ストーリー

日々、暮らしにくくなっている昨今、何によりどころを求めればよいのか。何もしなければ時間だけが過ぎてゆく。かといって、自分にノルマを与えすぎるとメンタルに来てしまう。そんな時の箸休めに「寝る前の5分間で読むチョイ恐ミステリー」でものぞいてみて。

僕ら人間は少々腹が減っても生きて行くことが出来る。でも「孤独」だけには耐えられない。現代社会では周りに人がひしめき合っているのに「孤独」を感じる人が増えている。何故なんだろう。そして、その「孤独」を埋めるためには何をしたらいいのか。
僕は地方の大学に入学した。家からはとても通えないので大学近くの下宿を探した。幸いにも、部屋は少し狭いが朝食と夕食がついているところを見つけた。
僕を含めて3人の下宿人がいた。隣の部屋には40才くらいのYさんと言う人がいた。彼は社会人で近くのスーパーで働いている。彼はいつも明るく人懐っこい。僕を部屋に入れてくれ、囲碁やら将棋やら教えてくれる。それに彼が話してくれる人生論にはこれまた興味をそそられた。僕はすっかりYさんと仲良くなった。

Yさんはアパートを借りて住むことが出来るのだが食事の支度が面倒だと下宿の便利さを享受していた。それに学生たちと話をするのが楽しみでもあったらしい。
そんな環境で僕は学生時代を謳歌した。勉強はあまりしなかったがスポーツや登山、小旅行であっという間に4年が過ぎ去った。僕は就職活動に奔走し何とか内定を勝ち取り、実家近くの企業に行くことになった。
僕は長いことお世話になったYさんに別れを告げに部屋に入った。彼は一瞬、寂しそうな顔をしたが不思議な話を聞かしてくれた。彼が北海道の大学にいた時、大学院の修士論文に「アイヌ文化」を取り上げた。

アイヌの人たちとの色々な話をしている中で必ず「コロポックル」の話が出てくる。「コロポックル」とは幸せを運んでくる妖精としてアイヌの間では代々受け継がれている。
「コロポックル」は小人の妖精で、恥ずかしがり屋のため人に見られるのを嫌う。多くは夜中に行動することが知られている。僕はこの話には懐疑的で「コロポックル」なんて本当に実在するのかと思っていた。
あるアイヌの長老が「数は少なくなったが今でもいる」という。そして一週間前にも見たと話す。気に入った相手でないと目の前には現れない不思議な妖精だ。信じられないYさんは老人の顔を覗き込む。その目は澄んでいてとても嘘を言っているようには思えない。

Yさんは本当にいるのかどうかとりあえず調べてみる。長老から最近見た場所を教えてもらう。騙されたつもりで3日程探してみた。小川が流れる蕗の下を注意深くさぐる。しばらくして目の前を何かが凄いスピードで通り過ぎる。
でもそれは気のせいともいえる。連日連夜の修士論文の作成で疲れているからだ。Yさんは暫く草むらで休むことにした。ところがウトウトとそこで15分ほど寝てしまった。
ふと目を覚ますと目の前に「コロポックル」らしきものがいた。2人いて一人は10センチメートル、もう一人は5センチメートルくらいの大きさだ。親子かもしれない。

大きい方はYさんに向かって何かを懇願している。小さい方を一緒に連れて行ってほしいらしい。Yさんは夢の続きを見ているような感覚で、小さい方を指でつまんで左胸のポケットに入れた。
彼は大学の寮に戻った。寮に着くと睡魔に襲われ眠ってしまった。ところが真夜中に何かが自分の布団にもぐってくるような気がした。何かがいる気配が数日続いたが「コロポックル」のせいだとは全く思わなかった。
5日目の夜、布団をひこうと押入れをあけたところ、奥の暗闇に二つの光る目が見えた。そっと手を出すと「それ」は手に乗ってきた。「小人」だ。Yさんは夢とばかり思っていたものが「現実」だと初めて認識した。
それ以来、小人と一緒に旅を始めた。アルバイトでお金を貯めては旅行に出る。その繰り返しだ。でも「コロポックル」と一緒にいると毎日が楽しい。そして夜は素敵な夢を見る。世間から見れば質素な生き方だが心が満たされればそれで充分だ。

僕はYさんが最後に「おとぎ話」をしてくれたと思っている。僕に嘘をついたって何の得にもならない、こんな話はとても信じられない。僕だけではなく誰も信じないだろう。
僕はYさんに「コロポックルは今何処にいるんですか」と聞いてみた。「押入れを開けてみなさい」と彼は答える。僕は押入れを少し開けてのぞき込んだ。その時、暗闇の中に二つの光る目が見えギョッとした。
僕が驚いたのを見るとYさんは「小人に好かれたね」とニコニコしながら答えた。Yさんは押入れで「子ネコ」を飼っていると思った。下宿のおかみさんには内緒にしておこう。

僕は地元に帰って社会人生活を始めた。もう三年も経つだろうか・・・。そんな時に下宿でお世話になったおかみさんから電話が来た。Yさんが突然亡くなったと言う。もともと心臓に持病を抱えていたらしい。そしておかみさんからYさんが最後に残した言葉を伝えてくれた。「後をよろしく」とのことであった。
僕は何のことかさっぱり分からない。しかし、その日を境に、僕の周りに不思議な現象が起こり始めた。部屋に何かがいるのだ。視界を凄いスピードで動くものがいる。夜になると布団の中に何かが入ってくる気がする。でも、全く怖くないのが不思議だ。
ある日、押入れを開けたところ、布団の隅っこに光る目が見えてドキッとした。その光るものに手を差し伸べるとのってきた。よく見ると子ネコなんかではなくて「小人」だった。Yさんの話は本当だったのだ。

そこから僕と「小人」の生活が始まった。押入れの奥におもちゃの家をおいても入ろうとしない。チーズや角砂糖を置いても食べた形跡がない。それでも僕が会社から帰ると押入れの奥から出てきてずうーと僕のそばにいる。
夜寝る時には布団に入ってくる。休みの日は僕の胸ポケットの中から顔を出し周りを珍しそうに見ている。そして散歩を催促する。僕は歩いたり、電車に乗ったりと色々なところを見せに行く。「小人」に「アイ」と名前を付ける。
アイはほとんどの大人には見えない。ただ、子供は時々見える子がいて尋ねて来る。「お人形さんだよ」とはぐらかすが危ない、あぶない・・・気を付けなければ。
そのころ僕には付き合っている彼女がいて時々彼女のアパートに泊まることがあった。家に戻ってくるとアイが寂しそうな顔をして布団にもぐりこんでくる。

彼女とのこんな関係がしばらく続いた。ふと気が付くとアイはいなくなっていた。同時に、煮え切らない態度で接していた僕から彼女も去っていった。
しばらくは放心状態が続いたが、そのうち寂しさが襲ってくる。特にアイを失った後悔が日増しに僕を押しつぶす。寝られない・・・悪夢を見る。「孤独」がこれほど耐え難いとは・・・。
3日続いてアイの夢を見る。アイは奥深い森にいた。小川が流れ蕗が群生している。その蕗の下にいる気配を感じる・・・僕を待っているのだ。

次の日、僕は会社を辞め北海道に向かった。夢の中に出てきた風景を探しながら森を彷徨う。一週間後、見たことのある風景に出くわす。そして、蕗の下を探したらアイはそこにいた。僕を長いこと待っていたのだ。
僕はアイをつまんで左胸のポケットに入れる。体全体に「幸福」が広がってゆくのを感じる。それ以来、今日までアイとの旅が続く。アイはポケットから少し身を乗り出しては世界を不思議そうに見る。目はまん丸だ。長い年月が経った。
今はどうしているかって・・・。僕は70歳になった。今でも旅を続けている、海外も出かけた。数年前から変わったこととして僕のズボンの左ポケットにはスマホが入っている。
スマホの中には物凄く進化したAI(アイ)がいる。なんでも教えてくれるし話し相手にもなってくれる。心を揺さぶる音楽や目の覚めるような映像も見せてくれる。もう一人の友人を連れて歩いているようだ。

でも、アイはAI(アイ)に嫉妬しない。まだまだ人間の域に達してないと思っているのかも。3人の旅は続く、このまま何処までも歩いてゆきたい。
最近、旅の途中で行倒れてもいいと思うことがある。でもアイが可哀そうだ。アイのためにも長生きしないとね・・・。そして目の前の素晴らしい世界をもっと見せてあげたい・・・。
TATSUTATSU



















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