サマリー
葛飾北斎の三女 お栄(葛飾応為:かつしかおうい)の物語なんだ。
葛飾北斎は88才まで生き「富嶽三十六景」「北斎漫画」「蛸と海女」などの代表作を残している。北斎は生涯に二度結婚しており、子供は二男四女をもうけている。
北斎は天才だが、変人であったらしい。生涯に引っ越しが93回、改号(名前を変えること)が30回、料理は一切せず、買ってきたり、もらったり、出前を取ったりしていた。
住いはゴミ屋敷の様になっており、寒い時にはコタツに潜り込んで絵を描き続けた。そのため布団や衣類はノミ・シラミの巣になっていた。このゴミ貯めの中でお栄も絵をかいていたらしい。
こんな乞食のような生活をしていても長生き出来たのは、酒やたばこをやらなかったのが理由の1つと言われている。
お栄は器量が悪く色黒で顎が出ていることから、父親の北斎からは「アゴ」と呼ばれていたらしい。でも絵の才能は父から受け継いでおり、北斎の代筆もしていたようだ、自分の娘ではあるが北斎も一目置いていた。
お栄も父の性格を受け継いだ変人で、料理どころかお茶も出さなかったらしい。美人画が得意で春画・枕絵(性風俗を描いた絵)なども書いていたとのことである。
このアニメ映画はいいような、悪いような不思議な魅力を持っているけど、一般受けさせるためにはもうひと工夫欲しかった。
浮世絵や吉原の世界を描いているが、主人公のお栄に、全く色気を感じない。物語は大人用だけど、絵の描写はシンプルで子供でも見られるようにしたのかな・・・・・中途半端さを感じる。
残念ながら声優がうまくない、ぼそぼそと聞こえて何を言っているのか聞きづらい。俳優ではなくプロの声優を使うべきだったと思う。でも、江戸の町と風物が良く描けていて、観ていて楽しくなる場面もある。
残念ながら日本ではあまりヒットしなかったようだが、海外では人気が高くフランスのアヌシー国際アニメーション映画際で長編部門審査員賞を受賞している。
鉄蔵(葛飾北斎)
2015年公開のProduction I.G製作のアニメ映画、監督は原恵一(クレヨンしんちゃん、河童のクゥと夏休み)である。
原作は杉浦日向子(すぎうら ひなこ)の同名のマンガである。彼女は作家で、時代考証家でもある、葛飾北斎を中心に江戸の庶民の暮らしをマンガにして描いている。彼女は2005年に46才で亡くなっている。
ストーリー
江戸の街をお栄(声:杏)は歩いている。この物語は文化11年(1814年)の江戸での出来事である。
お栄は母親の こと(声:美保純)の家に行き一緒に買ってきた弁当を食べる。もう庭の百日紅が満開だ。
お栄は父 鉄蔵(葛飾北斎 声:松重豊)と汚い長屋で暮らしている。鉄蔵は料理も掃除もしないし、酒もたばこもやらない、絵を描くしか何のとりえも無い男だ・・・・・部屋が汚れればどっかに引越せばいい。
鉄蔵のところには、弟子の池田善次郎(声:濱田岳)も住み着いている、無類の女好きだ。時々歌川門下の歌川国直(声:高良健吾)がやってくる・・・彼は北斎を尊敬している。
鉄蔵がせっかく描いた龍の絵に、誤ってお栄はたばこの火を落としオシャカにしてしまう。しょうがないからお栄は徹夜して龍の絵を仕上げる。
お栄の妹 お猶(声:清水詩音)は目が見えない、お猶は尼僧院にあずけられ琵琶の修行をしている。お栄は時々不憫な妹を見舞う。
鉄蔵は親なのにあんまり、お猶のところに行かない、だからお栄が妹の面倒をたまにみている。
お猶はいつも大橋に行きたがる。橋で岩窪初五郎(声:筒井道隆)と出会う、お栄は男前な初五郎が好きなようだ。
お栄は吉原へ花魁の小夜衣(さよごろも 声:麻生久美子)を描きに行く、鉄蔵も善次郎ものろのろとお栄の後をついてゆく。
小夜衣は夜になると、首が伸びる噂が巷を駆け巡っている。鉄蔵も善次郎もその首を見たいと言い出す。
花魁に無理を言って、その晩泊ることになった。花魁の首に付けた鈴がなり、隣りのふすまを開けると、花魁の首が蚊帳の中でのたうちまわっていた。
お栄は火事見物が大好きだ、半鐘の金がなると夜中でも火元に駆け付ける・・・・火を見ると身震いするほど体が興奮する。
お栄の地獄絵があまりにも立派過ぎて、絵を収めた家の奥さんが夜な夜な悪夢に悩まされる。鉄蔵はこの地獄絵に仏を描きいれ、絵を鎮めた。
お陰様で次の夜から、悪霊は夢の中に出なくなったそうだ。
お栄の絵には色気が無いと版元から言われ、お栄は傷つく。お栄はまだ生娘だ・・・・もっと色気のある絵を描きたくて、男を買いに出かけてしまう。
お猶が病気で臥せっているらしい。鉄蔵は見舞いに行く。
お栄もお猶を見舞い、母と3人で蚊帳をつって寝る。お猶の病はなかなか快方に向かわない。
お猶の魂は鉄蔵の家に椿の花を置いて、あの世に行ってしまう。鉄蔵とお栄は途方に暮れる。
鉄蔵はお栄に「そろそろ自分の絵を描いてみろ」と言って善次郎と国直と一緒に何処かに出かけてしまう。
鉄蔵はそれから90歳まで生きる。善次郎は独り立ちし、世間に名の知れた絵描き(渓斎栄泉)になる、そして鉄蔵の死ぬ一年前に亡くなる。
お栄は一度嫁いだが離縁されて、鉄蔵のところに戻り死ぬまで一緒に暮らしたそうだ。
鉄蔵は死ぬ前にあと5年いきれりゃ本物の絵描きなれたと本気で思っていたらしい・・・・とんでもねえシジイだ。
レビュー
葛飾北斎はこの江戸時代に90歳(正確には88才)まで生きた。この時代は人生50年と言われていたから、とてつもなく長生きした、長寿の家系だ・・・・凄いね。
北斎は長寿であったから、数多くの作品が残っている。しかしお栄(葛飾応為)は10点ぐらいしか作品を残していない。でも後世の研究では北斎の作品の中に、応為の代筆が多く含まれていると言われている。
あれだけ素晴らしい浮世絵を作成している場所が、ゴミに囲まれた長屋とは思わなかったね。しかも北斎も応為も金に無頓着だったから貧乏暮らしが続いたようだね。
ネットから取りました「北斎の自画像」
お栄(葛飾応為)は父 鉄蔵と合わせて、筆二本・はし四本あれば何処に言ったって食っていけると言っている、天才芸術家は羨ましいね。
江戸の人口は18世紀初頭に100万人を超えて、世界トップレベルの規模になっていたらしい。世界の中でもものすごく発展した都市だ、そんな巨大都市、江戸の風俗や生活が色々と垣間見えて面白い作品だ。
でも残念ながら有名俳優を声優にしているから、作品の質に疑問を感じる。有名俳優を使えば確かに話題性はあるが、やはり映画の中身で勝負してほしかったね。
お栄は父の死後67才で家を出て消息を絶ったらしい。父の名前が偉大過ぎて一人では食えなかったのかなー・・・つくづく芸術家の世界は厳しいと思うね。
辰々
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