サマリー
2016年公開の日本アニメ映画 ヒューマンドラマ
監督・脚本 片渕須直(名犬ラッシー、アリーテ姫、BLACK LAGOON、マイマイ新子と千年の魔法、この世界の片隅に)
原作 こうの史代 漫画「この世界の片隅に」
音楽 コトリンゴ
声の出演 のん(北條すず)
細谷佳正(北條周作)
稲葉菜月(黒村晴美)
尾身美詞(黒村径子)
小野大輔(水原 哲)
潘めぐみ(浦野すみ)
牛山 茂(北條円太郎)
新谷真弓(北條サン)
岩井七世(白木リン)
小山剛志(浦野十郎)
津田真澄(浦野キセノ)
派手な演出は無いけど「胸にぐっとくる」映画だね、1944年(昭和19年)当時の人々の暮らしぶりが克明に伝わってくる・・・当時を詳細に調査し丁寧に仕上げた血の通った傑作アニメだ。
2016年11月12日に全国63スクリーンでのスタートだったが、評判を呼び異例のロングランとなった。今では全国200スクリーンに拡大し、興行収入も10億円を突破している・・・凄いし納得だ。
監督・脚本の片渕須直は2009年に劇場アニメ「マイマイ新子と千年の魔法」を発表しており、内容の質の高さから異例の2年間のロングランを行った実績がある。
今回の作品で彼の才能が世間に広く知れ渡った感じで、日本アニメ界の人材の豊富さを感じるね。次回作がもの凄く楽しみな監督の一人で、「君の名は。」の新海誠監督、「時をかける少女」「バケモノの子」の細田守監督などとアニメ新黄金時代を築いてもらいたいね。
この映画のアニメ製作費は2.5億円とのことで、その一部にクラウドファンディング(不特定多数の人々によるインターネット経由の支援)で集めた資金が投入されている・・・金集めにこんな方法があるとは。
映画を観に行って久々に目頭が熱くなった、お薦め映画だ、是非映画館に駆け付けて欲しい。主人公の声をのん(旧 能年玲奈)が演じており、この役にピッタリだ・・・彼女はやはり「何か」を持っている。
戦争の悲惨さを「北條すず」の目を通して描かれるが、決して暗い映画ではなく、貧しいながらも必死に生きる一人の女性の物語だ。
すずは絵を描くことが好きな、純朴で少々おっとりした性格の娘だ、呉に住む北條周作に見初められて18才で嫁に来る。
北條家は夫の周作、彼の父の円太郎、母のサンの3人暮らしだ。そこに周作の姉の黒村径子、娘の晴美が疎開してくる。
呉は東洋一の軍港と言われ「戦艦大和」が建造された。昭和16年に開戦となった太平洋戦争が背景にあって、日々激しくなる空襲に見舞われる。
こんな戦時下の厳しい情勢の中ですずは周作との愛を育みながら明るく生きてゆくが、米軍の爆弾によって晴美と死ぬほど大切な右手を無くしてしまう・・・もう絵が描けない。
そしてさらに実家のある広島に新型爆弾が投下される・・・。
悲劇は続くが、すずはこの世界の片隅で自分を見つけてくれた周作に感謝し、二人で力を合わせて生きてゆくことを誓う・・・。
ストーリー
浦野すずは広島の海岸近くで海苔の養殖を生活の糧にしている一家の長女として生まれ楽しく暮らしていた。彼女には兄の要一と妹のすみがいた。
すずは絵がうまく、また物語を作るのも上手で、いつもすみに絵物語を話して聞かせていた。家の天井には少女らしきもの(座敷童)が住んでいて、スイカを切っておくと自然に無くなっていた。
彼女が18の時、呉に住む海軍勤務の北條周作から見初められ、キツネにつままれたように祝言を挙げ、お嫁に行く。
北條家は町はずれの段々畑の近くにあった。周作には父の円太郎、母のサンがいた。そこに周作の姉の黒村径子、娘の晴美が疎開してきていた。
周作は口数が少ないがすずに優しく、彼の両親も温和な人達だった。ところが姉の径子はきつい性格でいつもすずにつらく当たる・・・しばらくしてすずの頭には円形ハゲが出来ていた。
でも娘の晴美は絵を描いてくれたり、物語を話してくれるすずを好いており、いつも一緒だ。
戦争が激しくなるにつれて、食糧や物資が不足するようになった。すずはお米をもたせるために薄いおかゆにして芋などを入れて急場をしのぐ。道端の雑草も摘み取ってうまくお浸しにする。
食べれるものは何でも工夫しておかずにした、でも砂糖なんかの貴重品は闇市で手に入れるしかない。
ある日街で、道に迷ったすずは遊郭のリンに助けられる。リンはもうここには来ない方がいいと帰りの道を案内をしてくれた。
戦況がどんどん悪くなる、空襲警報の連続だ、呉の町は敵機の爆弾によって火の海だ。
ある日、同級生の水原哲がすずを訪ねてくる。彼は巡洋艦「青葉」の水平になっていた。哲もすずもお互いに淡い恋を抱いていたが、すずには今、周作がいる・・・そんな思いを哲にぶつける。
すずは晴美とケガで入院している円太郎を見舞うが、その帰りに空襲にあう。そして時限式の爆弾が破裂して二人は吹き飛ばされる・・・。
ネタバレとレビュー
晴美は繋いでいたすずの右手ごと吹き飛ばされ死んでしまう。すずは助かったものの大切な右手がなくなる。もう絵を描くことも、手紙や物語を書くことが出来ない・・・すずは放心状態だ。
径子はヒステリーを起こし、「晴美が死んだのはお前のせいだ」とすずをなじり続ける。
すずは右手を失ったことで家事や農作業に支障が出て来る。そして北條家には自分の居場所が見いだせなくなってしまう。
ある日、敵の戦闘機が空から機銃掃射してくる・・・すずは立ったままでよけようとはしなかった。そこに周作が現われ、すずの体を抱きかかえて水路に伏せる・・・すずは泣いたままだ。
すずは広島に帰ろうと準備する。ところが8月6日の午前8時15分に凄い地響きとともに巨大なキノコ雲があがる。 広島に新型爆弾が投下されたのだ。
そして8月15日玉音放送で終戦が知らされた・・・これを聞いたすずは激しく憤り泣き叫ぶ。
暫くして、すずは広島に家族を見舞う、母親は見つからず、父も直ぐ亡くなった。妹のすみは原爆症を発症し、紫色の発疹と微熱の為、ふとんに寝込む毎日だ。
すずは周作と一緒に広島の街を歩く、周作はすずとこのまま一生暮らして行きたい「すずが一番大切な人」だと自分の思いを打ち明ける。
帰り際、母親を失った少女が近寄ってくる。二人は少女を連れて呉に戻る。
反戦映画なんだけど、根底に流れるのは「すずと周作の純愛」なんだと思う。
この時代はどこの家庭でも親の面倒は子供がみている。娯楽はラジオくらいで何もない、毎日食うためにせっせと働いている・・・でも生きている充実感は今とは比べ物にならないかもしれない。
それに人生50年だから早ければ10代で所帯を持つ、貧しいけど大家族で一家集まって飯を食う、暗くなれば寝る・・・シンプルライフだ。
今の時代は便利になって、モノが溢れているけど、核家族でみんな孤独だ、しかも寿命が延びているから死ぬまで孤独が続く・・・どっちがいいんだろうね。
やはり家族団らんでみんな集まって飯を食うのが僕はいいと思う。
すずの兄 要一は外地で戦死して遺骨で帰ってくる。骨壺を開けたら中身は石ころだった。もの凄く非人間的だ、身内も親戚も周りの人たちも、歯が抜けるようにポロポロ亡くなって行く・・・これが戦争なんだ。
原爆投下のあと広島から呉まで青年が歩いてきて、ある家の外でうずくまって死んでいるのが見つかる。でも彼が誰だか誰も知らない、しばらくしてその家の身内であることが分かる。
自分の身内であることも分からないほど焼け焦げていたんだ・・・涙が出るほど悲惨だ。
TATSUTATSU
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