ミステリー小説

ミステリー小説「真実の幸福とは」生きているうちは苦難の連続だがあの世には幸福があるのか

ストーリー

 


日々、暮らしにくくなっている昨今、何によりどころを求めればよいのか。何もしなければ時間だけが過ぎてゆく。かといって、自分にノルマを与えすぎるとメンタルに来てしまう。そんな時の箸休めに「寝る前の5分間で読むチョイ恐ミステリー」でものぞいてみて。

 

「真の幸福」とはいったい何だろう。私の家は典型的なサラリーマン世帯だ。両親と一人息子の私の3人家族だ。ところが10歳の時、父が病気で亡くなってしまう。

そこから苦難の日々が続く、そんな中でも母は必死に私を育ててくれた。母の苦労が今でも目に浮かぶ・・・弱音を吐かない人だが夜中に泣くことがあった。幸い私は頭のいい方で、進学校に入学でき、大学受験も難なく突破、有名大学から大手企業に就職することが出来た。

私は早く母を楽にさせてあげようと一生懸命働き、その大部分を貯蓄に回した。私は女性やギャンブルには全く興味がなく、酒も飲めなかったことからみるみるお金が貯まっていった。

そんな時にユウスケという男に出会った。彼は会社の同期生だ。私のことが気に入り、いつも行動を共にしていた。彼と付き合ってゆくにつれ、彼の凄さに驚かされる。なんでも簡単にやってのけてしまう・・・能力は私より数段上だ。

そんな彼は私のことが好きだと言ってくれる。私が熱心に貯蓄しているのを知ると彼は「僕に100万円預けてみないか」と言う。私は何をするのかと尋ねると・・・「ある株に投資するんだ」と答える。

彼に言われたとおりに、ある株を100万円で購入した。そして次々と有望株に乗り換え、数年で1000万円にもなった。そしてその1000万円を元手にアメリカのベンチャー企業の株を買えと言う。私はユウスケに全を託した。

一度彼の実家にお邪魔したことがある。彼の家は資産家で大事な跡取り息子だ。彼の部屋にはたくさんのモニターと数台のパソコンがあった。ここで暇つぶしに彼独自の人工知能を使ってマネーゲームをやっていると言う。でも、金もうけにはあまり興味が無いようだ。彼が本気を出せば大金を難なく稼ぐことが出来るのに。

彼と付き合い始めて10年近くが経つ。もうそろそろいいだろう、株をすべて売れと言う。1000万円で買ったベンチャー企業が大化けし、100倍になっていたのだ。つまり、何もしないのにユウスケのおかげで10億円を手にした・・・キツネにばかされたような感覚だ。

税金や経費を差し引いてもかなりの額が手に入った・・・・もう私は億万長者だ。一般的なサラリーマンの生涯賃金が4~5億円と言われる。私は30代でその2倍も儲けてしまったことになる。これで母を楽にさせることが出来ると大喜びした。

ところが母は突然、交通事故で亡くなる。横断歩道を歩いている時に信号無視の車に跳ねられた・・・一瞬の出来事だった。

何かを手に入れると言うことは何かを手放さなくてはならない・・・そんな風に思う。これは自然の摂理なのか法則なのか。全ての幸運を掴むことは出来ない。私は不幸のどん底に落とされた。そしてユウスケにもつらくあたった。

彼は私を守るため、一緒に住もうとまで言ってくれた。でもそれも強く突っぱねた。そして完全に彼を拒絶してしまった。ユウスケは相当に落ち込んだに違いない。私は会社を辞め、ひっそりと生きることを選択した。

温暖な地域、しかもある程度町に近い場所に別荘を買った。かつてはバブル期に脚光を浴びた有名な場所だ。別荘をリホームし、自分なりに住みやすく改造した。陽の光が部屋の奥まで注ぎ、景色のいい場所だ。もちろん背面は森や林になっており、空気が美味しい。

私は犬と猫を飼った。犬はイエローラブのジョン、ネコは雑種のタマだ。朝起き、顔を洗って家を出る。朝もやの木立の中をジョンとジョッギングする。少し湿ったそよ風が木々や草の臭いを僕に運んでくる。心地いい・・・いつまでも走っていたい衝動に駆られる。

森の緑と、オレンジ色の朝日が目に入ってくる。これが一日のスタートだ。同じ森なのに毎日が変化に富み何度走っても飽きることがない。私はここで朽ちはててもいいと真剣に思った。

そんな時、リュウと言う不思議な男が訪ねて来た・・・・。

 

ここからはリュウから僕が聞いた話だ。

シマさん、私はユウスケさんの婚約者「幸恵」さんから頼まれてここに来たリュウと言う者です。ユウスケさんが消息を絶ってから一週間ほど経ちます。こちらに寄られてはいませんか。(ミステリー小説「冥婚の真実とは」大昔から続く儀式は現代まで霊力をもっているのか を参照願います)

その時、アケミ(リュウの守護霊・・・)が「シマさんの後ろを見て」と僕の手を握る。シマさんの背後に黒い靄のようなものが見えた。リュウは驚いてシマさんを凝視する。

シマさんは何が何だかわからないままに。「ユウスケには長いこと会っていない」と答える。あまりにじろじろと見られていることから・・・私の顔に何かついていますかと怪訝な顔をする。

黒い靄のようなものはアケミの力によって徐々に人間の姿に形を変えてゆく。私はそこに「ユウスケ」さんを見た。間違いなく幸恵さんから預かった写真通りの男だ。

実は・・・私は「霊」が見える体質です。頭がおかしい男と思われても致し方ない。ほとんどの方が信じませんから。私にその能力があるわけではなく、私に憑りついている守護霊・・・「あけみ」と呼んでいますが、それが能力を授けてくれるのです。

シマさんの背後には「ユウスケ」さんの霊が取り憑いています。そう言ったところ、彼の顔から、血の気が引いた。そして暫く、考えるこむようにうなだれる。彼は絶望に打ちひしがれているようだ。

シマさんは「ユウスケ」の霊が取り憑いていると言うことは、彼は既に亡くなっていると言うことですか。と聞いてくる。残念ながらそういうことになります・・・とリュウは答える。

シマさんはリュウの顔を見てこんなことを話し始めた。3日ほど前に「ユウスケ」が夢の中に出てきた。「ユウスケ」は私に向かって「ずうっと一緒だよ」と言うと、後ろを振り返って湖に入ってゆく、「シマも一緒に来るかい」と手招きして泳ぎ始める。湖の中央に向かって延々と泳いでゆく・・・私ははっとして目が覚める。

この夢は2人の絆が周りが想像できないほど強いことを現している。と、リュウは感じた。二人は一心同体なのだ。さらに、シマさんは、夢を見た後、何かが家の中にいるような不思議な感触を得たとも言っている。

シマさんが急に「少し外出してきます。その間ジョンと玉を見てていただけますか」と玄関から出て行ってしまった。リュウは椅子に座ったまま一時間ほど待っていた。ところが「あけみ」が突然、「ヤバいよ」と言い出す。

リュウが外に出ると、ドアの隙間からジョンが飛び出した。リュウは必死で追いかける。15分も走っただろうか、陽が少しづつ傾いてくる。その時、前方でジョンが急に止まる。大きな木の近くにシマさんが倒れているのを発見した。

リュウは近づいて、息と心臓の鼓動を確認する・・・・まだ、生きている。近くに薬のビンが落ちていた。リュウは携帯で救急車を呼ぶと、シマさんを背負って森を駆け抜ける。そして、大きな道路にぶつかり、そこを町に向かって走り続ける。

その後の話だが、シマさんは一命をとりとめた。ここからは、僕の出番だ。口下手なリュウに代わって僕がシマさんに話しかける。

僕は次の2点を慎重にシマさんに伝えた。1点目は・・・「シマさんに憑りついているユウスケさんの霊は幸せそうに見えた」とリュウから聞いています。物凄く安らかだったそうです。シマさんとユウスケさんは強い絆で結ばれ一心同体ではないでしょうか。将来、ユウスケさんの霊は「守護霊」となってあなたを守り続けると思います。

2点目は・・・「あなたは何かを成すために生かされたのです」「シマさんが何かを成し遂げることをユウスケさんは熱望している」「あなたにはそれだけの力があるのです」・・・・。

シマさんは退院後、ジョンと玉を引き取りに来られた。それから5年ほど経つ、シマさんは再び我々の前に現れた・・・輝くような自信に満ちた風貌に変わっていた。彼は「お世話になりました」と礼を言うと、次の要望を僕らに提案した。

シマさんは投資で大成功をおさめ、会社を立ち上げたとのことだ。そして利益の一部を社会のために使っている。ついては私の会社の社外取締役に参加してほしい、報酬は好きなだけおっしゃっていただければいい。との提案だった。

僕とリュウにとっては有難いことだが、暫く考え辞退させていただくことにした。シマさんは残念な顔をして名刺を僕らに手渡すと、「もし、何かあったら連絡ください、命の恩人ですので何でもします」と言い残して帰って行った。

これは僕の推論に過ぎないがシマさんとユウスケさんは同性愛者だと思う。さらにユウスケさんは実家と幸恵さんとの板挟みで相当苦しんだに違いない・・・そんなふうに僕は感じた。

満月が湖面にゆらゆらと漂う。きっとどこかにユウスケさんは眠っていることだろう。その場所は誰も知らない・・・ひょっとしたら「アケミ」だけは知っているかも・・・。

TATSUTATSU

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