邦画

映画「罪の声」感想・評価:グリコ・森永事件をモチーフにしたまるでノンフィクションのようなドラマ

サマリー


★★★☆☆(お薦め)

2020年10月30日公開のサスペンスドラマ
監督 土井裕泰(いま、会いにゆきます、罪の声
原作 塩田武士「罪の声」
出演 ●小栗旬(罪の声
●星野源(罪の声
●松重豊
●古館寛治
●市川実日子

映画『罪の声』予告【10月30日(金)公開】

 

2時間半近くの長い映画だが不思議と長さは感じなかった。ただ、登場人物があまりに多く複雑だから少々まごついた。この映画の魅力は何といっても実際に起こった「グリコ・森永事件」をモチーフにしていることだ。

この「グリコ・森永事件」は昭和における最大の未解決事件で1984年3月から1年5か月に渡って「かい人21面相」を名乗るグループが食品会社を脅迫した。当初、江崎グリコ社長を誘拐し身代金を要求した。この時何故社長を誘拐したのか、ここがポイントだと僕は思う。

その後、青酸入りの菓子がばら撒かれ食品会社は大損害を受ける。警察は威信をかけ130万人もの警察官を動員、捜査対象者12万5千人15年にわたって捜査を続けたが尻尾さえつかむことが出来なかった。

「かい人21面相」は警察への挑戦状、企業への脅迫状計144通を出している。そしてテープに吹き込まれた3人の子供の声が身代金受け取り場所の指定などに使われている。10代半ばの女性一人と6才・8才と思われるの男児2名だ(一説にはもう一人男の子が関わっているとも言われている)。

子供までも事件に巻き込む、しかも警察の裏をかいたりマスコミを翻弄させるほど「大胆で堂々」としている。これはよく訓練されたプロ集団と考えてもおかしくない。頭脳明晰な1名のリーダーの基、数名の戦闘員と子供たちで構成され、グループは7人から10名と考えられている。

しかもこのグループの中に「キツネ目の男」と言われる人物がいて、警察は何度もこの男を取り逃がしている。これらの失態の責任をとって当時の滋賀県警本部長が焼身自殺している。グループは殺人は犯していない、青酸入りの菓子には「毒入り危険」と表示までしている。非常にクレバーでスマートな戦術だ。

今回、このドラマは事件に関わった3人の子供たちがその後どうなったかに焦点が当てられている。当時の子供たちは35年も経っていることから今は40~50代だ。いったい彼らは現在、何処でどの様に生きているのか?好奇心をくすぐられるドラマだ。まるでノンフィクション映画を見ているようだ。

僕は「グリコ・森永事件」の真相をこう考えている。警察は犯人グループをある程度特定出来ていたのではないだろうか。しかし、政治上の懸念点があってそのグループを捕まえることが出来なかった。政治上の懸念点とは・・・。ここではそこには触れない。

話のスジを少し紹介すると。大日新聞は未解決事件の特集を組むことになった。記者の阿久津英士(小栗旬)はかつて世間を騒がせた「ギンガ・萬堂事件」(略して「ギン・萬事件」)を担当する。この事件は今から35年前に起きた。食品会社の社長誘拐、毒入り菓子のばら撒きなどによって企業を脅し金を取ろうとする事件だ。首謀者は「くら魔てんぐ」と呼ばれる子供を含む7~10人程度のグループと考えられている。

京都でオーダースーツ店を営む曽根俊也(星野源)はある時、父の遺品の中に古いカセットテープと英語で書かれた手帳を見つける。彼はカセットテープを再生すると、幼いころに自分が歌った歌の中に混じって「きょうとへむかって、一号線を2キロ。バス停城南宮のベンチの・・・・」の言葉が入っていた。

曽根は血の気を失う、例の「ギン・萬事件」のテープの声だ。これは俺の声だったのだ。曽根は手帳に書かれた手掛かりをもとに真相を探ろうとする。あの時のあと二人の少年・少女たちはどこにいるのか気になる。そして、秘密へと踏み込んだ時に新聞記者の阿久津と出会うことになる。果たしてその真相は・・・。

その後のストーリーとネタバレ

曽根は手帳の情報を頼りに、親族から調査を始める。目的は、「いったい俺は誰によってカセットテープに声を録音させられたのか?」そして「自分と同じように声を録音させられた二人の子供たちの消息は」の2点だ。もうすでに父の曽根光雄は亡くなっている。母、真由美はガンで入院中であり余命は短い。

たどってゆくと、父の兄の伯父・曽根達男(川口覚)に行き着く。伯父は現在どこにいるか不明だ。そして「くら魔てんぐ」グループと思われる集団が会合していた料亭を突き止める。ところがその料亭へ阿久津も調査に現れ、曽根の存在を知る。

阿久津は思い切って曽根を訪ねる。曽根は最初、動揺して阿久津を遠ざけるが、その後に調査に協力する。二人は途切れそうな糸をたどりながら深い闇の中に踏み込んでゆく。

「くら魔てんぐ」グループは元過激派の曽根達男、達男の幼馴染元警官・生島秀樹(阿部亮平)、経済やくざ青木龍一、株の仕手師・吉高弘行、キツネ目の男・林、車盗難の常習犯・森本哲司・・・などだ。

そして、残るテープの声は生島秀樹の娘と息子の声だった。「くら魔てんぐ」の真の目的は食品会社の株の空売りによって利益を上げようとしていた。株を高値で売って暴落した後安値で買い戻す手法だ。ところが思ったほど儲からなかった。

経済やくざ青木龍一は株価操作から身代金受け取りに変更するも失敗。生島秀樹は青木に殺され娘と息子は逃亡するが娘の生島望は事故に見せかけ殺される。息子の生島聡一郎は姿を隠し逃げ回る。

聡一郎は壮絶な人生を生き抜いたが既に未来に希望らしきものは見られなかった。自殺しようとしたところ曽根から電話が入る。曽根は必死に説得する、そして聡一郎は自分の正体を世間にさらす決心をする。

曽根俊也の声を録音したのは母だったのだ。若いころ曽根達男と母の真由美は同じ過激派に属していたことがある。母は達男に協力したようだ。俊也は真相を明らかにしたが掘り起こすべきではなかったと後悔する。そして母は亡くなる。

阿久津は曽根達男がロンドンにいるとの情報を掴み、会いに行く。達男は古い書店を営んでいた。「ギン・萬事件」の真相を達男の口から直接聞くがその後、彼は忽然と姿を消してしまう。

聡一郎はマスコミの前で記者会見をし、新たな人生を始める。しばらくして、曽根の処に阿久津が現れ、スーツを作ってほしいと微笑みかける。

レビュー

「グリコ・森永事件」と言う未曽有の犯罪を犯したグループとして①元グリコ関係者説②株の操作仕手グループ説③被差別部落関係者説④北朝鮮工作員グループ説⑤元暴力団組長グループ説⑥過激派グループ説⑦元警察関係者説などがある。

このドラマでは⑥過激派グループ②株の操作仕手グループ⑤元暴力団組長グループ⑦元警察関係者が混成チームを作ってお金をだまし取ろうとした。そして子供はこれらの家族となっていた。

実際にあった事件だからこそ、ドラマにリアリティがある。今でも犯人たちは生きている。特に子供たちは働き盛りの歳になっている。僕らはひょっとしたら犯人とすれ違っているかもしれない。

冒頭に「江崎グリコ社長を何故誘拐したのか」そして何故、無傷で解放したのかと問うた・・・・犯人たちと江崎グリコ社長との間で何らかの取引があったのか?全てが闇の中、今では掘り起こす者は誰もいない。

TATSUTATSU

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