サマリー
2017年9月日本公開のイギリス・アメリカ・フランス・オランダ合作の戦争サスペンス映画
監督・脚本・製作 クリストファー・ノーラン(バットマン ビギンズ、ダンケルク、インターステラー、インセプション、TENETテネット)
出演 ●フィン・ホワイトヘッド(ダンケルク)
●トム・グリン=カーニー(ダンケルク)
●ジャック・ロウデン(ダンケルク)
●ハリー・スタイルズ(ワン・ダイレクションの世界的ミュージシャン)
●アナイリン・バーナード(ダンケルク)
●ジェームズ・ダーシー(エクソシスト ビキニング、クラウドアトラス、ダンケルク)
●バリー・コーガン(ダンケルク)
●ケネス・プラナー(ヘンリー五世、ハムレット、マリリン7日間の恋、ダンケルク、TENETテネット)
●キリアン・マーフィー(インセプション、トランセンデンス、ダンケルク、白鯨との闘い)
●トム・ハーディー(インセプション、ダークナイト ライジング、ダンケルク、マッドマックス 怒りのデス・ロード)
●マーク・ライアンス(ブリッジ・オブ・スパイ、ロミオとジュリエット、ダンケルク)
監督のクリストファー・ノーランは徹底したリアリストだ。彼は「この映画は戦争映画ではなくサスペンス映画だ」と言っている。確かに、そう考えると、戦闘シーンがほとんどない。ドイツ兵もほとんど出て来ない。不思議な感じがしたけど、パンフレットを読むと納得だ。(パンフレットも参考にしてレビューしています。)
これと対極にあるのがスピルバーグ監督の傑作「プライベート・ライアン」だ。銃弾によって血や肉が飛び散り、海岸が血に染まる。ノーランは「この映画を参考に見た」けれど自分のスタイルではないと告白している。
「ダンケルク」ではほとんど血は見せない・・・これは彼の洗練されたスタイルだと思うし美学だ。「インセプション」「インターステラー」「TENETテネット」なども残虐なシーンはほとんど無くスタイリッシュな映像だ。だから子供でも戦争映画の嫌いな女性でも見ることが出来る。
かといって緊迫感が無いかと言えばそんなことは無い、自分が映像の中に放り込まれたかのようなリアリティがある。映画も106分と短い。ノーランは「リアリティを極限にまで追及した結果、緊張が続き観客が長時間に耐えられない」と言っている。
セリフはほとんどなく映像とハンス・ジマーの音楽、爆撃音や飛び交う銃弾の音、逃げ惑う兵士の叫び、飛行機のエンジン音などの効果音だけだ。
主役級が無名の配役と実年齢に近い若者達を起用している。僕らは主として彼らの視点で映像を見ることになる。でも、トム・ハーディー、キリアン・マーフィー、マーク・ライアンス、ケネス・プラナーなどハリウッドを代表するスターも出演させているから豪華な映画だ。
さらに①戦闘機のパイロットは1時間、②民間の小型船舶は24時間、③陸上の兵士は一週間の3つの時間軸で物語が進行してゆく。撮影場所はダンケルク(フランス)その場所、駆逐艦も本物、戦闘機も本物を使っている・・・まさに本物づくめだ。CGを使わないのにこれだけの迫力が出せる。
話しのスジは、第二次世界大戦の1940年5月26日~6月4日までの10日間。場所はフランスのダンケルクと対岸のイギリス。ドイツ軍に追い詰められたイギリス軍、フランス軍合計40万人をダンケルク港から脱出させるダイナモ作戦の実話をドラマ化している。
世界には「ダンケルクの大撤退」として歴史に残っており、賞賛すべきは多くの民間船舶も撤退に協力している。イギリスでは現在でもこの勇気ある行動をダンケルクスピリットと言って誇りにしている。
僕は、この映画は傑作だと思う。戦場からの撤退の実話が果たして映画になるのかと思っていたけど、杞憂だった。106分間ダンケルクの海・空・陸を堪能することをお薦めする。映画が終わった後、充実感に浸れると思うよ。
ストーリー
ドイツ軍の猛攻によってダンケルクに追い詰められた、英仏連合軍40万人。彼らはこの港から船に乗って対岸のイギリス領に逃れようとしていた。陸から迫りくるドイツ軍、空からは戦闘機や爆撃機が襲ってくる、海ではUボートが待ち構えている。果たして彼らの運命は・・・。
防波堤:一週間の出来事
若い兵士トミー(フィン・ホワイトヘッド)はドイツ軍の狙撃を逃れ、イギリス軍が死守するダンケルクにやっとの思いでたどり着く、仲間はすべて脱落していた。
海岸に着くと港は船を待つ兵士で埋め尽くされていた、船に乗るにはもう何日もかかりそうだ。彼は海岸で兵士の死体近くにいたギブソン(アナイリン・バーナード)と顔見知りになる。
トミーとギブソンは海岸で瀕死の兵士を見つける。彼らは傷病兵を担架に乗せ兵士をかき分け桟橋へと急ぐ。あわよくばケガを負った兵士と一緒に船に乗り込もうと言う算段だ。
ところが胴体に赤十字が記された救急船は満員だ、彼らは隠れて橋げたに取り付く。しかしその救急船もドイツ軍の爆撃に遭って目の前で沈没してしまう。トミーは船から泳いできたアレックス(ハリー・スタイルズ)を助ける。
彼らは次に来た掃海艇に乗り込むことが出来た。掃海艇の中で食事にありつく彼らだが、そこをUボートの魚雷に襲われまた海へと放り出される。
海岸に泳ぎ着いた彼らは途方に暮れる。ある兵士の一団についてゆくと民間の小型船が座礁していた。潮が満ちれば船は使えるとのことだ。この船の船倉に潜み満潮を待って沖へと向かうが、また爆撃にあい重油の漂う海へと投げ出されてしまう。さらに運の悪いことに重油に火が付く、果たして彼らは逃げ延びることが出来るのであろうか・・・。
海:一日の出来事
英国海軍はダンケルクの兵士を助ける為イギリス海岸に停泊している民間の船を徴用する。小型船の船長ドーソン(マーク・ライアンス)は息子のピーター(トム・グリン=カーニー)と彼の友人ジョージ(バリー・コーガン)を乗せてダンケルクに向かう。
途中、沈没船に一人取り残された英国兵(キリアン・マーフィー)を救助する。船がダンケルクに向かっているのを知ると兵士はパニックを起こし、もみあいになったジョージが頭を打ち付け重傷を負う。
彼らは海上に漂い今にも沈没しそうなスピットファイア(イギリス戦闘機)からコリンズ(ジャック・ロウデン)を拾い上げる。ドイツ空軍の攻撃の中、そして重油の漂う海をダンケルクに向かって進む。
空:一時間の出来事
イギリス軍のスピットファイア三機が脱出を支援するためダンケルクに向かう。そこにドイツ軍のメッサーシュミットが襲ってくる。隊長機は既に撃墜された。
ファリア(トム・ハーディー)が乗る機体は敵の銃撃によって燃料計が故障する。敵機と銃撃戦になり一機撃墜したもののコリンズの機体は被弾し海上に不時着する。
ドイツ軍の爆撃機がダンケルクの救助船に向け攻撃を仕掛ける。ファリアは帰りの燃料が無くなるのを覚悟し、爆撃機を追う・・・。
ネタバレとレビュー
防波堤:一週間の出来事
トミーとアレックスは海面の燃え盛る炎を避け、救助に来た民間船に拾われる。彼らはやっとのことでイギリスの港にたどり着く。そして列車に乗り込むと死んだように眠り込む。
列車はそのまま何時間か進み、気が付くと窓の外には多くの民衆が歓喜の叫びをあげていた、助かったのだ・・・。
海:一日の出来事
小型船の船長ドーソンは敵の攻撃を避け、燃え盛る海上の炎を迂回してダンケルク港に到着する。そして多くの兵士を乗せイギリスの港に引き返す。
頭に重傷を負ったジョージは息絶える。彼は後の新聞で命を懸けて多くの兵士を救ったとして英雄として皆の心に永遠に残る。(ジョージともみ合った兵士は彼が自分のせいで死んだことを知らない。またドーソンとピーターも何も語らない。)
空:一時間の出来事
ファリアのスピットファイアはもう燃料切れだ。それでも最後の力をふりしぼって、ドイツの爆撃機を攻撃し、救助船を救う。
燃料が無くなり、彼の戦闘機は砂浜に着陸する。ファリアは戦闘機を燃やす。そしてドイツ兵に拘束される。
ダイナモ作戦とよばれるダンケルク大撤退はイギリス・フランス連合軍40万人をダンケルク港から船によって約33万人救出したとされている。この時、民間の小型船舶850隻も投入されている。
この大撤退にイギリスの陸・海・空軍が投入されたが、戦闘機や軍艦などの損害も大きかったらしい。しかしこれによって多くの兵士が無傷で温存出来、イギリスにとっては自国を固めるうえで大いに役だった。
この映画では英雄と呼ばれるような兵士にはあまり焦点を当ててない。若い兵士たちが死に物狂いで逃げる様をリアルに描いている。通常の戦争映画としては有り得ないストーリーだ。
監督のクリストファー・ノーランは脚本も担当している。客観場面より主観場面を多く挿入することにより究極のリアルを実現させている。
CG全盛の時代に、これをほとんど使わず、本物と本物にみせたセットで主観ドラマを作り上げる監督の凄さに敬服する。
TATSUTATSU
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