サマリー
2017年10月日本公開のアメリカ製作ホラー映画
監督・脚本 ジョーダン・ピール(ゲット・アウト)
出演 ●ダニエル・カルーヤ(ボーダーライン、ゲット・アウト、ブラック・パンサー)
●アリソン・ウィリアムズ(ゲット・アウト)
●キャサリン・キーナー(マルコヴィッチの穴、はじまりのうた、ゲット・アウト)
●ブラッドリー・ウィットフォード(キャビン、ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書、ゲット・アウト)
●ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ(バリー・シール/アメリカをはめた男、スリー・ビルボード、ゲット・アウト)
「ホラー映画は儲かる」と言われるが、この映画が典型だ。450万ドル(約5億円)の製作費で驚くことに2億5千400万ドル(約270億円)も稼いでいる・・・コスパが良すぎる。
暫く前に公開された「IT/イット”それ”が見えたら、終わり。」に至っては約35億円の製作費に対し、興行収入が実に740億円以上だ、ホラーは美味しくてやめられないね。
「ゲット・アウト」はコメディアンとして活躍してきたジョーダン・ピールの初監督作品だ。題材は目新しいものではないがそれをうまく料理している。第90回アカデミー賞 脚本賞を獲得しているも当然だ。
彼は何故コメディ映画を撮らなかったのか・・・彼曰くは「コメディとホラーは裏腹」だと言う事だ。上質のホラーはコメディにもなり得る、或いは逆も有り得る。この映画は心理ホラー或いは心理サスペンスと思われるが得体の知れない恐ろしさに襲われる。
日常の中で感じる「ほんのささいな違和感」、これが度重なると「恐怖」に変わる。人間の生存本能としての「恐怖」、これをうまくホラー映画に結び付けている。人間が本当に怖いのは幽霊や怪物ではなくて「何を考えているのか分からない人間」なのかもしれない。
映画を見る人は情報が入りすぎると怖さが半減するので、出来れば映画のさわり程度であとは我慢した方がいい。ここんとこは忠告しておきたい!お薦め映画だ、じわじわ襲ってくる恐怖を堪能してほしい。
最初に黒人青年が暴漢に連れ去られる場面が伏線になっている。そして50年前の名作「招かれざる客」(黒人と白人女性との結婚をめぐる家族の葛藤を描いた作品)を彷彿させるシーンへと続く。
アフリカ系アメリカ人のクリス・ワシントン(ダニエル・カルーヤ)の恋人ローズ・アーミテージ(アリソン・ウィリアムズ)は白人だ。
クリスはローズの両親に会いに行くことになった。ローズの両親は郊外の広大な敷地を持つ大邸宅に住んでいる。しかし彼は娘の恋人が黒人だと知ったらびっくりするのではと乗り気ではない。
車で彼女の家に向かう途中鹿をはねる。車にはねられ苦しそうな鹿を見たクリスは昔のことを思い出す。彼の母は車にはねられ亡くなっていた。事故現場にやってきた警官がクリスの身分証明書提示を要求するがこれに彼女は何故か憤慨する。
クリスはローズの両親ディーン(ブラッドリー・ウィットフォード)とミシー(キャサリン・キーナー)に会う。二人ともクリスを歓迎してくれ、「自分が歓迎されないのでは」との考えは杞憂であった。
ディーンは彼に家の中を案内してくれた、その時地下室はカビがひどいから入るなと言われた。ローズの弟ジェレミー(ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ)にも会わせてくれたが彼はやや変人だ。
ディーンは脳神経外科でミシーは催眠術を使う心理療法家であった。一家には黒人の使用人が二人いた女性のジョージーナ(ベティ・ガブリエル)と男性のウォルター(マーカス・ヘンダーソン)だ・・・クリスは違和感を感じる。
クリスは写真家だ、家の周りを散歩するが不思議な光景を見る。窓ガラスに自分の顔を映してうっとりするジョージーナとどこか不気味で無愛想なウォルター・・・何かがおかしい。
クリスはその夜眠れなくて家の外に出ると、やはりガラス越しに自分の顔を見ているジョージーナと猛スピードでこちらに走ってくるウォルターに遭遇する・・・クリスは恐怖を感じる、やはりなにかがおかしい。
家に入るとミシーがいて強引に催眠術による心理療法を受けさせられる。心理療法によって禁煙することが出来るらしい、クリスは愛煙家だった。ところがこの療法によって昔のトラウマが甦る。彼は母の死を思い出し涙を流す。
クリスは親友のロッド(リル・レル・ハウリー)に愛犬を預けていることからスマホでしばしば連絡を取る。そして不思議な家族のことも話す。ロッドはTSA(運輸保安庁)に勤める黒人だ、親身になって相談に乗ってくれる。ところがスマホの電源コードが引き抜かれている・・・誰の仕業なのか?
次の日パーティが催され屋敷には多くの人々が集まってきた、ここでクリスは皆から歓迎される。しかし黒人は誰もいないと思ったら一人だけいた。ローガン(キース・スタンフィールド)と言う若い黒人だ、かなり歳の離れた白人女性といつも一緒に連れ添っている。
クリスはローガンに見覚えがあり、こっそりとスマホで写真を撮ろうとしたところ誤ってフラッシュをたいてしまった。フラッシュを浴びたローガンは鼻血を出しクリスに向かって「ゲット・アウト!ゲット・アウト!(でていくんだ!でていくんだ!)」と叫んで掴みかかってくる。
ジョージーナ、ウォルター、ローガン・・・黒人たちは皆おかしい。顔の表情が乏しいばかりか、泣いたり叫んだりと感情の起伏が激しい、クリスは迫りくる危険を感じここから早く帰ろうとするのだが・・・。
その後ストーリーとネタバレ
ローガンはミシーの心理療法によって落ち着いたようだ。庭には招待客が集まってビンゴゲームをやるらしい。クリスはゲームに参加せずローズと庭を散歩することにした。
ビンゴゲームは実はオークションだった、どんな品物が競売にかけられるのか・・・驚くことに商品は実は「クリス」本人だったのだ(彼はこの時点でこのことは知らない)。大昔の、まるで黒人奴隷の売買のようだ。
部屋に戻ったクリスはローズの部屋から箱に入った写真を見つける。そこにはローズとジョージーナの仲良く写った写真とローズとウォルターがまるで恋人のように寄り添う写真があった・・・なんかおかしいぞ、胸騒ぎがする。
クリスはローズにここからすぐに帰りたいと荷造りする。そして階下に下りたところローズが「車の鍵がみあたらないと」あせる。そこに彼女の両親が現われ、クリスを引きとめようとする。
その時、ミシーがコーヒーカップをスプーンでかき混ぜる音を聞かせたとたんクリスは床に倒れる(クリスは昨晩ミシーによって、この音に反応するように催眠暗示をかけられたようだ)。
気が付いたクリスは一人掛けの椅子に手足を革ベルトで拘束されていた・・・地下室らしい。目の前にテレビがある。そして映像と音声が流れる、そこには戦慄すべき恐ろしい事実が記録されてあった。
テレビから流れる映像にはアーミテージ一家が映っていた。かつての家族には祖父と祖母がいたが今はいない。そして、記憶の移植方法についてディーンが解説していた。
さらに手術着を着た盲目の画商ジム・ハドソン(スティーヴン・ルート)が語りかける。(彼はオークションでクリスを競り落としたようだ。)私は君の目を通してもう一度美術品が見たい、脳を君の体に移植することによって私は君になる。君の記憶は私によって上書きされるが君の記憶も多少なりとも残ると続ける。
そして話の最後にスプーンの入ったコーヒーカップが現われる。クリスはヤバい、また催眠術にかかって眠らされてしまうと指でイスのひじあてを中から綿が出て来るほどかきむしる。彼は中から出てきた綿をじっと見る。
隣の部屋では脳神経外科であるディーンがジム・ハドソンの頭部を切開し脳をむき出しにしていた。隣にはクリス用の手術台が用意されている。
そのころクリスと連絡が取れなくなっていた親友のロッドは彼が拉致されたのではないかと警察に駆け込む。彼はクリスが性奴隷にされてしまうと訴えるが警官たちはまともに取り合ってくれない。
クリスは部屋で眠り込んでいた、そこにジェレミーが現われ、車いすで彼を手術室に連れてゆこうと両手・両足のベルトを外す。その時クリスは立ち上がり近くにあった置物でジェレミーの頭部を殴りつけ気絶させる。クリスは綿で耳栓をして音を聞かないようにしていた。
壁から装飾用の鹿の頭部を掴むと部屋を出る。そこで待ち構えていたディーンの胸に鹿の角を力いっぱい突き刺すと彼は出血して倒れる。
地下から上に上がると今度はミシーがナイフを持って襲ってくる。クリスはナイフをとっさに奪い取りミシーを突き刺して絶命させる。
テーブルの自動車のキーを持って外に出ようとしたところ、意識を取り戻したジェレミーに後ろから羽交い絞めにされるが振り払い車を発進させる。ところが目の前にいたジョージーナを車ではねてしまう。倒れた彼女を車に乗せ逃げる。
その時、車の音を聞きつけたローズがライフル銃を持って追っかけて来る。車をとばそうとするが突然気が付いたジョージーナに襲われ、車は大木にぶつかり大破する。ジョージーナは押しつぶされ死んだようだ。車を捨て走り出そうとしたクリスに、ローズはおじいちゃん捕まえてと叫ぶ。
ウォルターは猛スピード追いついてクリスを押さえつける。とっさにスマホのフラッシュをウォルターに浴びせる。ウォルターは自分を取り戻したのか、近づいてきたローズのライフルを奪い彼女を撃つ。彼女はうめき声をあげて倒れる。そしてこんどは銃口を自分の喉に向け自殺する。
そこにパトカーらしい車が入ってくる。中から何とロッドが出て来る。クリスが「ここがよく分かったな」と言うと彼は「俺はTSA(運輸保安庁)だ当然だろ」とクリスを乗せて屋敷を去って行く。
レビュー
あんなに優しかったローズが魔女のように残忍な本性を現すことろがもの凄く怖い。クリスはローズを一番信頼していたのに裏切られるとはつらいね。ローズが音楽を聞きながら次の獲物を物色しているシーンはちびりそうになる。
この映画では脳の外科的手術によって記憶を新しく新鮮な肉体に移植し永遠の命をつないでいる。ジョージーナにはローズの祖母の記憶がウォルターには祖父の記憶が移植されている。
何故黒人の体を入れ物にするかについては、黒人の肉体が強靭であるからと言っている。しかし肉体本人の記憶は無くなったわけではなく、フラッシュライトなどの外部刺激によって、元の記憶が甦るとしている。
記憶には短期記憶と長期記憶があり、短期記憶は「脳の海馬(形がタツノオトシゴに良く似ている)と呼ばれる部位」が深くかかわっていると言われている。長期記憶は海馬を経由して大脳皮質に蓄えられると言う研究がある。だから脳のある部位を移植すればひょっとしたら記憶も移植出来るかもしれない。
但し、パソコンのハードディスクのように完全には上書きは出来ないようだ。大脳皮質の長期記憶を移植してしまえば記憶を乗っ取ることが出来るかも知れないが、今の医学では実現は困難だと思う。
最後まで恐怖を盛り上げる脚本と演出はジョーダン・ピール監督の非凡な才能を感じさせる。映画の結末は最も重要だ彼はかなり悩み何種類か考えたようだ。そしてハッピーエンドを結末に持ってきた・・・これが成功したようだ。
バッドエンドではロッドの代わりに警官が出てきてクリスを捕まえてしまう。これではあまりにも寂しいね。
TATSUTATSU
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