サマリー
★★★☆☆(お薦め)?
2020年2月日本公開のアメリカ・スウェーデン合作ホラー映画
監督・脚本 アリ・アスター(ヘレディタリー/継承、ミッドサマー)
出演 ●フローレンス・ピュー(ドント・ウォーリー・ダーリン、ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語、ミッドサマー)
●ジャック・レイナー(デトロイト、ミッドサマー)
●ウィル・ポーター(メイズ・ランナー、レヴェナント、デトロイト、ミッドサマー)
エロとグロは紙一重、ホラーとコメディも紙一重とよく言われる。この映画はその典型で、あまりにエログロ過ぎてひいてしまう。間違っても恋人と見てはいけない。完全に「変態」と勘違いされる。147分もの長い映画だが結末に何が待っているのかスクリーンから目が離せない。
まるで真綿で首を絞められるような恐怖が襲ってくる。一人でこっそり見ても見終わったあと何か後ろめたさを感じるのは僕だけだろうか。アリ・アスター監督は本物の「変態」だ。
彼は前作「ヘレディタリー/継承」もちびるほど怖かったが「変態」的な要素は少なかったように思う。今回は白夜の空の下で行われる「エログロ」だ。しかも悪魔ではなく一般の人間たちがルーンの聖書、ルビ・ラダーに則って残虐なことを何のためらいもなくやってしまう。
この映画は「お薦め」だけど「?」をつけておいた。つまり見た後で文句言われても困ってしまう。ここのところは自己責任でお願いしたい。
ドラマはドラッグの世界を漂っているように感じさせる。画面が揺れたり流れたり、幻覚を見たり、気分がハイになり悲しみも忘れられる、手に草が生えてくる、体は藁人形のようだ、花が咲いたり閉じたりする・・・サイケデリックな世界なのだ。
スウェーデンの人里離れた奥地に存在する共同体ホルガ。この村では90年に一回、儀式が行われる。儀式は9日間続き、劇的に終わる。ここでは子供は村全体で育てる。大昔から続いてきた共同体には多くのしきたりがある。
我々から見れば「カルト集団」だ。村では近親交配が計画的に行われ、人口も一定数をキープしている。しかし、時には外部からの「血」を入れなければならない。血が濃くなり過ぎれば障害を持った子供が生まれてくる。
72才になれば崖から飛び降り、人の厄介になる前に自殺する・・・村(共同体)のためだ。72才と言う数字は7+2=9につながる。そして悪魔の数字13を示すものもある。
ミッドサマーとは「夏至祭」のことだ。ホルガは花が咲き乱れる楽園のような場所だ。村人は同じ服装をして穏やかに暮らしている。今は「白夜」だ、いつまでも明るい。村人は悲しみも喜びも共有する。そして村の外から来た旅行者を優しく受け入れてくれる。しかし、彼らと一緒に暮らしてゆくと次第に「恐怖」に襲われるようになる・・・何故か。
「村の巫女ルビン」
話のスジを少し紹介すると。両親と妹を亡くしたダニー(フローレンス・ピュー)は精神的に落ち込み今にも壊れそうだ。恋人のクリスチャン(ジャック・レイナー)はそんな彼女を持て余していた。別れが近いかもしれない。
クリスチャンとジョシュ(ウィリアム・ジャクソン・ハーパー)、マーク(ウィル・ポーター)はペレの誘いで彼が暮らしていた小さな村ボルガに行く計画をたてる。この村はスウェーデンの人里離れたヘルシングランド地方にある。
今年、90年に一度の儀式「夏至祭」が行われる。ジョシュはこの儀式を取材し大学の論文にまとめる予定だ。当初、男4人で行く予定にしていたが落ち込んでいるダニーを置いてはゆけず、彼女も誘うことにした。
5人は長時間かけて現地にたどり着く。そこは太陽がいつまでも輝き、楽園のような場所だった。村人は優しく接して歓迎してくれる。彼らは素晴らしい場所に来たと喜んだが・・・あまりにも過酷な運命が待ち構えていた。
その後のストーリーとネタバレ
ボルガ村はせいぜい50人ほどのコミュニティだ。一族は同じ建物で寝起きをする。そして自給自足のような暮らしぶりだ。病人はいない、何故なら皆、72才になったら崖の上から石のテーブルに身を投げる(姥捨山の風習だ)。
今回もこの儀式が村人の前で行われる。テーブルの上に落下すれば頭が砕けて即死だ。ところが的が外れて地面に落ちれば死ねない場合がある。その時は下で待ち受けている杵を持った者たちがそれを振り下ろし頭を砕く。そして死んだ人間の名は赤子に受け継がれる。
これを見ていたダニーや仲間たちは突然の恐怖で声が出ない。ダニーに至っては吐き気をもよおす。この村では命でさえも循環させるのだ。
ジョシュはボルガの歴史を研究し論文にまとめるつもりだ。ダニーはもう帰りたいが、皆はここに留まり帰ろうとしない。外部からはイギリスから来たカップルもいた。部外者は6人だ。
集落の中には変わった建物があったが、入ることの出来ない場所もあった。クリスチャンは若い女性に好かれたようだ。彼は彼女の恥毛が入ったパンを食べさせられる。
マークは神聖な木におしっこをしたため、村人に激怒される。彼は食事の時に少女に呼び出され、その後は誰も彼を見ていない。
ジョシュは夜中に神聖なルーン聖書の中を写真に撮ろうとして殺される。彼がその時見た人影はマークの顔の皮膚を被った男だった。しかも腰に彼の下半身の皮が括り付けられていた。
クリスチャンは村の若い女性に見初められたようだ。彼は薬草の煙を吸い込まされ、夢遊病者のようにある小屋に入ってゆく。そこには13人の全裸の女性たちがいた。そしてクリスチャンを見初めた若い女性が股を広げて待っていた。彼女は処女だ。
クリスチャンは若い女性とセックスする。新しい外部の種が必要なのだ。小屋から出た彼は別の小屋に入る。そこには無残なブラッド・イーグルと呼ばれるバイキングの拷問にかかったイギリスからの青年が空中に吊り下げられていた。彼は体を切り裂かれているがかろうじて生きていた。
外では女性たちがメイポールの周りを踊りながら回っていた。彼女たちはハイになる飲み物を飲んでいた。このダンスで最後まで残ったものが「メイ・クイーン(5月の女王)」だ。女性たちは踊り狂い最後にダニーが残る。彼女は花の冠を被った女王だ。
ダニーはふらふらと小屋に近づき、鍵穴からクリスチャンと若い女性のセックスの儀式を見てしまったのだ。彼女は泣き叫ぶ。彼女の悲しみは村の女性たちも共有する。
儀式も今日で9日目、クライマックスだ。この儀式には9名の生贄が必要だ。村から二人が志願してきた。そしてくじ引きで選ばれた村人とクリスチャンの二人から最後の生贄を選ぶ。これは「メイ・クイーン」の役割だ。ダニーはクリスチャンを選ぶ。
誰も入ることの出来なかった建物の中に生贄を入れる。すでに殺された部外者4人、崖から飛び降りた2人、村から志願した2人(まだ生きている)。最後はクマを解体し、内臓を抜き取ったところにクリスチャンを生きたまま入れる。全員合計で9名だ。
建物に火がつけられる「最後の生贄の儀式だ」。建物が激しく燃える。ダニーはそれを見て微笑む・・・。
レビュー
90年に一度のお祭り「夏至祭」、9日間続く、生贄は9名と9の数字が続く。スウェーデンの人里離れた村、ここにアメリカから4人、イギリスから2人の若者が来る。
今は「白夜」だ、いつまでも明るい。花々は咲き乱れ、村人たちは一年で一番楽しい時を過ごす。それとは対照的に外部から来た若者たちが殺されてゆく。メルヘンとホラーの対比がすごい。
このコミュニティーでは死ぬこともセックスも儀式だ。命の循環が繰り返される。ただ一人違うのは村人にとって最も大切なルーンの聖書、ルビー・ラダーを書き続けることが出来るルビンだ。
彼女は近親相姦の末に障害を持って生まれる。世俗との繋がりがなく、穢れがない。村人はルビンは永遠だと考えている。90年後にまた「夏至祭」が行われるがその時には誰も生き残っていない。ひょっとしたらルビンは生きているかもしれない。
ニコラス・ケイジ主演の「ウィッカーマン」(2006年)を思い出す。女が支配する島に現れた男が生贄にされる物語だ。
アリ・アスター監督はこの映画は「ハッピーエンド」だと言っている。最後にボニーは画面の中で微笑む。すべてから解放され新しい土地で新しい隣人と一緒に生きて行くことを決意したようだ。息苦しい都会生活よりもこの地は住みやすいと視聴者に訴えかける。
TATSUTATSU
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