サマリー
★★★☆☆(お薦め)
2020年1月日本公開の韓国製作ブラック・コメディ
監督・脚本 ポン・ジュノ(殺人の追憶、グエムル-漢江の怪物、スノーピアサー、パラサイト 半地下の家族)
出演 ●ソン・ガンホ(シュリ、殺人の追憶、グエムル-漢江の怪物、スノーピアサー、観相師、パラサイト 半地下の家族)
●イ・ソンギュン(パラサイト 半地下の家族)
●チョ・ヨジョン(パラサイト 半地下の家族)
●チェ・ウシク(パラサイト 半地下の家族)
●パク・ソダム(プリースト 悪魔を葬る者、パラサイト 半地下の家族)
日本にも貧富の格差がどんどん広がってゆく先の見えない社会が到来した。金持ちはもっと金持ちになり、貧乏人はどんなに頑張っても一生浮かび上がれない。さらに貧困は子孫にまで受け継がれ固定化される。階層型格差社会の出来上がりだ。
貧困家庭がすごい勢いで増えている。7人に1人の子供が貧困に苦しみ食うものがない。先進国の中でも貧困率の高い国の一つになってしまった。何故、こんな国になってしまったのか・・・母子家庭や非正規労働者、貧困老人が増えたためか。早く手を打たないと間に合わない・・・いや、もう間に合わないかもしれない。
韓国もひどい、日本よりもひどいかもしれない。皆さんご存じにように富が大財閥に集中している。それ以外は大財閥のおこぼれにあずかって生きてゆくのか、それとも社会の「寄生虫」となるのか。「パラサイト」とは「寄生虫」と言う意味だ。
貧乏人のキム一家は半地下に住んでいる。この半地下は家賃が安いが、光が当たらず湿っぽいしゴキブリの住み家だ。家の中でトイレが一番高いところに設置してある、低いと流れないからだ。大雨が降れば部屋は水浸し、トイレも逆流する。
家族4人全員失業中だ。細々と内職をしながら暮らしている。息子のギウが裕福なパク家の家庭教師になったことから転機が到来する。妹ギジョンは嘘をついて美術の家庭教師、父ギテクは運転手、母チュンスクは家政婦としてパク家に入り込む。
キム一家は安泰だと思ったところ恐ろしい邪魔が入る。この家にはいったい何が隠されているのか・・・。監督・脚本のポン・ジュノは朴槿恵政権において左向きとされる「ブラックリスト」に載っていた。今は左派の文在寅政権になって(左派政権を擁護するつものはないが)自由に創作活動が出来るようだ。しかし、彼もいまだにこのトラウマに苦しんでいる。
ポン・ジュノは社会の公平な競争が阻害されていると主張する。この競争から脱落した人々を「寄生虫」呼ばわりし、絶壁の端に追いやってしまった。今まで普通の人々であった隣人が「寄生虫」として差別される世界はおかしいと述べている。
誰しも好きで「寄生虫」になったわけではない。このドラマの中では裕福な家庭と貧乏人は「臭い」が違うという。同じ人間なのに「臭い」で差別される。貧乏人は「くさい」、独特の「貧乏臭」がすると金持ちは顔をしかめる。
僕らも身につまされるドラマだ。ブラック・コメディだがポン・ジュノの強烈なメッセージが込められている。さあ、あなたはこのドラマを見て何を思うか。第72回カンヌ国際映画祭でパルム・ドール賞を受賞している。また2020年のアカデミー賞に、作品賞・監督賞をはじめ計7部門にノミネートされている。
追伸)2020年アカデミー作品賞・監督賞・国際長編映画賞・脚本賞 受賞おめでとう。凄いね。
その後のストーリーとネタバレ
大学の卒業証書を偽造してパク家の長女ダヘ(チョン・ジソ)の家庭教師になったギウ(チェ・ウシク)はさらに計画を押し進める。妹のギジョン(パク・ソダム)はアメリカ帰りのアーティストと偽って、パク家の長男ダソン(チョン・ヒョンジュン)の絵を教える教師に収まる。
そして運転手と家政婦ムングァン(イ・ジョンウン)を辞めさせ代わりに運転手はギテク(ソン・ガンホ)、家政婦はチャンスク(チャン・ヘジン)がちゃっかり後釜に収まる。
パク一家が外泊で出かけたすきに、家族で豪邸のリビングに集まりどんちゃん騒ぎを始める。ところが真夜中に家政婦ムングァンが忘れ物をしたから取りに来たと突然現れる。外は豪雨だ。
パクの豪邸に上がり込んできたムングァンは驚くべきことを打ち明ける。実はこの豪邸には地下に核シェルターがあり、夫のグンセ(パク・ミョンフン)が数年前から住んでいるという。グンセは借金取りから逃れるためにここに隠れていた。
ここを買ったパク家は核シェルターのことは知らない。ムングァンはパク家以前の主人からここに住み込んでいる。かつてのこの豪邸に住んでいたオーナーは核シェルターのことは秘密にしていたようだ。
対応に出たチャンスクは地下に降りてゆく。地下の食料貯蔵庫の棚を移動させると地下への階段が現れた。そしてそこを降りてゆくとなんと、ムングァンの亭主グンセが住んでいた。地下には居住空間がありトイレ・シャワー、冷蔵庫など完備され住むには問題ない。
ところがムングァンはキム一家がここに集まっていることを知ってしまう。家族を映した動画をパク社長に転送すると脅かす。すきを見てムングァンのスマホを取り上げ夫婦を地下に監禁する。ムングァンは地下階段から転げ落ちたことによって頭を強打して虫の息だった。
タイミングの悪いことにパク家が大雨のため戻ってくると連絡があった。あと10分以内に帰れると近くまで来ているようだ。ギテクたちは慌てて、散らかしたリビングを掃除するが間に合わずパク家は到着してしまう。
チャンスク以外はテーブルの下や部屋に隠れる。そして大慌てで豪邸から抜け出す。外は豪雨だ、家に着いたら半地下の部屋は雨水でプールのようになっていた。この豪雨の被害で多くの人が住み家を奪われ体育館に避難していた。
そんな時にパク社長は家でホームパーティをやりたいとキム一家に連絡が来る。ギテクは仕方なくパク邸に行くがパク社長は息子ダソンのためにインディアンになって喜ばせよと無理難題を吹っかけてくる。彼は切れかかっていた。
パーテーが盛り上がったところに地下に監禁されていたグンセが縄を解いて地上に現れる。観賞用の水石でギウの頭をカチ割り、台所の包丁を持ってギジョンを刺し殺す。そしてチャンスクやギテクに襲い掛かろうとする。
ギテクはとっさにバーベキューの金串でグンセを刺す。そしてグンセが持っていた包丁をもぎ取るとパク社長を刺し殺してしまう。彼は今までの貧乏人に対するパク社長の態度と上から目線が気に食わなかったのだ。
ギテクは階段を下って建物の外へと逃げてゆく。その後、彼を見たものは誰もいない。ギテクは忽然と消えてしまったのだ。入院から回復したギウは小高い丘からかつて家庭教師で通っていたパク邸を見下ろす。
その時、邸のランプがちかちかと点滅する。彼はそれをモールス信号だと理解する。この信号を記録し、解読してみるとなんとギテクはこの邸宅の地下シェルターに隠れているのだった。
ギウは誓う、金もうけをしてこの邸宅を買い、父を自由にすると。彼は大それた妄想を胸に生きてゆく。
レビュー
ポン・ジュノを知ったのは「殺人の追憶」を見た時だ。あまりにスリリングな展開とテンポの良さで、衝撃が走ったのを覚えている。そして「グエムル-漢江の怪物」だ、得体の知れない恐怖に背筋が寒くなった。そしてハリウッド進出の「スノーピアサー」。
彼は一貫して弱者と貧困を描き続ける。「スノーピアサー」では永久機関を積んで走る列車が舞台だ。前方が富裕層、最後尾は貧困層が暮らしている。貧困層の食べ物はゴキブリを原料にしたたんぱく質だ。そして彼らは富裕層に戦いを挑む。
「パラサイト 半地下の家族」では貧困層と富裕層を対比させ、同じ人間なのに貧乏人は「パラサイト(寄生虫)」と別人種でクズのように扱われる。もう公平な戦いができる世の中ではない。でもいつかは貧困層の反撃があるのではないかと富裕層は心の底で思っている。
その貧困層の反撃が映像化され多くの人々の共感を得たのではないかと思う。観客動員1000万人を突破していると聞いている。そしてアカデミー賞7部門ノミネートだ。
韓国は右派政権になったり左派政権になったり揺れ動く。そのたびに苦労する人間が入れ替わる。日本にとってはどちらの政権になっても「反日」は変わらない。少し前にソウルを旅したことがあった。人々は優しく接してくれて個人的には親近感を感じた。
このドラマは中国では上映が許可されなかった。中国共産党が怖がっているのはこの映画のように貧困層の反撃ではないかと感じるね。
TATSUTATSU
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