サマリー
★★☆☆☆(そこそこ面白い)
2018年11月公開のヒューマンサスペンスドラマ
監督 三島有紀子(幼な子われに生まれ、ビブリア古書堂の事件手帳)
原作 三上延「ビブリア古書堂の事件手帳」
出演 ●黒木華(母と暮せば、散り椿、日日是好日、ビブリア古書堂の事件手帳)
●野村周平(帝一の國、ビブリア古書堂の事件手帳)
●成田凌(劇場版コード・ブルー、ビブリア古書堂の事件手帳、スマホを落としただけなのに)
●夏帆(天然コケッコー、海街diary、ビブリア古書堂の事件手帳)
●東出昌大(桐島、部活やめるってよ、デスノート、ビブリア古書堂の事件手帳、聖の青春、クリーピー)
ビブリア古書堂の事件手帳の主題歌サザンオールスターズ「北鎌倉の思い出」カバー
繊細でしっとりした女性監督ならではの作品だ。舞台は北鎌倉にある古書店「ビブリア古書堂」を中心に物語が展開してゆく。極度に人見知りなヒロイン篠川栞(しおり)子を黒木華がみごとに演じる。そして対照的なノー天気男、五浦大輔を野村周平がこれまた上手く絡ませる。
ビブリアとはラテン語で「聖書(バイブル)」のことだ。栞子の祖父が敬虔なクリスチャンであることから名づけられた。北鎌倉や伊豆を意識して作られた映像は郷愁を呼び起こさせる。ハリウッド映画に慣れてしまった僕らにはやや退屈に思われるかもしれないがサスペンス要素を持ったお薦めの秀作だ。
古書とは人の手から人の手へと読み継がれた温かみと長い歴史がある。皆さんおなじみの夏目漱石の「それから」と太宰治の「晩年」がキーになる。
話のスジを少し紹介すると。五浦大輔(野村周平)は大好きな祖母・絹子(渡辺美佐子)が亡くなり、その遺品を整理している時に夏目漱石の「それから」を本棚から見つける。大輔は大昔にこの本を触ったことによって絹子からもの凄く叱られたことを思い出す。
古書「それから」を開けるとおばあちゃんの若いころの写真が挟まれ、本の裏表紙に夏目漱石のサインがあった。もしこのサインが本物であれば大変な値打ちがある。大輔は鑑定してもらうために「ビブリア古書堂」を訪れる。
「ビブリア古書堂」ではまだ若い篠川栞(しおり)子(黒木華)が応対してくれた。彼女は極端な人見知りだが、本のことになると饒舌になる。古書「それから」を鑑定してもらうと夏目漱石のサインは偽物であると言う。
彼女はこの本をさらに詳しく調べる。田中嘉雄(東出昌大)の名前が書いてあり、夏目漱石のサインはこの本を貸してもらった絹子が偽装工作をしたものだと推測した。つまり今から50年以上前に絹子(夏帆)と田中嘉雄とは何らかの関係があったと・・・。
栞子は絹子と田中嘉雄は昔、愛し合っていたのではないかと結論を下す。つまり今流に言えばおばあちゃんは若いころに「不倫」していたのだ。そしてそれを死ぬまで隠し通していた。大輔は栞子の洞察力に敬服するとともに、彼女と「古書」に興味を抱き店を手伝う事になった。彼女は石段から転げ落ち足を骨折していた。
栞子と大輔は「古書」のオークション会場で稲垣(成田凌)という男と知り合う。稲垣は「古書」をネットで販売する仕事を生業にしており、本の話題で栞子と意気投合していた。そんなところを見ていた大輔は軽い嫉妬を覚え、自分が栞子に好意を持っていることに気付く。
ある日、栞子は大輔に自分の骨折は見知らぬ男に突き落とされたからだと告白する。そして自分の祖父から受け継いだ太宰治の初版本「晩年」を誰かが狙っていると言う。その本は売るつもりはないが350万円ほどの価値がある。
インターネットで「大庭葉蔵」と言う人物がゆずってくれとしつこく言い寄ってくる。何度も断るが「大庭葉蔵」は諦めない様子だ。「大庭葉蔵」とは太宰治の小説「人間失格」の主人公だ。
果たして「大庭葉蔵」とは何者なのか、そして大輔はこの男から栞子と本を守ることが出来るのか・・・・。
その後のストーリーとネタバレ
小説家志望の田中嘉雄(東出昌大)は偶然入った「ごうら食堂」で絹子(夏帆)と出会い彼女に惹かれてゆく・・・今から50年以上前の出来事だ。嘉雄は最初、絹子に小説を渡し、その本の感想を聞くことから交流が始まった。
そしてお互いに惹かれあい二人の関係は不倫へと発展してゆく。絹子が子供を身ごもった頃、嘉雄から何もかも捨てて一緒に駆け落ちしようと懇願される。しかし、絹子は嘉雄との待ち合わせ場所に行かなかった。嘉雄は雨の中待ち続ける。
現代における栞子と大輔のもとに災いが生じる。何と大輔が預かった初版本「晩年」が何者かに盗まれたのだ。しかしその本は偽物で、本物は栞子が別の場所に保管していた。大輔は栞子にダマされたと怒ったが、本物を渡すのは心配だったと彼女は謝る。
大輔が持ち込んだ古書「それから」には、おばあちゃんの若いころの写真が挟まれている。その写真をよく見るとテーブルに置かれた太宰の「晩年」が写っていた。この「晩年」と何か関係があるのか・・・。
「大庭葉蔵」の正体が分かった、稲垣(成田凌)だったのだ。彼は栞子と大輔を執拗に追いかける・・・どうしても「晩年」が欲しいのだ。海岸近くに追い詰められた栞子は「晩年」を海の中に投げ捨てる。それを見た稲垣はがっくりとうなだれる。
実は稲垣は嘉雄の孫だった。嘉雄の家が火事になった時、彼は稲垣に「晩年」を手渡そうとして焼け死んでいた。祖父の最後の思いを叶えるためにどうしても「晩年」が欲しかったのだ。稲垣は嘉雄が書いていた小説の原稿を栞子と大輔に渡す。そこには嘉雄と絹子の出会いと別れが綴られていた・・・。
レビュー
夏目漱石の「それから」は漱石の三部作の一つと言われている。「三四郎」「それから」「門」が三部作だが一般にはこの順序で読まれている。「三四郎」は主人公の失恋、「それから」は主人公が友人の妻を奪う、「門」は友人の妻を奪ってしまった後の生活が描かれる。
「それから」はまさに不倫して人妻を奪うストーリーが物語とシンクロする。しかし結局、嘉雄は絹子を奪うことが出来なかった。
また、「晩年」は太宰治の代表作で坂口安吾などと同じ堕落文学と言われる。太宰治の小説の中で青少年にとって健全な小説は「走れメロス」ぐらいしかないと思う。でも太宰の小説はもの凄く人気がある。誰しも、人間の堕落した部分を見る方が楽だと思うからだ。
嘉雄は「晩年」を絹子に読ませたと思うが、恋人に読ませるような本ではないような気がする。彼女と新たな生活を望むようであればもっと明るく、前途洋々な小説が良いのではないか。
小説は読む時期があるような気がする。「三四郎」「それから」「門」は学生時代に読んだがすばらしかった。しかし今読んだとしたら学生時代の感動が甦るかやや不安だ。
夏目漱石の「こころ」を読んでみたが、昔の感動が甦らなかった。あれだけ感動した小説なのに、自分自身がけがれて純粋ではなくなってしまったのかな。小説はしばらく横に置いておいて、映画を観る方が今は楽しいね。
TATSUTATSU
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