邦画

映画「Fukushima50(フクシマフィフティ)」感想・評価:事実をもとに作られた賛否両論のお涙頂戴エンタメ映画

サマリー


★★★☆☆(お薦め)

2020年公開の福島第一原子力発電所の津波によるメルトダウン危機ドラマ
監督 若松節朗(ホワイトアウト、沈まぬ太陽、空母いぶき
原作 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発」
出演 ●佐藤浩市(空母いぶき、Fukushima50)
●渡辺謙(インセプションGODZILLAゴジラゴジラ キング・オブ・モンスターズ、Fukushima50)
●吉岡秀隆(Fukushima50)
●緒方直人(Fukushima50)
●火野正平(Fukushima50)

映画『Fukushima 50』(フクシマフィフティ)予告編

 

この映画を見ると昔を思い出す。2011年3月11日14時46分ごろ「東北地方太平洋沖地震」が発生し、大災害をもたらした。僕は一年前までこの地区で仕事をしていた。多くの知り合いが被災し、他人事とは思えない。それに災害後の応援に東京から駆け付けた記憶が今でも鮮明に残っている。

この地震で東京電力の「福島第一原子力発電所」がメルトダウンし、放射性物質を広範にまき散らした。そしてこの事故は世界を震撼させた。今でも後始末が続いている。一歩間違えば日本がこの事故によって消滅してしまったかもしれない。

「福島第一原子力発電所」の事故がどのように起こったのか、誰もが知りたいに違いない。そしてこの原発では多くの人々が自分の命を顧みず、深刻な事態を回避すべく働いていたことも知っている。もう事故から9年以上経過している。この映画を見ながら当時の日本の危機を再確認することも必要だ。

しかし、ドラマは事実に基づいていると言えども、どこまで現場を忠実に再現しているのか分からない。この映画は批評家からは酷評されている。でも見る人によってはハンカチが手放せなかった人もいる。僕はけっこう冷静に見た。

「福島第一原子力発電所」には原子炉が6機ある。1~3号機までが運転中で4~6号機が定期検査中だった。地震による津波(14~15m)によって全電源喪失(SBO)に陥る。このため水ポンプが稼働出来ず、核燃料が空焚きとなってメルトダウンが起こる。格納容器の圧力を下げるためにベント(排気操作)やその後の水素爆発によって放射性物質が空中に拡散する。

2号機が一番危険で格納容器内の圧力が上がり原子炉が爆発するかもしれないと恐れられた。もし爆発が起これば首都圏も含め5000万人の避難が必要なる。ところが幸いなことに圧力容器の破壊は起こらなかった・・・今でもこの理由は分からない。さらに後でわかったことだが停止中の4号機もやばかったらしい。

この映画に「東電」は一切かかわっていない。話のスジを少し紹介すると。マグニチュード9.0、最大震度7と言う巨大地震が「福島第一原子力発電所」を襲う。さらに巨大な津波が追い打ちをかけ全電源喪失(SBO)によって原子炉の冷却が不可能となる。このままではメルトダウンは避けられない。

1・2号機当直長の伊崎(佐藤浩市)は原発内に残り、最悪の事態を回避するため作業員とともに奔走する。発電所を統括する吉田所長(渡辺謙)は現場から状況連絡を受け、本店とのやり取りに神経をとがらす。

本店や首相官邸からの介入に腹を立たせながらできうる限りの処置をとるが事態はどんどんと悪くなる。そして近隣の人々は避難を始める。このままでは原子炉が爆発してしまう。吉田は世界でどこもやったことのないベントを指示する。

果たして原子炉の暴走を止めることは出来るのか。

その後のストーリーとネタバレ

吉田のところに総理(佐野史郎)がヘリで視察に来ると連絡が入る。吉田は「この忙しい時に」と思ったが仕方がない、総理を迎え、状況を説明しすぐに帰ってもらう。もう一刻の猶予もない、原子炉の圧力が上がる。

ベントの指示をする。ベントとは原子炉の圧力を下げるため外部に圧を逃がすことだ。当然、放射性物質が大気に漏れる。1・3号機はベントが終了したが2号機が出来ない。そんな時に1・3号機の建屋が水素ガス爆発を起こす。さらに停止中の4号機も爆発する。

順調に注水をしていたが、この爆発で一部の機器類が損傷する。淡水が不足すれば海水も注入する。現場作業員は吉田の指示のもと原子炉を安定させるために奔走する。日本政府は福島第一原発から20Km圏内を警戒区域として住民を避難させる。

ところが2号機の圧力がどんどん上昇する。このまま上昇を続ければ格納容器が爆発し、東京の一部を含む250Km圏内が汚染される大惨事が起こる。東電は原発からの「撤退」を申し入れたが政府はこれを「完全撤退」と勘違いし、了解しなかった。

その後、衝撃音が発生し圧力が0になる。格納容器の破損が考えられる。2号機から大量の放射性物質が大気にばら撒かれたようだが最悪の事態は回避された。

2013年7月9日、所長の吉田昌郎は58才の若さで亡くなる。吉田の葬儀にて伊崎は弔辞を読む。そしてその次の春、満開の桜の中で伊崎は昔を振り返る。

レビュー

吉田所長と現場の作業員は命を懸けて原発事故の拡大を防いだ。彼らがいなかったら事故はもっと悲惨な状態になっていただろう。日本人の素晴らしさをこの映画で見た。

映画では感動の場面が多い。しかし実際の現場では彼らは恐怖と戦いながら淡々と仕事をこなしていたに違いない。なんせ電源が全て落ちていたから明りの少ない暗闇での手探り作業だ。

ところがあとで振り返ると色々な問題点が指摘されているのも事実だ。例えば吉田はエリートだ。現場の作業員たちは地元の高校を出たたたき上げだ。当然、現場経験の少ない吉田に現場の細かい状況(緊急時での)が把握できていたのか、そして刻々と変わる変化が伝達されていたのか・・・。

さらに、全電源喪失(SBO)時の対応マニュアルがなかった。SBO時の訓練もなかったらしい。これは原発の安全神話を信じすぎた結果だと思う。もし、SBO時の訓練がされておればもっと被害を低く出来たかもしれない・・・そんな指摘もある。(アメリカではSBO時の訓練が定期的に行われていたらしい。)

この事故は詳細に分析され、原発運営の在り方の参考にされている。世界ではほとんど何処も経験したことのないアクシデントを教訓として原発をコントロールしてゆかなければならない。日本にはまだ、多くの原発がある。

ところで、原子炉の中で小規模の核爆発が起こっていたらしい、関係者はひた隠しにしてたらしいけど実に恐ろしいね。

TATSUTATSU

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