サマリー
★★★☆☆(お薦め)
2010年公開のサイコパス映画
監督 森淳一(リトル・フォレスト、蛇のひと)
脚本 三好晶子
出演 ●永作博美(八日目の蝉、ソロモンの偽証、蛇のひと)
●西島秀俊(Dolls、休暇、ラストレシピ~麒麟の舌の記憶~、劇場版MOZU、クリーピー、散り椿、蛇のひと)
●田中佳(図書館戦争、スマホを落としただけなのに、蛇のひと)
夜中に口笛を吹くと蛇が来ると言われている。蛇とは邪悪なものの象徴だ。この映画は「限りなく美しく、限りなく悲しい人間の物語」だ。
人は誰しも心の中に蛇(邪悪なもの)を飼っている。まわりから見ると、雄弁で、仕事が出来、人間的にも魅力ある・・・そんな人間をしばしば見る。しかし、その人間をよく観察してみると、あることに気付く。
そいつの通った後には不幸な人間がごろごろいることだ。そいつは周り人間の生気を吸い取って成長し上へ上へと登って行く。こんな男が会社のトップになってしまえば大変なことになる。大企業でも傾きかけたところには必ず、こいつらがいる。
直接、人殺しはしないが間接的に人殺しをしている。こいつらを「サイコパス」と言う。心の中の蛇をコントロールできない奴らだ・・・つまり「良心」が欠如している。先天性の場合もあれば後天性の可能性もある。あなたはこのドラマを見て思い当たるふしはないか?
話のスジを少し紹介すると。独身のベテランOL三辺陽子(永作博美)は会社に出社すると大変な事件が待ち構えていた。伊東部長(國村隼)が自殺し今西課長(西島秀俊)が失踪していた。
三辺陽子は今西課長の秘書的な役割を担っていた。今西課長は中途採用ながら営業部のエースと言われるほど優秀な男だ。陽子は内密に会社の副社長に呼ばれる。
今西が会社の金1億円を横領し、逃げたらしい。何処に逃げたのか心当たりを探せと指示を受ける。陽子は会社で今西を最もよく知る人物と思われていた。しかし、自分が今西のプライベートなことは何一つ知らないことに愕然とする。
彼女と同僚の田中一(田中佳)は今西の行き先を調べる。まず、彼のアパートを訪ねるがそこにはいない。隣の住人島田(劇団ひとり)に話を聞くと、彼は留守だと言われる。島田は漫画家の卵だ、冴えない顔をしているが今西は彼の才能を理解し激励していたらしい。
今西の友人と結婚した柴田のりこ(ふせえり)に話を聞くが行く先は分からなかった。柴田のりこはすぐに離婚し不幸せそうだった。次に今西の元同僚、里中に会って話を聞く。彼は今西に勧められて高額なマンションを購入したためローン返済に追われ、妻とともに生活に疲れていた。
さらに、今西がかつて勤めていた予備校の講師、原田の話を聞く。原田は生徒と不倫し、妻が学校に殴り込んでくるトラブルがあった。その時今西が仲裁に入って助けてくれたと言う。彼はその時「しばらく3人で住んでみたら」と提案したそうだ。もう五年も経つがいまだに3人で暮らしている。ところが原田は生気が抜けたように不幸せそうだった。
陽子と田中は今西の足取りを追ううちに、彼と関係してきた人たちが皆、少し不幸になっていることに気付く。会社ではエースとして頭角を現し光り輝いていた今西がプライベートでは周りの人々を少し不幸にしていた事に違和感を感じた。
そして、今西の実家を訪ねてみることにした。そこでは、想像を絶する過去が明らかにされる・・・それはどんな過去なのかそして彼は今、何処にいるのか?
その後のストーリーとネタバレ
今西の実家は大阪にある有名な義太夫の家元だった。今は没落し屋敷は売りに出されている。そこで偶然にも今西の幼なじみ(板尾創路)に会うことが出来た。そして近くには今西の年老いた母もいた。
幼なじみの話では、由起ちゃん(今西由起夫)は有名な義太夫の家元に生まれたが妾の子だった。父親の功太夫(河原崎建三)を師匠として弟子入りする。彼の才能は凄く、弟子の中でも抜きん出ていた。
しかし、それを妬み師匠の本妻の息子(今西由起夫の腹違いの兄)や兄弟子たちから壮絶ないじめにあう。それが原因なのか由起ちゃんの芸は伸びなくなる。彼は苦しい時、父からもらった赤い万華鏡を眺めて心を癒していた。ところがそれも兄に捨てられてしまう。
暫くして兄のデビューが決まる。ところが由起ちゃんは兄を差し置いて勝手に高座に上がってしまう。その時の彼の義太夫は誰もが認める天才の域にあった。多くの客から大絶賛を受けた・・・由起ちゃんは才能を隠していたのだ。
由起ちゃんは、大変なことを仕出かし、師匠のところに謝りにいった。ところが屋敷は血だらけで兄が両親や弟子たちを刺殺していた。そして由起ちゃんの目の前で首を切って自殺する。
兄は自殺する前にこの筋書きはお前が全て仕組んだものだと言い残す。由起ちゃんはそれを否定しなかった。彼は人を「口車に乗せて生かして殺す」それを楽しんでいたようなふしがあった。それ以降由起ちゃんはいなくなってしまった。これが今西由起夫の知られざるあまりに過酷な過去だった。
伊東部長の妻、牧子(石野真子)が一億円の現金を持って会社に現れた。一億円を横領しその罪を今西になすりつけたのは伊東部長だったのだ。彼は今西の力量に嫉妬し自分はすぐにこいつに抜かれると考えていたようだ。
今西は秘密裏に外部機関に財務調査を依頼し、伊東部長の計略を知っていた。今西は伊東部長宅を夜間訪問し、自分が一億円を横領したことになっている。でも、いいんです会社にも自分の将来にも未練はない、私は失踪します。一億円の横領犯にしておいてくださいと帰ってしまう。その後、伊東部長は首をくくって自殺する。
陽子に上司から「今西の嫌疑は晴れた、すぐに呼び戻して来い」と指示される。ところが何処にいるのか皆目見当がつかない。今まで今西は親しい人を不幸せにしてきた。そう考えると私が彼だったら次は私だと考えた。
陽子は会社の車庫に置きっぱなしにされた今西の赤いスポーツカーを飛ばして婚約者(ムロツヨシ)の工場を訪ねてみる。そこにはやはり、今西がいた。
今西は陽子に「彼氏、真面目でいい男だね」「何故、結婚しぶってんの」と突っかかってくる。彼は陽子の本心を見抜いていた。陽子は「自分はずるい人間だ」と白状する。「顔は笑っていても心の中は何考えているのか分からない。俺と同じ病気だ。」と今西は言う。
「誰しも心の中に蛇を飼っている、それが普通でしょ」と陽子は答える。「俺は人を殺した男だぞ、またいつか殺すか分からない」今西は答える。陽子は「私がずうっと見張っています」と答える。今西は「バカなことを言うな、早く帰って寝ろ」とひとり車に乗り込んでゆく。
今西は岸壁に向かって車を猛スピードで走らせ、海に車ごと飛び込むつもりだった。しかし、ダッシュボードのメモ紙を見てギリギリのところで止まる。そのメモには「大阪のおみやげです 三辺」と書かれてあった。中には赤い万華鏡が入っていた。彼は昔を思い出し「今までこれをさがしていたんや」とつぶやく。
暫くして陽子は会社の帰り、口笛を吹きながら夜道を歩く。立ち止まるとポケットから赤い万華鏡をのぞきニコリとする。
レビュー
自殺を思い止まった今西の今後が描かれていない。ここから先は視聴者の判断に任されている。結末の陽子が口笛を吹きながら夜道を歩き、万華鏡をのぞきニコリとする場面がある。
これから考えると今西は自分の暗い人生から逃げるのをやめて会社に戻ったのではないだろうか。彼は憎しみから「人を口車に乗せて生かして殺す」ことを自然に身に着けてしまった。そして腹違いの兄と伊東部長を自殺に追い込んだ。
彼は心の中の蛇をコントロールできない典型的な「サイコパス」だ。でもこれからはそれを見張る陽子の存在がある。将来、陽子と一緒になるかどうかは分からないが彼の蛇はしばらく冬眠するだろうね。
TATSUTATSU
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