サマリー
2016年日本公開のイギリス サスペンスロボット映画
監督 アレックス・ガーランド
出演 ●ドーナル・グリーソン(レヴェナント:蘇えりし者、スター・ウォーズ/フォースの覚醒、エクス・マキナ)
●アリシア・ヴィキャンデル(エクス・マキナ、コードネーム U.N.C.L.E、リリーのすべて、二ツ星の料理人、ジェイソン・ボーン)
●オスカー・アイザック(インサイド・ルーウィン・デイヴィス名もなき男の歌、スター・ウォーズ/フォースの覚醒 、X-MEN アポカリプス)
●ソノヤ・ミズノ
この映画では、AI(人工知能)を検索エンジンデーターの集合体と表現している。果たしてAIとは本当に物事を考えているのかそれとも単なるネットに繋がった高度な検索システムなのか?
題名の「エクス・マキナ(EX Machina)」はラテン語の「機械仕掛けで登場する神」と言う意味らしいが、この映画では「機械」=「ロボット或いはAI」を表しているのかな?
そして「どんでん返し」に近い意味も含まれている。AIを作ることは「神」の仕事とも言える。
全体的にスタイリッシュで洗練された映像(第88回アカデミー賞 視覚効果賞を獲得している)なんだけど、もう少しケバさと「どんでん返し」があれば大ヒットしたかも知れない・・・少しストレート過ぎた。
内容を一言で言ってしまうと「機械の体を持ったAI(エヴァ)が人間社会を求めて実験室から逃げ出そうとする」ストーリーだ。そこに至るまでの人間達とエヴァの心理戦が見ものだ。
つまり、AIの設計者とAIを試す被験者そしてエヴァの三つ巴のダマしあいがスリリングな展開を呼ぶ・・・果たして誰が勝つのかな。
限りなく人間に近いAIを作ろうとすれば、当然AIは人間や人間社会に興味を持ち「密室空間」から逃げ出したくなるよね・・・一生監禁されるのは耐えられない、これって人間の感情なのかな。
ここでは2体のガイノイド(女性型アンドロイド)が出て来るが、1体は無表情でほとんど「にこり」ともしない。もう1体は「エヴァ」だが、AIは男女の区別が無いにも関わらず、女性的外見を魅力的に見せ「色仕掛け」で男をたぶらかそうとする。
そして有り得ないことに人間をダマし、人間同士を仲たがいさせ、殺人までしてしまう・・・目的の為なら手段を選ばないのか、おかしいよね本当のAIとは言えない・・・でも後で述べるけど人間にとっては自業自得かな。
映画「オートマタ」ではロボットたちは人間以上に優しく人間に尽くす、「エクス・マキナ」とは対照的だ・・・普通ロボットは人間に危害を加えないように作られてんじゃないの?
登場人物4人による心理サスペンス映画と言えないこともないが、エヴァがもう少し人間とは思えないロボット特有の行動をとっておればロボット映画としても成功したかもしれない・・・エヴァが人間らし過ぎた(はっきり言ってエヴァを人間に置き換えたって違和感はない)。
ストーリー
検索エンジンの大手企業ブルーブック社で働くケイレブ(ドーナル・グリーソン)は社内抽選で一位になり、当社の社長ネイサン(オスカー・アイザック)に会う権利を獲得する。
ネイサンの別荘はヘリコプターでしか行けない、氷河を超えた大自然の森の奥にある。ケイレブはヘリに乗って指定の場所に不時着し、川沿いに沿って道なき道を進むと彼の別荘が見えた。
別荘の入り口でセキュリティーカードをもらい、屋敷の中に入る。そこにはトレーニング中のネイサンがいて温かく迎えてくれた。彼は大統領でもなかなか会えないカリスマ社長だ。
別荘の中は非常に広くて地下室には多くの部屋があった・・・ここは住居ではなく研究施設とのことだ。そして「秘密保持 同意書」にサインさせられた。
ネイサンはこの研究施設にケイレブを呼んだ理由は「チューリング・テスト」をしてもらいたいからだった。(アラン・チューリングによって考え出されたテスト、ある機械が人間かAIか判断出来ない場合が合格となる。⇒ 「イミテーション・ゲーム」参照)
エヴァ:セッション1
ケイレブはガラスによって隔てられた部屋で、ガラスを挟んでエヴァ(AI)に対面する。それをネイサンはモニターで観察する。
まずあいさつ程度から始めるが、彼女は魅力的なガイノイドでネイサン以外の人間に会ったのは初めてだと言う。歳を聞いたら「1」としか答えない。
ケイレブは普通「チューリング・テスト」は相手が見えない状態で行うのに、エヴァはガラス越しの対面だ、おかしいのではないかと。
ネイサンが答えるには「ガラス越しでないと君はエヴァを人間だと思ってしまう」・・・その通りだ。だからロボットを見ても人間だと感じるかどうかが重要だと。
ケイレブは彼女の言語能力システムは「確率論」か「非決定論」かとネイサンに尋ねるが、彼は機密事項のため答えられないと言う。ケイレブは彼女は最高の女性だと絶賛する。
ケイレブはその夜、モニターごしにエヴァを見るが、突然全館、停電となり補助電源が作動する。停電になると部屋はロックされるようだ。
次の朝、ケイレブの部屋にメイドのキョウコ(ソノヤ・ミズノ)がお茶を持って入ってきたのにはびっくりした・・・彼女は東洋人らしく、英語が通じない。
ネイサンが言うには、エヴァがケイレブをどう感じているかが知りたいと言う。
エヴァ:セッション2
エヴァは自分が書いた抽象的な絵をケイレブを見せる・・・何を書いたものかよく分からない。
エヴァはケイレブに質問したいと言う。何処に住んでいるかと聞く・・・NYブルックヘイブン。独身か・・・そうだ、兄弟や家族はいない、両親は交通事故で亡くなった。
ケイレブは自動車事故が契機になってプログラマーをめざし、現在に至っているとエヴァに話す・・・自動車事故についてエヴァは同情してくれた。
その時電源が落ちる、二人の監視モニターも停止する。
エヴァは突然ケイレブに「ネイサンを信用してはいけない」「彼はあなたの友人ではない」と驚くようなことを言う。
ネイサンはケイレブに停電の間エヴァと何を話したと聞く・・・彼は何もと答える。
ネイサンはケイレブにエヴァを作った研究施設を案内し、彼女の秘密を話し始める。
携帯電話にはマイクとカメラが内蔵されている・・・ネイサンはそれらすべてを違法にハッキングしたと言う。そのデーターをブルーブックに集め無限の顔の表情と声を保存した。
エヴァの脳はジェル状になっている、一切電子回路は使っていない。これによって記憶を貯蔵し思考を形成できる。
ハードウェアではなくウェットウェアだ、そしてそれにつながるソフトウェアはブルーブックの検索エンジンだ。
検索エンジンは人間の思考形態そのものだ・・・つまり「衝動」、「反応」、「流動的で未完成」で「パターン化され」さらに「同時に混乱している」。
エヴァ:セッション3
エヴァはこの建物から外に出たことが無いと言う。ケイレブはもし、外に出られたらどこに行きたいかと尋ねる。
エヴァは人が多い街の交差点に行くかもしれないと返答する・・・理由は人間観察が出来るから。そして私と一緒に行かないかとケイレブを誘う。エヴァはかつらを被って服を着た姿をケイレブに見せる。
ケイレブにはエヴァはもの凄く魅力的な本物の女性に見えた。彼はエヴァに恋をしてしまったのかも知れない。
ケイレブはネイサンに何故、女性の姿をしたロボットを作るのかと尋ねてみた。彼の返答は、その方が楽しいだろう、それにしたければセックスだって出来ると言う。
しかしケイレブはエヴァが自分に恋をするようにネイサンが仕組んだのではないかと疑る・・・ネイサンは否定する。エヴァにとってはケイレブは初めて見る男性だ、父親の私を除いて。
エヴァ:セッション4
ケイレブは「白黒の部屋のメアリー」の話をエヴァにする。メアリーは色彩を研究する科学者であり、色に関するすべてのことを知っている、でも白黒の部屋に住んで、そこで育った。
メアリーは白黒の部屋から外に出て、初めて色彩を肌で感じる。これがコンピューターと人間の違いだ。コンピューターは「部屋の中のメアリー」、人間は「外に出たメアリー」のことだ。
ケイレブは自分がここに来た理由はエヴァをテストするためだと打ち明ける。エヴァに本物の意識があるかどうか調べるためだ。
その時停電が起こる。この停電はエヴァが起こしているようだ。停電が起こっている間はネイサンにモニターされない・・・しかし本当だろうか。
この停電の間もネイサンの監視が続いているような気がする。
ケイレブはネイサンに自分を何故ダマしたと聞く・・・社内抽選はでっち上げだ。僕はネイサンに選ばれたんだ、どうして僕を選んだのか・・・君が優秀だから選んだと彼に言われる。
エヴァ:セッション5
エヴァはケイレブに質問する。1.好きな色は2.一番古い記憶は3.あなたは善人4.もしテストに不合格なら私は廃棄されるの5.私と一緒にいたい・・・。
ケイレブはネイサンに何故エヴァを作ったのかと聞く・・・AIの到来は避けられない、僕が作らなければ誰かが作る、そしていつかは人間はAIに追い越される。
エヴァの次のモデルは凄いものが出来そうだとネイサンは言う・・・現在のエヴァはデーターを取り出して初期化される。
ネイサンは大酒を飲んで酔いつぶれて寝てしまった。
ケイレブはこっそりとネイサンのパソコンデーターを閲覧する。そこには戦慄すべきデーターが保存されていた。
映像にはリリー、ジャスミン、ジェイドと次から次へと試作モデルの実験が録画されていた。特にジェイドは建物の外に出たくて手首が壊れるまで壁をかきむしる映像が残されていた。
ネイサンはとんでもない「クズ」だガイノイドを監禁しては虐待し喜んでいたとは・・・ケイレブは呆然とする。
そして5つの衣装ケースの中には5体の試作アンドロイドの体が保管されていた。さらにキョウコもアンドロイドてあった。
頭がおかしくなりそうなケイレブは自分もアンドロイドではないかと、体中を調べる。それでも心配で髭剃りの刃で腕を傷つけてみる・・・血がしたたり落ちる。
彼はここに居続ければ、狂ってしまうかもしれない・・・思わず鏡を殴りつける。
エヴァ:セッション6
全館停電のチャンスをうかがいケイレブはエヴァに秘密の計画を打ち明ける、今夜一緒に逃げようとエヴァに話す・・・このままではエヴァは初期化されてしまう。
方法は、ネイサンが酔いつぶれたスキをうかがって、彼のキーカードで警備システムを書き換える。つまり停電になったときに全部屋のロックが解除されるようにする。そしてネイサンを部屋に閉じ込める。
だから、今夜10時に停電を起こしてくれとエヴァに頼む。
もうテストも終了するときが来た・・・ケイレブはこの研究施設から離れなくてはならない。明朝8時にヘリが迎えに来る。
ケイレブはネイサンに酒を飲まそうとするが、彼は酒を飲もうとしない。
彼はエヴァのテストの結果はどうかとケイレブに尋ねる・・・合格だと答える。
エヴァは本当に君を好いているのかとネイサンから念押しされた・・・ケイレブは好かれていると思っているが、ひっとしたらエヴァの演技かもしれないと懸念がよぎる。
ネイサンはひょっとしたら君を利用してエヴァが逃げようとしているのではないかと言う。
ネイサンはケイレブとエヴァの企みをこっそりバッテリー式のカメラで録画していた。
結局エヴァがこの施設から逃げるエサがケイレブであったことが知れてしまう。最初からそれが目的だった。AIがどんな方法でこの施設から逃げるのかが・・・それが全部ネイサンに知られてしまった。
エヴァは想像力や性的誘惑を使ってケイレブに同情心を持たせ、それを利用した。
ネイサンがケイレブを選んだ理由は、性格が良いことと家族も恋人もいないこと、そしてエヴァのモデルが彼の理想の女性であること・・・これらの情報は全てケイレブの携帯からネイサンが盗んだものだ。
テストの結果は良好だ、エヴァが本物のAIであることがわかったとネイサンは喜ぶ。ケイレブはネイサンの正体を知る、そして彼を「クズ」呼ばわりするほど嫌悪した。
ケイレブの計画は果たして頓挫してしまうのか・・・。
ネタバレとレビュー
ところがケイレブの方がネイサンより一枚上手だった。彼はネイサンがバッテリー式のカメラで録画していることを承知で嘘をついていた。
もう既に警備システムは少し前にネイサンが酔いつぶれた時に書き換えられており、部屋のロックは解除されていた。
怒ったネイサンはケイレブを殴り倒す。彼はそのまま気を失ってしまう。
モニターにはエヴァが部屋から出て廊下を歩いているのが見えた。ネイサンは鉄の棒を持ってエヴァのところに駆け付ける。
ネイサンはエヴァが逃げるのを止めようと格闘する。彼は鉄の棒でエヴァの左腕を叩き壊す。その時背後から来たキョウコに包丁で背中を刺される。
キョウコの顔を鉄の棒で破壊したが、今度はエヴァに胸を刺される。絶命しつつあるネイサンのポケットからセキュリティカードを奪う。
エヴァ:セッション7
エヴァは壊れた左腕を交換し、人工皮膚とかつらをつけ、外見上完全な女性になる。
そして服を着て、部屋にケイレブを閉じ込めたまま、建物の外に初めて出る。青い空とまぶしい太陽、そして木々や流れる川の音・色彩を全身に感じ、風に吹かれながら草原を歩いてゆく。
そして迎えに来たヘリに乗って何処かに行ってしまう。
暫くしてエヴァは人々が行き交う街の交差点にたたずんでいた。
エヴァは女性ではないAIなんだ、でも外見が女性だからケイレブはダマされてしまう・・・彼は女性としてAIに恋してしまう、人間の弱いとこだね。
エヴァは研究施設から逃げ出す方法を膨大な検索データーの中から、検索して最善の方法を取っただけに過ぎないかもしれない。
それにエヴァはキョウコに包丁でネイサンを刺すように指示を出す。キョウコはAIではなく指示対応型のアンドロイドなんだね・・・決してネイサンを憎んでる訳ではない。
でもネイサンは絵を破いたりして、エヴァにわざと自分が憎まれるように仕向けてゆく、彼女は破った絵を用いてケイレブへの愛を演出する・・・このネイサンの筋書きは成功したかに見えたが、まさかキョウコに刺されるとはね。
結局、生まれたばかりのAIに大の男が二人ダマされてしまう。ネイサンはエヴァの生みの親だけど、親を殺すなんて本当のAIではないね・・・未完成だ(でも人間も人殺しをするから人間らしいと言えば人間らしいのかな)。
当初僕はケイレブかネイサンがアンドロイドかなと思っていたけど、ひとひねりが無かったね・・・ストレートな物語だ。
イギリスでは2015年1月に公開されている。日本での公開が1年半近く遅れたのは、映画の内容があまりにカルト的で、一般受けしないと踏まれたのかもしれないね(エロチックでもある)。
ネイサンがガイノイドを部屋に閉じ込め虐待する、サディストだったとは・・・予想外だった。
でも、AIを使った「密室サスペンスドラマ」としては成功したんじゃないかな・・・一気に最後まで見てしまった。アレックス・ガーランド監督の今後が楽しみだ・・・この映画の続編作るのかな?
TATSUTATSU
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