなくてはとマッケンジー大佐を探す。
その時、突撃命令が下り、第一陣が壕から飛び出し出撃する。マッケンジー大佐はあと300m先にいる。ウィリアムはそこに向かって死に物狂いで走る。そしてやっと大佐の地下作戦室に入る。そこには何名かが作戦参謀がいた。
大佐は攻撃を止めるつもりはないようだが強引にエリンモア将軍の手紙を渡す。彼は手紙を見ると攻撃命令を中止した。マッケンジー大佐は作戦の変更はよくあることだ、明日はまた別の命令が届くかもしれないとつぶやく。
ウィリアムはトムの兄、ブレイク中尉(リチャード・マッデン)を探し当てる。彼にトムの遺品を渡す。ブレイクは彼にねぎらいの言葉をかける。ウィリアムはふらふらと歩き大きな木の根元に腰を下ろす。
レビュー
ワンカット撮影ではなく、ワンカットに見えるように撮影しそれをうまくつなぎ合わせたものだ。しかし、過去にないほど「戦場を走り抜ける兵士の息遣い」が伝わってきた。
この映画を見て思い出すのはオリバー・ストーン監督の「プラトーン」だ。自分自身が戦場に放り出されたように臨場感があった。彼はベトナム帰還兵だ。「1917命をかけた伝令」も臨場感と言う点では負けていない。
この作品の舞台は第一次世界大戦だが、この戦いから色々な戦争兵器(航空機、戦車、潜水艦など)が開発され、それによって犠牲者も飛躍的に増えている。一説には1600万人以上が犠牲になっている。
もう一つ紹介
この映画は当時の史実に基づいてセットが組み立てられている。驚くことに、塹壕のセットは何もない平地に建設機械で数キロに渡って深い溝を掘り、ゼロから立派でリアルなセットを作り上げている。これにはびっくりだ。日本ではなかなかむつかしいかもしれない。映画が「手作りの芸術作品」と言われる所以だ。
1人の下級兵士が主役となって戦場を走り回るところは、クリストファー・ノーラン監督の「ダンケルク」も同じだ。戦場の過酷さ、生き延びる難しさが映像ににじみ出てくる。戦争とはいったい何なのだと考えさせる。
TATSUTATSU
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