邦画

映画「モリのいる場所」感想・評価:こんなに心地いい映画見たことない

サマリー


★★★☆☆(お薦め)

2018年5月公開の日本映画 ヒューマンドラマ
監督・脚本 沖田修一(南極料理人、キツツキと雨、モヒカン故郷に帰る、モリのいる場所
出演 ●山崎努(お葬式、マルサの女、おくりびと、モリのいる場所
●樹木希林(わが母の記、あん海街diaryモリのいる場所、万引き家族)
●加瀬亮(アンテナ、それでもボクはやっていない、劇場版SPEC、モリのいる場所)
●吉村界人(モリのいる場所)
●光石研(海賊とよばれた男、羊と鋼の森、モリのいる場所)
●池谷のぶえ(脳男、モリのいる場所)

映画『モリのいる場所』予告編

 

こんなタイプの映画を観に行くのは僕ぐらいかなと思っていたけど、劇場はジジ・ババでごった返していた。一服の清涼剤を味わいに行くのは僕だけじゃなかった訳だ。

この映画はあの有名な画家「熊谷守一(くまがいもりかず)」の一日を可笑しく、楽しく淡々と描いたフィクションドラマだ。そしてこんなに心地よい映画は久しぶり、後半うとうとしかけてしまった。

熊谷守一は97才で死去するまで晩年の約30年間(20年間とも言われる)を自宅と自宅の庭から一歩も外へ出なかった仙人のような人物だ。

画風は「熊谷様式」と言われ、極端なまでにシンプル化された造形とそれを囲む輪郭線に特徴がある。この絵画を見られた人は多いと思う。天皇陛下が彼の絵を見て「小学何年生が描いた絵ですか?」と言われた逸話が残っている。

彼は庭で見つけた昆虫や、猫、小鳥、草木を題材に絵を描き続けた。彼の絵を見ていると、そのシンプルさに飽きない。一見、僕にも描けそうな気がする、そんなところに親しみが湧くのかもしれない。

この熊谷守一を演じるのが今年81歳の山崎努さんだ。撮影は暑い中で苦労されたようだが仙人のようにひょうひょうと生きる守一を実に淡々と自然体で演じている。

そして妻の秀子を樹木希林が実生活でも夫婦かと思わせるような世話女房を演じ切る。見ていて微笑ましいし、心地いい。

話の筋を少し紹介する。熊谷守一は朝飯を秀子と姪のお手伝いさん美恵ちゃん(池谷のぶえ)と食べる。味噌汁の油揚げはハサミで切ったり、ウインナをペンチで潰したりして食べやすくしてから食す。

食後は庭をじっくり散策する。庭にはヤモリやら金魚鉢の近くにはイモリもいる。今日は地面に這いつくばってアリを見る。彼は長年の観察からアリは左側の二本目の足から動き出すのを発見したようだ。

カメラマンの藤田(加瀬亮)と助手の鹿島(吉村界人)が守一のそんな様子をカメラに収める。守一はアゲハチョウを捕まえたり石ころをひろったりする。くぼんだ所には小さな池があり魚が泳いでいる。

守一は小さな庭が小宇宙だと飽きずに何時間でも観察する。午後は庭にござを引いてお昼寝だ。そんなところに信州から雲水館の主人 朝比奈(光石研)がやってきて旅館の表札を書いてほしいと言う。

守一は大きな表札に「無一物」と書いて渡す。本当は「雲水館」と書いてほしかったようだ。暫くして隣のマンションのオーナー水島(吹越満)と現場監督の岩谷(青木崇高)がやってきて苦情を言う。

守一の家の周りには誰が設置したのか「マンション建設反対」のプラカードが立っていた。岩谷は守一を見つけ息子が書いた絵を見せる。そしてもし息子が天才画家ならしかるべき教育を考えているようだ。

守一は絵を見て「ヘタ、ヘタですね」と言う。そして「ヘタな方が伸びしろが大きいからいいですよ」と付け加える。マンションが建ったら庭が日陰になる。唯一池の近くに陽があたることから、池を埋めたいと岩谷に相談する。

政府から電話がかかってくる。文化勲章を受けてもらいたいとのことだ。守一は「これ以上、人が来てくれては困る」「断わりなさい」と秀子に伝える。秀子は「いりません」と答えて電話を切る。

夕方になって美恵ちゃんがどっさり食料を買い込んで帰ってくる。さらにもらい物の肉もある。とても食べきれないから隣のマンションの工事現場から作業員を呼んですき焼きパーティを開く。

守一のところに、額に明かりをつけた不思議な男(三上博史)が近づいてきて「この庭と宇宙はつながった」「一緒に来るか」と聞く。守一は「行かない」と答える・・・・夢なのか?

夜は勉強部屋(絵をかく仕事場)で過ごす時間だ・・・こんな一日を毎日繰り返して行く。

レビュー

不思議なドラマだ、何気ない日常を淡々と描いているだけだが、力が抜けていて心地いい。守一は毎日 庭を散策し生き物を観察していく、疲れたら地面にござを敷いて昼寝するだけだ。

こんな暮らしに誰もが憧れているのかも知れない。アトリエを勉強部屋と言って午後に創作活動を行うようだ。アトリエにはフクロウを飼っている。

映画には虫や小鳥、ヤモリなどが出て来る。人間は演技が出来ても、小動物たちを撮影するのは大変だったろうなと思う。彼らは本能のまま動くからだ。

映画では庭が100坪以上の広さに見えるが実際は30坪くらいだったらしい。この狭い空間でも良く見るとそこには小宇宙がある。

映画には「知らない男」が出て来る。この男は貧乏神か死神か・・・。でも守一に追い返される。彼の長寿の秘密はこれなのかもしれない。

TATSUTATSU

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