サマリー
2017年3月日本公開の韓国製作 サスペンス・ホラー映画
監督・脚本 ナ・ホンジン(チェイサー、哀しき獣、哭声)
出演者 ●クァク・ドウォン(哭声)
●ファン・ジョンミン(シュリ、新しき世界、哭声)
●國村隼(愛を乞うひと、オーディション、ブラック・レイン、アウトレイジ、シン・ゴジラ、哭声、海賊とよばれた男)
●チョン・ウヒ(哭声)
●キム・ファニ(哭声)
156分と長い映画なんだけど不思議に長くは感じなかった。韓国では観客700万人を動員し大ヒットとなっている。不思議なドラマで視聴者をどんどん不安に陥れる・・・最後まで気が抜けないし、結末を見ても意味不明だ。
現代の不安定な世相を反映しているのか、ツカミどころのなさが受けるのか、今までにないオカルトっぽい魅力を放っている。映画のキャッチコピーは「疑え。惑わされるな」・・・見る人間によっていくらでも解釈が変わってくるカメレオン映画だ。
誰しも「よそ者」に恐怖心や違和感・嫌悪感を感じる時がある。ここに出て来る日本人は韓国社会から見れば「異邦人」だ。東洋人同士だから外見にそれほど大きな違いはないが、言葉や文化の違いだけで、自分たちの村社会に受け入れようとしない。
あなたなら、どんな解釈をするのかな、サスペンス、ホラー、どんでん返し、キリスト教、シャーマニズム、悪魔と天使・・・色んな要素を含んだドラマになっている。監督・脚本のナ・ホンジンは伏線をばら撒き、緻密な計算のもとにストーリーを組み立て、僕らをホンジン ワールドに誘い込む・・・はまったら抜け出せない。
「哭声(コクソン)」とは泣き叫ぶという意味だ、実在する韓国の地名「谷城(コクソン)」と掛け合わされている。日本人の國村隼が得体の知れない「よそ者」を怪演している、必見だ。彼は外国人で初めて韓国の「清龍映画賞」「人気スター賞」の2冠に輝いている。
映画の冒頭に新約聖書ルカによる福音書24章37~39節の引用が出て来る。「そこでイエスは言った」「なぜ心に疑いを持つのか」「私の手や足を見よまさに私だ」「触れてみよこのとおり肉も骨もある」がこの物語のテーマだと思う。
山あいの小さな村で猟奇殺人が連続して起こる。犯人はすべて被害者の身内で、何が原因なのか皆目わからない。捜査は行き詰まり、幻覚キノコを食べたことが原因ではないかと公式に発表された。しかし村では日本人の「よそ者」が来てからおかしくなったと風評が広がっていた。
主人公の警察官ジョング(クァク・ドウォン)は最初はそんな噂を信じなかったがあまりに事件が猟奇的であることから「よそ者」の家へと取り調べに出かける。
そこで彼は日本人(國村隼)と対峙することになる。しかし「よそ者」は日本のパスポートを持っており、逮捕するほどの容疑は見つからなかった。
そのうちジョングの娘ヒョジン(キム・ファニ)が高熱に犯され体に湿疹が現われる。そしてヒョジンに何かが乗り移ったように様子がおかしくなってくる。臆病で温和だったジョングも少しずつ狂気に支配されるようになってくる。
猟奇殺人事件の目撃者ムヒョン(チョン・ウヒ)と言う女が現われ、殺人事件の犯人は「よそ者」の日本人だと言う。そしてヒョジンの悪魔祓いの為 祈祷師イルグァン(ファン・ジョンミン)を呼び寄せる。
主人公ジョングと娘ヒョジンの周りで「よそ者」、目撃者ムヒョン、祈祷師イルグァンの三つ巴の闘いが始まる。ヒョジンには悪霊が乗り移ってしまったのか・・・。(まるで後半はエクソシストのようだ)
ストーリー
ある雨の日、山あいの村 谷城(コクソン)で恐ろしい猟奇殺人事件が起こる。犯人は身内の男で家族を惨殺したらしい、精神がもうろうとし体中に醜い発疹があった。犯人は病院に収容されるが血を吐いて変死してしまう。
2件目の殺人事件が起こる。犯人は首をくくった妻で、3人の身内をメッタ刺しにしている。しかも家は焼失していた。
犯人の血液から幻覚キノコの成分が検出され、公式には毒キノコを食べたための幻覚殺人と発表されている。谷城警察署の警察官ジョング(クァク・ドウォン)は凄惨な現場から毒キノコが原因とはとても思えないと考えていた。
そのころ、山に住んでいる「よそ者」の日本人(國村隼)がこの一連の事件にかかわっているのではないかとの風評が広まっていた。猟師が山で鹿の生肉を喰らっている「よそ者」を見かけたと言う。ジョングは猟師を連れて山に向かったが途中、雷雨にあい猟師は雷に打たれて重傷を負ってしまう。
さらに、殺人事件の目撃者ムヒョン(チョン・ウヒ)が現われ、「よそ者」の日本人が女の血を吸って殺そうとしていたとジョングに告げる。ところがその女は石を投げて気を引くそぶりを見せながら忽然と消えてしまう。
ジョングの娘ヒョジン(キム・ファニ)が突然 高熱を出して寝込む。ヒョジンは「知らないおじさんが何回も門を叩いて中に入ろうとする」と泣き叫ぶ。ヒョジンはすぐに回復したが嫌いな魚を貪り食い、悪態をつき、体には発疹が現われていた。
ジョングの母親は孫のヒョジンの様子がどうもおかしい悪霊にでも憑りつかれたのか?お祓いをしてもらうため祈祷師を呼んだと告げる。
ジョングは警察官の同僚ソンボク(ソン・カングク)と甥のキリスト教 助祭のイサム(キム・ドユン)を連れて「よそ者」の日本人を訪ねることとした。イサムは昔 日本で暮らしていたことがあり日本語が分かる。
あいにく日本人は留守だった。ジョングはカギを壊して扉を開けると中は祭壇のようになっており、不気味な動物の角のようなものが祭ってあった・・・呪術でもしていたのか。ソンボクは別の部屋を開けてみる、そこにはおびただしい数の写真が壁中に貼ってあった。それらをよく見ると殺人者や被害者達の写真だ・・・彼は呆然とする。
その時、犬にイサムが襲われる。彼らは「よそ者」の部屋に逃げ込むがそこに日本人が現われる。日本人は怒っているようだったが、その場をすごすごと後にする。帰りの車の中でソンボクは日本人の部屋からヒョジンの靴と思われるものを持ち帰った・・・ジョングは驚く。
ジョングはその靴を持ち帰り、ヒョジンに尋ねるが「知らないと」言う。あんなに優しかった娘が悪態をつき、父を苦しめる。夜中にこっそり娘の部屋を調べる。娘のノートには悪魔の絵が描かれており、体には湿疹が現われていた。父親に気付いた娘は泣き叫び、父親に向かって「お前をぶっ殺してやる」と信じられない言葉をはく。
ジョングはイサムを伴って再び日本人に会いにゆく。彼は日本人に向かって「ここに何しに来た」と聞く、「旅行に来た」と日本人は答える、さらに問い詰めると「言っても信じないだろう」とつぶやく。
ジョングは頭に血が上り、そばにあるツルハシを持つと日本人の家の中を壊しまくる。杭が外れた犬に襲われるが、その犬も殺してしまう。「3日間だけ待ってやる、それまでに村を出てゆかないと犬のようになるぞ」と警告しその場を立ち去る。
ジョングの家の門に誰のいたずらか殺されたヤギが吊るされていた。ヒョジンの発疹は悪くなるばかりだ。ある日娘を隣のおばさんに預けて出かけ帰ってみると娘がおばさんを包丁で刺し重傷を負わせていた。
祈祷師イルグァン(ファン・ジョンミン)が到着する。彼は家の周りの雰囲気からただ事ではないのを察知する。醤油のカメを持って来させ、カメをたたき割ると中からカラスの死骸が出てきた。
前日に日本人を挑発したことを素直に祈祷師に話す。その日本人は悪霊だ。そいつに明日の戌(イヌ)の刻「殺」を討つ、つまり日本人を呪い殺すと言う事だ。あいつは怨霊の中でも最もたちの悪いタイプだ、1000万ウォン(約100万円)用意しておけと言われる。
そのころ「よそ者」はトラックに乗った死体を山の中で見つけ写真を撮る。「よそ者」は町でニワトリを買い、滝で体を清め、僧衣に着替えお堂にこもり、祈祷を始める。祭壇にはトラックの死体の写真を飾り、ニワトリを生きたまま逆さに吊るす。生贄を次から次へと殺し気違いのように一心不乱に呪文を唱える。それをじぃーと謎の女が見る。
祈祷師イルグァンはジョングの庭に祭壇を設け、かがり火をたき、太鼓や笛に合わせて祈りながら演舞する。生贄のニワトリゃヤギを殺し、日本人の「よそ者」に見立てた木にくさびを打ち込む。こちらも死に物狂いで呪文を唱えては鉄製のくさびを打ち込む。
その時山の中の日本人は胸を押さえてもがき苦しむ。同時にヒョジンも大声をだしのたうちまわる。祈祷合戦は続くがヒョジンの状態が尋常ではない、このまま続ければ娘は死んでしまうと思ったジョングは祈祷を強引にやめさせる。
胸を押さえてもがき苦しむ日本人はふと我に返ると謎の女ムヒョンが目の前に立っていた、そして暗闇に消えてゆく。ジョングは村の神父様に一連の件を相談をするが、神父から「私に出来ることはありません」と相手にされなかった。
ジョングは村人を4~5人募り、通訳のイサムと小型トラックに乗り込んで日本人をこらしめようと山に入る。あいにく彼はいなかったが、ゾンビのような恐ろしい形相をした男に襲われる。こいつは本当にゾンビなのか、頭にクワが刺さっても倒れない。村人たちは逃げ惑うが・・・。
ネタバレ
ゾンビは突然、エビ反って倒れ動かなくなる。ジョングは茂みの奥に日本人がいるのを見つけ、みんなで追いかけるがあと一歩のところで見失ってしまう。日本人は崖の下で隠れていたのだ。そしてそれら一部始終を謎の女ムヒョンは見ていた。日本人は女を追う・・・。
村人たちは車に乗って帰る途中フロントガラスを何かが直撃し、慌てて車を止める。後ろを見てみると日本人が頭から血を流して倒れていた・・・山の上から落ちて来たのかもしれない。村人たちは日本人を引きずってガードレールの外に死体を捨てる。それをじいっーと謎の女は見ていた。
祈祷師は「なんて愚かな奴らだエサを飲み込んでしまったとは」・・・日本人は悪霊だ、奴は釣りをするようにエサに誰かが食いつくのを待っていたのだ。祈祷師はジョングの家まで来たが鼻血とおう吐が止まらない、そこには謎の女ムヒョンが立っていた。女は「何しに来た、帰れ」と叫ぶ。
祈祷師は車に戻り慌ててソウルに逃げ帰ろうとする。ところがフロントガラス一面に虫の死骸が張り付く、と思ったのは幻だった、祈祷師は急いで元来た道を戻る。彼は携帯でジョングに「俺は大変なことをしてしまった、日本人は村の守り神で、あんたの家の近くにいる女が悪霊だ」と告げる。
そして「今まで起こったすべての出来事は女の仕業だ、今すぐ家に帰ってヒョジンの近くに居ろ」と言う。ジョングは家に帰ろうとするが女が現われ「ヒョジンは悪霊に惑わされた」「日本人が悪霊だ、ついさっきヒョジンは帰った家にいるはずだ」と言う。
そして「今行っちゃあダメだよ。今帰るとみんな死ぬ、あんたんとこの家族がみんな死んじゃうよ」「あの日本人はあんたが帰るのを待っているんだ」。ジョングは「あいつは死んだ」と答える。女は「死んでない、死ぬなんてありえない」と返答する。
「お前の家にワナを仕掛けておいた、もうすぐ悪霊があんたの家に入るはずだ」と続ける。ジョングは女に「お前は何者だ、人か幽霊か」、女は「何でそんなことを聞くのか」となじる。(その頃ヒョジンは家に帰り、食い物を食い散らかしていた。)
祈祷師が携帯でジョングに「今すぐ娘のところに行け」と言う。女は「祈祷師のことは信じない方がいいよあいつもグルだから」「悪霊がワナにかかったら3回ニワトリが鳴く、それまでここで待て」と言う。
ジョングは「俺が何をしたんだ、ヒョジンに何故悪霊が取り付くのだ」と聞く。女は「お前は人を疑って殺してしまったからだ」と言う。ジョングは女のことを信用せず、家に帰ろうとする。女は男の手を掴んで「行っちゃあダメ」と叫ぶ。女の手は黒くて冷たい・・・死人か?
その頃、イサムは日本人に襲われる夢を見る。彼は教会でイエスキリストの十字架を見て、ふと日本人が生きているような気がしてカマを持って山に駆け付ける。
日本人が住んでいた家の近くまで行くと洞窟から明かりが漏れているのを見つける。彼は洞窟の奥へと入って行く、奥には日本人がいた。イサムは日本人に向かって「ひとつ聞きたい、お前は何者だ」と聞く。日本人は「お前はどう思うんだ」と答える。
「お前は悪魔、悪魔だ」と・・・日本人は「お前は私を悪魔として確信した」と、イサムは「お前が悪魔ではないと正体を明かせば何もしないで帰る」と答える。
日本人は「ここから出られるかどうかはお前の知ったことでは無い」「私に触れてみろ幽霊には肉と骨が無い」「私には肉も骨もある」(日本人の両手には聖痕があった)「どうして心にに疑いを持つ、私の手や足を見なさい、まさに私だ」。
日本人はカメラをイサムに向け写真を撮る。カメラをおろした顔は悪魔だった。イサムはカマを落とし、顔がこわばり、体は凍りつく・・・。
ニワトリが二回泣いたが、三回目を待たずに、ジョングは家に帰ってしまう。ところが彼は自分の家の中で惨劇を見ることになる。妻は血だらけでもう虫の息だ、奥にヒョジンが立ってこちらを見ている。
祈祷師がジョングの家に入ると、縁側にヒョジンが座っていた。奥にはジョングがいたが放心状態だ、祈祷師はジョングの顔を写真に収めると家を出てゆく。ジョングは「大丈夫だヒョジン」とうわごとのようにささやく。
レビュー
この映画には未公開映像があり、日本人と祈祷師が車に同乗し村を去る場面がある。つまり日本人と祈祷師はグルだったわけだ。これは映画の中で二人とも「ふんどし」をはいていることと、おびただしい写真を持っていることが伏線になっている。
日本人は悪魔で祈祷師はその仲間らしい。村で悪魔が災いを起こし、祈祷師が悪魔祓いと称して金をまきあげる構図だと思う。日本人は悪魔だから何回死んでも蘇る。でも両手に聖痕(キリストが十字架に打ち付けられた時の傷跡)があることから、昔は天使だったのか(堕天使)・・・天使と悪魔は裏腹だ。
日本人も祈祷師も被害者達の顔を写真に撮る。魂を奪い取る為なのか或いはゾンビのように自由に操る為なのか。日本人は死人の写真をおがみ、ゾンビに仕立て上げ村人を襲わせたと思うシーンがある。でも途中でゾンビが動かなくなってしまったのは女が妨害したのかも知れない。
日本人がジョングの車のフロントガラスに激突したのは、足を滑らせて山から転落したのか、自分から飛び込んだのか、女に押されたのか分からない。でもジョングが人を殺してしまった罪を負わせた効果はある・・・ジョングもこれによって暗闇に落ちてゆくのは避けられないと思う。
謎の女ムヒョンは村の守り神だと言う事かな、ジョングを助けようと必死になるが、彼は彼女を信じようとせず結局、悪魔に従ってしまった。でも彼女は色々な場面で悪魔たちの策略を妨害し、最後は村から追っぱらってしまう。彼女がいなければ惨劇はさらに続いたと思う。
キリスト教が無力のように描かれている、これは最近の映画「沈黙」も同様なテーマで描かれている。助祭イサムは結局 悪魔に囚われてしまうのか。映画のキャッチコピー「疑え。惑わされるな」とは魔女だと思っていた女が天使であったり、日本人が悪魔、祈祷師はその仲間であったことなんだろうね。
良く似ている映画に「リーピング」がある、「ヘイブン」と言う町のはずれに住む少女が、村人からは魔女として恐れられていたが、実は神が遣わした「天使」だったと言う話だ。「哭声/コクソン」は二度見ることをお薦めする、天使と悪魔、嘘と真実、が見えてくると思うよ。
TATSUTATSU
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