サマリー
★★★★☆(見るべき名作)
2019年10月4日日本公開のアメリカ制作アンチヒーロードラマ
監督・脚本・制作 トッド・フィリップス(ハングオーバーシリーズ、ジョーカー)
出演 ●ホアキン・フェニックス(サイン、ヴィレッジ、her、ザ・マスター、ドント・ウォーリー、ジョーカー)
●ロバート・デ・ニーロ(ヒート、レッド・ライト、リミットレス、マイ・インターン、ジョーカー)
●ザジー・ビーツ(ジオストーム、ジョーカー)
●フランセス・コンロイ(ジョーカー)
体制べったりのヒーロー映画に飽き飽きしてきたあなた、アンチヒーロー映画はいかが。平気で人殺しをする悪役が主役だなんて・・・。ところがこれがもの凄く面白いのだ。しかも、今の時世にピッタリだ。
最近、世の中を見渡してみるとこんなドラマが多い。世界は一握りの大金持ちが支配しているダークワールドだ。彼らは「王様ごっこ」を楽しんでいる。でも貧乏人はローンに苦しみドブから這い上がれない。
天才ハッカーが世の中のサーバーを破壊しローンをチャラにしようとする海外ドラマ「ミスター・ロボット」。人間に痛めつけられるAIロボットが反乱を起こす「ウエストワールド」。そして実験動物として殺されるサルたちが反乱を起こす「猿の惑星」。
世の中は腐りきっている。みんなピエロだ。でも何かがおかしいと多くの人達が気付き始めている。この映画に触発されて大暴動がおこるのではとテレビニュースが流れていた。ピエロの仮面をかぶった市民が世界中で暴動を起こすと思われるほどこの映画はリアルで過激だ。
多分この映画は世界の一部で上映禁止になるかもしれない。しかし、これが問題なく見られる日本に住んでいて幸せだと思う。ニューヨークでロケがされており、しかも米国と同時上映だ。
自由をかみしめ映画館に駆けつけてほしい。ホアキン・フェニックスの狂気の演技に触れれば、あなたにも何かが変わろうとする予感がするはずだ。
話のスジを少し紹介すると。貧富の差が激しくごみ溜めのようになってしまったゴッサムシティ。貧しい道化師のアーサー(ホアキン・フェニックス)は心臓病と精神病を患った母親ペニー(フランセス・コンロイ)の面倒を見ながら暮らしている。
アーサーも精神を病み緊張すると「笑いの発作」に苦しめられる。治療薬をもらうためにソーシャルワーカーのカウンセリングに通うが市の予算削減でそれも今日で最後だ。
彼は仕事中若い暴力青年たちに商売道具を壊され、しかも袋叩きにあう。同僚のランドルが自分の身は自分で守れと拳銃をくれる。ところが小児病棟でのピエロの仕事の最中に拳銃を落とし、これが原因で解雇される。
どん底に落とされたまま地下鉄で家に帰る途中、車内で女性をからかう3人組のサラリーマンに遭遇する。彼女をかばったことからケンカになりアーサーは3人を撃ち殺してしまう。ところがこれが彼を物凄く爽快な気分にさせる。
家に帰ったアーサーは隣に住むシングルマザー、ソフィー(ザジー・ビーツ)を強引に口説き恋人同士になる。彼はコメディアンとしてナイトクラブに出演するがジョークがあまりにもシュールで一般人には受けない。
ところが、この映像が有名なバラエティ番組の司会者マレー・フランクリン(ロバート・デ・ニーロ)の目に留まり、テレビ出演の依頼が舞い込む。果たしてアーサーは人気者になれるのか、それとも・・・。
その後のストーリーとネタバレ
アーサーの母ペニーは30年前に大富豪トーマス・ウェイン(ブレット・カレン)の邸宅で使用人として働いていた。そしてトーマスに恋心を抱き、アーサーは彼の息子だと言い張る。
アーサーはトーマス・ウェインの大邸宅に行くも追い返されてしまう。そこには子供のブルース・ウェイン(ダンテ・ペレイラ=オルソン:後のバットマン)がいた。
さらに父と思っていたトーマス・ウェインにも直接会うが殴り倒されてしまう。おかしいと感じた彼は自分の出生を調べてみると驚愕の事実が分かった。
自分は養子であり、母の本当の子供ではない。しかも母親の恋人から虐待を受け幼いころに脳に障害を負ったことも記録されていた。「笑いの発作」はこれが原因だったのだ。彼は母親の顔に枕を押し付け殺してしまう。
傷心のアーサーは恋人のソフィーのところに行くが「出て行って」と冷たくあしらわれる。彼女との恋人関係は薬による自分の妄想・幻覚であった。
巷では生活困窮者たちが支配層に向かって暴動を起こしていた。そして傲慢なホワイトカラーを撃ち殺した謎の道化師が英雄に祭り上げられていた。
アーサーは顔にピエロの化粧をほどこし、全国放送番組マレー・フランクリン・ショーに出演する。そして自分のことを「ジョーカー(冗談屋)」と呼ばせる。
「ジョーカー」はショーが最高潮に達した時、拳銃を取り出しマレーを撃ち殺してしまう。この模様はリアルタイムで放送され暴動に拍車をかける。
「ジョーカー」は警察によって連行される途中、自動車事故で気絶する。群衆たちは彼を車から救出し、神のように崇める。「ジョーカー」は車のボンネットの上で息を吹き返し群衆を扇動する。暴徒たちは町を破壊しつくす。
この暴動の中、トーマス・ウェインとその妻が幼い息子の前で暴徒に撃ち殺される。「ジョーカー」は警察に再度捕まり精神病院に収容されるがそこからも逃げようと走り回る・・・。
レビュー
2012年公開された映画「ダークナイトライジング」のコロラド州の上映館において銃乱射事件が起きている。今回の「ジョーカー」は関連作品だ。この暗いテーマが銃乱射事件の記憶を呼び覚ますのではないかと心配されている。
アメリカではこの作品の上映に際して陸軍やロサンゼルス市警が警戒態勢をしいている。また、ピエロなどの仮装やマスクを禁止するところも出ている。
しかし、作品としては芸術性が高く、第76回ヴェネツィア国際映画祭で最優秀賞作品賞の「金獅子賞」を獲得している。
ホアキン・フェニックスはこの映画を撮るため30キロ近い減量をしている。彼の目は落ち窪み体はガリガリだ。監督のトッド・フィリップスは「ハングオーバーシリーズ」に代表されるコメディ映画が得意だがこんな過激なドラマが作れるとは・・・才能豊かな人だ。
しかし、何といってもホアキン・フェニックスの狂気迫る演技には圧倒される。1976年に公開された「タクシードライバー」を思い出す。この作品はロバート・デ・ニーロの出世作だ。今回の映画で新旧の演技派が共演するとは面白い取り合わせだね。
TATSUTATSU
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