SF

映画「アルカディア」感想・評価:最期の最後までオチが分からないディストピアドラマ

サマリー


★★★☆☆(お薦め)

2018年日本公開のアメリカ製作SFディストピアドラマ
監督・脚本・撮影・編集 ジャスティン・ベンソン、アーロン・ムーアヘッド(アルカディア
出演 ●ジャスティン・ベンソン
●アーロン・ムーアヘッド

『アルカディア』予告

 

「アルカディア」とはギリシア・プロポネソス半島の中央部の地域名であるが「理想郷/ユートピア」と言う意味で使われることが多い。この映画は冒頭に二つの言葉が引用されている。

●「人間の感じる最たる恐怖は未知なるものへの恐怖である」

●「友人は互いに感情を打ち明けるものだが」「兄弟が本音を明かすのは死の間際」

これがこの映画テーマだ。低予算B級映画だが海外ドラマ「LOST」のように不気味な謎が次から次へと出てきて最後まで飽きさせない。プチョン国際ファンタスティック映画祭で最優秀作品賞を受賞している。

この不思議なドラマに入り込んだら抜け出せない、何がどうなっているかは自分で体験してみて感想を述べて頂きたい。僕にはさっぱりわからない・・・。

ジャスティン(ジャスティン・ベンソン)とアーロン(アーロン・ムーアヘッド)の兄弟はちまたでカルト集団と言われている自給自足の「アルカディア村」から脱走してきた。もう10年も経つ。

彼らのもとに「アルカディア村」から送られてきたビデオテープを見る。幼少期から村で過ごしてきた二人には今、住んでいる都会にはなじめない。友人も恋人も出来ず、清掃員として毎日を繰り返し過ごしているだけだ。

二人は郷愁にかられ、「アルカディア村」に戻ってみようと実行に移す。村に戻った彼らを昔の仲間は歓迎してくれた。ところが10年も経っているのに住民達は歳を取っていないように見えた。

そして、この村では不思議な超常現象が起こり始める。この現象について村人たちは全く驚かない、淡々と日々を過ごしこの現象を受け入れている。

しかし、特にジャスティンは違和感と恐怖心が徐々に自分の中で膨らんでゆく。彼は弟とこの村を早く出なくてはいけないと感じる。それに対して弟のアーロンはここに残りたいと言い出す。

果たして、ジャスティンが抱く恐怖の正体は何なのか、そしてそれが徐々に兄弟に迫ってくる。彼らは超常現象に飲み込まれてしまうのか・・・。

その後のストーリーとネタバレ

ビデオテープには女性が写っていて全員「昇天」したと言う・・・昇天とは集団自殺のことか?ジャスティンは集団自殺を嫌がり脱走したと言う。

しかし、もう10年経つ、弟は「村人が本当に自殺したのか、戻ってみたい」と言う。「寄るのは少しだけだ、すぐに帰ればいい」とゆずらない。ジャスティンはアーロンの気持ちを考えて戻ることにした。

車で村の近くまでくると、道路に変な杖の様なものが突き刺さっていた。道路の上空には鳥の大群が大きな円を描いていた。道路をしばらく走って木の橋を渡ると「キャンプ・アルカディア」の立札が見えた。

村に着いた。昔とちっとも変らない。大麦の香りがして二人は懐かしさを感じた。皆はもう40代のはずだが若く見える。そして二人を歓迎してくれた。

ジャスティンは着替えて村を一回りジョギングしてまわってみた。のどかだ、特に変わったところは見られない。ただ、男が一人急いで道を歩いているのに軽い違和感を感じた。

夜にたき火を囲んで皆とくつろぐ。リーダー格のハルがジャスティンを部屋に呼び「何故ここに戻ってきた」と聞く。「アナが写ったビデオ」を送ってくれたからだと答える。

「アルカディア村」には色々な伝統がある。「苦闘」の時間だと言う。縄が暗闇から垂れ下がっている。それを力いっぱい引っ張るのだ。

アーロンもジャスティンも縄を引っ張ってみる。ところが何かに凄い力で引っ張られ、ジャスティンは手にケガをしてしまう。アーロンはもう一日ここに居たいと言う。

射撃をしたり釣りをしたりと何気ない日常を過ごしたが、やはりどこかおかしい。ジャスティンは思い切ってハルに尋ねてみた。彼は「何かが起こっていると思うが、皆答えが分からない」「何の仕業か自分で調べろ」と答える。夜空を見上げると月が二つあった。

ハルは「湖にあるブイのところに潜って真下にある物を掴め、答えが見つかる」「偉大なる存在、我々を支配する力、神・・・、永遠の時間」とジャスティンにアドバイスする。

ジャスティンは言われたとおり次の日、湖に潜る。浮かび上がってきた彼は「化け物を見た、足を引っ張られた」と腰が抜けるほど驚いた。そして、湖の底から引き揚げた工具箱を手にしていた。

工具箱の中にはテープが入っていた。再生してみるとそこには「神に身を捧げれば、宇宙と一体になれる」とジャスティンが終末について教えを説いている映像が現われた。ハルは偉大なる存在が画像でメッセージをくれる、そして今回は「許し」だと解説する。

これを見たジャスティンはハルと言い争いをする。そしてハルはここから出て行けと二人に強い口調で言う。ジャスティンはここに残ると言うアーロンをおいて、車で帰ろうとしたがエンジンがかからない。彼は徒歩でここを去ろうと考えたが道に迷ってしまう。

小屋が見えたのでそこに行くと首つり死体があった。ところが死体と同じ人間が後ろから現れた。ジャスティンは死ぬほど驚いた。その男は「それぞれのスパンでループしている」と答える。「長い奴もいれば短い奴もいる」

俺は数時間おきにループ(自殺して、生きてまた自殺を・・・何度でも繰り返す)している。リセットの瞬間まだ境界内に居たらお前も永遠に抜け出せない。道を教えてやるから銃を持ってこい。そして視覚に頼るなコンパスを見ろと手渡してくれる。

アーロンは昨晩兄と仲たがいしたが兄を見つけたいとハルに助けを求める。ハルは道を教えてくれた。そして、3つ目の月が満ちる前にここに居たいかどうか決断しろとアドバイスをくれる。

首つり男の言うとおり、目指す小屋には二人の男がいた。この二人の男も無限のループを繰り返していた。ジャスティンは銃をもらうと先を急いだ。

アーロンは道を先に行くとテントを見つける。中には5分刻みで生きたり死んだりを繰り返している男を見て度肝を抜かれる。道を急ぐとやっと兄にめぐり会えた。アーロンはやはりここに残りたいと言う。

ジャスティンは「ここに居れば、永遠に生きられるが、同じことの繰り返しだ」と説得する。しかしアーロンは「家に帰ってもつまらない日々の繰り返しだ」と反論する。

二人は「アルカディア村」に戻ると、いつもはカギのかかっている小屋の中に入る。小屋の中はビデオライブラリーのように記録フィルムがぎっしり詰まっていた。そしてテレビに最新の映像が写っていた。

そこには「アルカディア村」の人々が全員広場に集まっている映像があった。そして偉大な何かは人々を飲み込む、さらにジャスティンとアーロンにまで襲いかかろうとしていた。

二人は車を必死に手で押してエンジンをかける。車に乗り込み、後ろから追っかけて来る何かに追いつかれまいとアクセルを踏む。車は凄いスピードで道をまっすぐに進むが前からトラックがこちらに向かってくる。あわや衝突すると思われた時、元来た世界に戻れた。

「アルカディア村」の住民はまた、再生しループは続く。

レビュー

「アルカディア村」はいったいどんな場所なんだろうか。この映画では同じ仲間たちと限られた場所で繰り返し繰り返し「責苦を受ける」場所のようだ。これらのループは一つだけでなく幾つもある。それぞれのループは独立していて交流出来ないようだ。

「アルカディア村」がカルト集団で、集団自殺をしたならこれはキリスト教に於いて罪になるのかもしれない。僕はキリスト教徒ではないのでそのところはよく分からない。

もし「集団自殺」が罪で、そのために天国に行けない魂がこの場所で繰り返し責苦を負っているなら「煉獄」と言う場所なのか。

そう考えると、ハルが言っていた「偉大なる存在、我々を支配する力」は「神」なのか?従って、魂が浄化されるまで何度も生き死にを繰り返し、浄化されれば天国に行けるのか・・・難しいね。

ドラマはなかなかうまい設定だ。結末には何が待っているのだろうかと最後まで見てしまう。「LOST」では結局、煉獄だった。このドラマは種明かししてくれない。最後まで種明かししない方がミステリー性が深まっていいのかも。

TATSUTATSU

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