サマリー
★★★★☆(見るべき名作)
2018年5月公開日本のヤクザサスペンス映画
監督 白石和彌(凶悪、日本で一番悪い奴ら、弧狼の血)
原作 柚月裕子「弧狼の血」
出演 ●役所広司(Shall we ダンス?、うなぎ、SAYURI、バベル、CURE、バケモノの子、渇き、弧狼の血)
●松坂桃李(日本のいちばん長い日、湯を沸かすほどの熱い愛、不能犯、娼年、弧狼の血)
●真木よう子(パッチギ!、ベロニカは死ぬことにした、ゆれる、弧狼の血)
●石橋蓮司
●江口洋介
●竹野内豊
●阿部純子
久々に血が湧いた、まるで「仁義なき戦い」を見てるような感じでかつてのヤクザ路線、東映の復活だ。この映画ではヤクザの抗争に加え警察が絡んでくる。最も怖いのはヤクザではなく警察なのか?
冷血な男がたくさん出てきて、目を覆う血みどろの戦いが繰り広げられる。女性にはお薦めし辛いが、原作はなんと柚月裕子さんの同名小説だ。これだけ男くさいドラマを良く女性が書けるとは驚きだね。
しかも、ヤクザの抗争だけではなく主人公 大上刑事(役所広司)の過去の疑惑がサスペンスドラマのように謎となって迫る。果たして大上は殺人者なのか・・・。
役所広司がヤクザではないがヤクザと言ってもいいほどこの世界にどっぷり浸かっているはみ出し刑事を熱演している。そして大上刑事とペアを組まされる大学出のエリート日岡刑事(松坂桃李)。彼はあまりにも傍若無人な大上に呆れる。
大上 通称ガミさんはゆすり、たかり、脅し、袖の下・・・違法なことは何でもやる。彼の目的は一体何なのか。大上をヘドが出るほど嫌っていた日岡が彼に感化されミイラ取りがミイラになって行く。それにしても松坂桃李はいい俳優だね。
お薦め映画だ、一食抜いても見た方がいいね。あまりにもスピーディな展開であっと言う間に終わってしまう。白石和彌監督の手腕に圧倒される。真木よう子の殺気立った体当たりの演技も凄い。もし続編がつくられるなら今度は日岡(松坂桃李)が主役なのか・・・。
話の筋を少し紹介すると、昭和63年、架空都市 広島県呉原市、暴力団対策法成立直前の時代背景だ。広島の巨大暴力団 五十子(いらこ)会系(会長 五十子正平:石橋蓮司)の加古村組(組長 加古村猛:嶋田久作 若頭:竹野内豊)と地場の尾谷組との縄張り争いが勃発する。
ところがそんな時に加古村組系 金融会社の社員 上早稲(うえさわ)二郎が失踪する。この事件を大上刑事と新人の日岡刑事が担当することとなった。
日岡は大上のヤクザまがいの違法な捜査に辟易する。が上早稲は加古村組に拉致された証拠が出て来る。これをもとに、もし上早稲が殺されていれば、殺人事件として加古村組を追い込むことが出来る。
しかし、タイミングが悪いことに尾谷組の柳田タカシ(田中偉登)が加古村組に殺される事件が発生してしまう。組長の尾谷(伊吹吾郎)は鳥取刑務所に服役中だ。今は若頭の一之瀬守孝(江口洋介)が仕切っている。
一之瀬は三日後に加古村組に対し、総攻撃をかけると言う。もう時間がない、果たして暴力団同志の戦争を回避できるのか?そして14年前に殺された賽本友保(ウダタカキ)を殺ったのは大上ではないかとの疑惑が持ち上がる。それは事実なのか・・・。
その後のストーリーとネタバレ
大上と日岡はクラブ梨子のママ高木里佳子(真木よう子)を使って加古村組の吉田(音尾琢真)をおびき出して捕まえいたぶる。吉田は上早稲の遺体が埋まっている島を口走る。
大上と呉原東署のメンバー多数で島に上陸し警察犬を使って遺体を探し当てる。これによって上早稲殺害容疑で加古村組の若頭 野崎康介(竹野内豊)がしょっぴかれる。
ところが大上の消息が途絶える。そして数日後 彼の遺体が見つかる。検死の結果、酔っぱらって海に落ちたと判断された。ところが日岡はそんなこと信じない。
大上の胃から多量の異物(ブタのクソ)が見つかり腹には刺された跡が複数カ所あった。大上はヤクザになぶり殺されたのだ。しかも県警の上層部とヤクザの上層部が繋がっている可能性が示唆される。
日岡は完全にキレる。五十子(いらこ)会系の養豚場へ駆けつけ、ブタのクソをかき分け大上の遺留品を探す。そして大上が使っていたライターが見つかる。日岡は養豚場で働く善田を半殺しにする。
実は日岡は広島県警の回し者で、県警の嵯峨警視の命令で動いていた。そして彼から大上のノートを探して来いと指令が出ていた。しかし日岡は大上と付き合ううちに大上の方へと傾いてゆく。大上のノートには歴代の県警上層部のスキャンダルがまとめられていた。だから傍若無人な態度を取っても大上は処分されなかったのだ。
そして、14年前に殺された賽本友保(ウダタカキ)を殺ったのは大上ではなくて高木里佳子だったことも彼女の口から聞く。里佳子は賽本に襲われとっさに奴を殺害してしまう。大上は高木里佳子をかばったのだ・・・。
日岡の復讐が始まる。日岡は秘密裏に大上が懇意にしていた全日本祖国救済同盟の瀧井銀次(ピエール瀧)に協力を要請する。
広島県に於いて大きな会合が催される。瀧井はこの会合に五十子(いらこ)会の会長 五十子正平を呼ぶ。会には県警本部の幹部、県会議員、国会議員などそうそうたるメンバーが出席する。
五十子正平がトイレに駆け込むのを見計らい、尾谷組の若頭 一之瀬とその子分を裏口からこっそりトイレに向かわせる。トイレの入り口のボディガードを撃ち殺した一之瀬は日本刀で五十子正平の首を刺し、刀をねじって首を切断しトイレに投げ捨てる。
そして子分に日本刀を渡し、勤め上げて来いと身代わりを立てる。そこに日岡たち警察が現われ、子分ではなく一之瀬を逮捕する。ヤクザ達は日岡の計略にのせられてしまった。
ヤクザを同士討ちさせることによって組を完全に弱体化させたのだ。ヤクザより怖いのは警察と言う事になる。日岡は大上の復讐を果たした。そして大上の意志を継ぐ者は日岡なのか・・・。
レビュー
大上は自分の人生を綱渡りと表現する。警察とヤクザの間をうまくバランスを取りながら渡って行く。そしてヤクザは生かさず殺さずだと言う。
しかし、この世界に深入りしすぎたために、結局 大上はヤクザに殺されてしまう。裏には県警上層部の暗黙の了解があったのか?冒頭で、「最も怖いのはヤクザではなく警察なのか?」との問いが真実味を持ってくる。
役所広司さんの良さが前面に押し出た作品だと思う。実に渋い、生き生きとしている。そして松坂桃李さんの最後は復讐の鬼となる結末が忘れられないし迫力ある演技だ。
こういう硬派的な映画はまた見たくなる。ひょっとしたらシリーズ化されるのか。ドロドロとした世界観は人間関係が希薄な今の日本にはあまり見られない。だから映画の中だけでもこの濃密な「仁義なき戦い」は続けていってほしいね。
TATSUTATSU
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