邦画

映画「みをつくし料理帖」感想・評価:胸にジーンと来る地味だけど心にしっとりと浸み込んでくるドラマ

サマリー


★★★★☆(見るべき名作)

2020年10月16日公開の江戸時代料理映画
監督・脚本・製作 角川春樹
原作 高田郁「みをつくし料理帖
出演 ●松本穂香(みをつくし料理帖
●奈緒(みをつくし料理帖
●若村麻由美
●浅野温子
●窪塚洋介
●小関裕太
●藤井隆
●石坂浩二
●中村獅童

『みをつくし料理帖』 本予告篇

主題歌「散りてなお」

手嶌葵「散りてなお」(Official Audio)

 

高田郁のベストセラー「みをつくし料理帖」の映画化だが原作とは少しストリーを変えている。あのやんちゃな角川春樹が監督したとは思えないほど「しっとりと心に染みいる」。地味だけど胸にジーンと来る、お薦め映画だ。ハンカチを持って映画館に出かけよう。

主演の松本穂香が素直な演技で実に素晴らしい。彼女を主演に選んだことで既に成功している。料理をテーマにした女性二人の友情物語だが実に「清々しい」、見終わった後も余韻がしばらく続く。松任谷由実、作詞・作曲、手嶌葵の歌が映画にピッタリ。

僕は料理映画が大好きだ。美味しそうな日本料理が次から次へと出てくる。お腹が空いてるときにはぐうっと鳴りそうだ。主人公の澪(松本穂香)は大阪出身だ。ところが江戸での料理人としては苦労する。上方(大阪)と江戸では味が違う、江戸はやや濃いめなのだ。

澪は苦労しながら上方と江戸の味を融合させ、独特の風味を作り上げてしまう。例えば、江戸の鰹節と上方の昆布を組み合わせた出汁を使った「とろとろ茶碗蒸し」は大ヒットする。さらにこぼれ梅を使った鼈甲珠の味には言葉を失う。

ところてんは江戸では寒天からつくられていたが、上方のさらし天草を使ったそれに酢醤油をかけたものは絶品だ。澪は料理の天才なのだがその才能が開花するまで辛酸をなめる。ドラマに出てくる料理を少し紹介してみよう

●とろとろ茶碗蒸し

●牡蠣の宝船

●金柑の蜜煮

●鼈甲珠

●おぼろ昆布弁当

●ところてん

●牡蠣なべ

話のスジを少し紹介すると。享和二年(1802年)の大阪、8才の澪と野江は姉妹のように仲が良かった。ところが大阪を襲った大洪水で二人とも両親を失ってしまう。

運よく澪は天満一兆庵の女将、芳(若村麻由美)に拾われる。片や、野江(奈緒)は吉原に売られてしまう。それから10年の月日が経つ。澪は江戸の神田にある蕎麦処「つる家」で女料理人として働いている。

澪は牡蠣料理を作ってお店に出したが評判が良くない味が薄いのだ。江戸では牡蠣は七輪で殻ごと焼くのが定番、彼女は悩む。そんな時町医者の永田源斉(小関裕太)はヒントをくれる。江戸料理の味が濃いのは大工などの職人が多いからだ。彼らは肉体労働で汗をかく、だから塩分が必要なのだと。

澪は仕方なく、味を濃いめにして江戸に合わせる。彼女の料理はある程度は客に認められるが自分では満足していない。さらに常連の御膳奉行、小松原(窪塚洋介)に出した茄子の煮浸しに対し「料理の基本がなっていない」と一括される。澪は途方に暮れるのだが・・・。

その後のストーリーとネタバレ

永田源斉は気分転換と称して吉原のお祭りに澪を誘う。澪はそこで幻の花魁「あさひ大夫」(奈緒)の存在を知る。さらに吉原で食べた「ところてん」からヒントを得て、江戸流と上方流を掛け合わせた新しい「ところてん」を作って「つる家」で出してみた。

この「ところてん」が大当たり、店は繁盛する。澪に亡くなった娘の面影を感じた「つる家」の主人、種市(石坂浩二)は店を継いでほしいと頼み込む。

澪は芳と種市の期待を受けて、新たな味づくりに全力で取り組む。江戸の鰹節と上方の昆布をうまく使った出汁を徹夜で完成させる。そしてこの出汁を使った「とろとろ茶碗蒸し」は大評判をとる。店は連日、超満員だ。

店じまい仕掛けた時に、吉原の遊郭・翁屋の料理番、又次(中村獅童)が訪ねてくる。上方の味「とろとろ茶碗蒸し」をどうしても作ってくれとのことだ。澪は竹筒を茶碗代わりにして料理を作る。その間、たわいもない世間話をする。

大阪の新町のある井戸に下駄を落としてしまった時の出来事だ。その時、幼馴染の野江がわざと自分の下駄も落とし「怒られるんも、罰当たるんも一緒や」と言ってくれたことを懐かしく話した。

又次はすぐに帰り、「とろとろ茶碗蒸し」を「あさひ大夫」に手渡す。大夫はその味に上方の懐かしさを感じる。ところが又次から井戸に落とした下駄の話を聞いて、大夫の顔色が変わる。この「とろとろ茶碗蒸し」を作ってくれたのは幼馴染の澪だったとは・・・。

「とろとろ茶碗蒸し」の味は日本橋・登龍楼に盗まれる。澪は主人の采女宗馬(鹿賀丈史)に直接会い「この仕返しは料理で戦う」と啖呵を切る。ところが采女が陰で浮浪人を使って「つる家」に付け火する。「つる家」は全焼し澪は絶望の淵に叩き込まれる。

暫くして又次が手紙を持って澪の前に現れる。手紙を開けてみると10両のお金が入っていた。差出人は「旭日昇天(天下取りの強運の持ち主の意)」と書かれてあった。澪は幼馴染の「野江」だと涙を流す。二人が8歳の時、高名な易者・水原東西(反町隆史)によって手相を見てもらい、澪は「雲外蒼天(苦労の多い人生だが頑張れば必ず青空が拝めるの意)」野江は「旭日昇天」と言われていたからだ。

澪は「つる屋」を建て直し、新たな気持ちで料理作りに没頭する。この間「野江(あさひ太夫)」に料理を作って食べてもらうことで友情をつなぐ。そして10両を感謝の地持ちを添えて「野江」に返す。そして4千両を稼いで「野江(あさひ太夫)」を身請けしようと決心する。

常連の小松原がいつも澪を励まし、料理の味に厳しい批評をくれる。小松原は澪のことが気に入っているのか、いつも名前ではなく「下がり眉」と呼ぶ。いつしか澪は小松原に思いを寄せる。しかし、御前奉行の小松原とは身分が違うと感じている。

小松原に縁談の話が舞い込む、気乗りしないが受けるしかないのか悩む。その晩「つる屋」に現れた小松原はいつもと様子が違う。澪はあいにく戯作者の清右衛門(藤井隆)と深刻な話をしており、手が離せなかった。小松原が食事もせずに帰ろうと店を出たので澪は後を追う。小松原は「野江(あさひ太夫)」の身請けの話を聞いていたのだ。

小松原は振り返って澪を見る。「下がり眉」「お前の料理の腕なら4千両ぐらい稼げるはずだ」と告げて暗い夜道に消えてゆく。小松原は澪と「野江(あさひ太夫)」の関係を知っていたのだ。これが会うのは最後かもしれない。

急いで「つる屋」に戻った澪は「小松原様はここにはもう二度と来ない」と芳に抱き着いて大声で泣く・・・。数年後、大阪の橋の上に、にこやかな澪と野江がいた。見上げると空は抜けるように真っ青だった。

レビュー

原作では澪は小松原に求婚されるが断って料理の道を歩む。澪は摂津屋らの力を借りて鼈甲珠の作り方を「翁屋」に売り渡すことによって野江の身請けに成功する。

澪と野江は大阪に戻る。澪は長年見守ってくれた町医者の永田源斉と結婚する。そして大阪の四ツ橋に新しいお店「みをつくし」を始める。野江は大阪に戻って、かつての実家「淡路屋」を再興する。そして摂津屋の番頭、辰蔵と一緒になる。

結末はハッピイエンドだ。映画では最後まで描くことが出来ない。このドラマを見たら原作本を読むことをお勧めする。男の世界の中で奮闘する女たちがまぶしい。あなたも原作のとりこになること間違いない。

TATSUTATSU

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