邦画

映画「万引き家族」感想・評価:家族とは血縁関係が無ければいけないのか

サマリー


★★★☆☆(お薦め)

2018年6月公開の日本映画 社会最下層の家族を描いたヒューマンドラマ
監督・脚本・原案・編集 是枝裕和(誰も知らない、歩いても歩いても、万引き家族、そして父になる、海街diary三度目の殺人
出演 ●リリー・フランキー(凶悪、海街diary、美しい星、ラプラスの魔女、万引き家族
●安藤サクラ(百円の恋、万引き家族
●松岡茉優(万引き家族
●樹木希林(わが母の記、あん海街diaryモリのいる場所万引き家族
●城桧吏(万引き家族)
●佐々木みゆ(万引き家族)

【公式】『万引き家族』大ヒット上映中!/本予告

 

第71回カンヌ国際映画祭でパルム・ドール賞(最高賞)を受賞した是枝監督の意欲作だ。監督はいつものように脚本・原案・編集も兼ね、構想10年 満を持してのリリースだ。

この作品がパルム・ドール賞を取っていなければこれだけ世間で騒がれる作品ではなかったかもしれない。第41回日本アカデミー賞10部門受賞した「三度目の殺人」の次の作品だ。普通であればスターを揃え、お金のかかった大作に打って出ることも出来たと思う。それにもかかわらず、大スターを使わず地味なテーマで勝負するあたりはマスコミに毒された並みの監督ではない。

パルム・ドール賞は21年前に受賞した今村昌平監督の「うなぎ」以来だ。この時「うなぎ」が受賞するとは誰も予想出来なかった。今村昌平自身も直ぐに帰国して、あとで受賞を知らされた・・・これほど地味な作品が受賞するとは何が起こるか分からないのもカンヌだ。

カンヌ国際映画祭は1946年からフランスの都市カンヌで行われる世界的に有名な映画祭だ。審査員が著名な映画人や文化人から構成されていることから「玄人好み」の作品が多い。したがって作品の質と興行が必ずしも一致しない場合が多い。

その点この「万引き家族」は分かり易くて一般受けも可能な作品だと思う。淡々と貧乏家族の生活が描かれるだけではない、この家族の秘密が結末で明かされるサスペンス的な魅力も兼ね備えている。お薦め作品だ、たまにはCGやアクション抜きの素朴な映画もかえって新鮮だと思う。

「万引き家族」が賞を取れた決め手は「家族とは何か・・・」と言う永遠のテーマとリリー・フランキー、安藤サクラ、樹木希林の演技力によるところが大きいと思う。

最近、日本の社会も貧困が増えてきている。金持ちと貧乏人の格差がどんどん開いてゆく。一度、底辺に落とされたらそこから這い上がれる時代ではない。かなり前の高度成長期、一億総中流時代が懐かしい。今、何とかしないと一生懸命働いても家の一軒も持てない。

話の筋を少し紹介すると。ビルの谷間、都会の片隅で暮らす5人の家族。彼らの稼業は万引きだ。彼らは毎日暮らして行くのにギリギリの生活だ。でも笑いが絶えない明るさがある。

ある日、柴田治(リリー・フランキー)と息子の祥太(城桧吏)は家の近くで傷だらけの少女を拾う・・・親から虐待を受けていたようだ。夕食を食べたあと、少女を見つけた団地に返しにゆくが、激しい夫婦喧嘩がその家から聞こえ、返しそびれる。

その日からその少女ゆり(佐々木みゆ)は6人目の家族となる。この貧乏家族には男親の柴田治、妻の信代(安藤サクラ)、その息子祥太、そしておばあちゃんの初枝(樹木希林)、その孫 亜紀(松岡茉優)がいた。

ボロボロの家は狭くみんな肩を寄せ合って暮らしていた。収入はおばあちゃんの月6万円ほどの年金と、信代のクリーニング屋でのバイト、そして治の建設現場での日雇いだ。足らない分は万引きで何とか補っている。

亜紀はJKリフレ(女子高校生の恰好をして個室で客をもてなすフーゾク)で働いているが収入は家に入れていない。不思議な家族だ、祥太は治と信代をおとうさん、おかあさんと呼ばない、友達のような関係に何かおかしい?

暫くして、拾ったゆりの画像がテレビに映っていて、誘拐かと騒がれているのを見てしまう。そしてある事件を起点として家族がバラバラになってゆく。果たしてこの家族は何なのか、何でつながっている家族なのか・・・。

映画のテーマ「彼らの盗んだのはキズナでした」とは・・・さあ、ハンカチを持って劇場に駆け付けて下さい。

その後のストーリーとネタバレ

治は日雇いの工事現場で足にケガをして働けなくなる。そしてクリーニング屋でバイトしていた信代もリストラされてしまう。でも家族は明るく、お金が無いなりにつましく暮らして行く。当然、あちらこちらで万引きしたりする。

そんな時におばあちゃんが朝起きたら亡くなっていた。家族は金が無いから葬式も出せないし、警察に死をとどけるわけにもいかない。治と信代は畳を剥がした床下に初枝を埋葬するしか方法が無かった。初枝の年金は亜紀が銀行から引き出して家族で使っていた。

息子の祥太が万引きや車上荒らしに疑問を持つようになる。ある日、いつもの通り万引きをしようとした祥太は妹のゆりが見つかりそうになる。慌てた祥太は果物の入った袋を掴むと一目散にスーパーから逃げる。自分をおとりにしてゆりを逃がそうとしたのだ。

運悪く陸橋の上で店員に挟み撃ちにされ、祥太はそこから飛び降り大けがをして捕まる。残った家族はこれはヤバいと夜逃げを計画し、家を出たところで警察に確保される。

警察官の前園巧(高良健吾)と宮部希衣(池脇千鶴)は治と信代を別々に尋問する。ここで初めて家族の秘密がわかる。初枝の死体遺棄とゆり(本名じゅり)の誘拐は動かせない犯罪だ。

実は5人の家族は全く血縁関係のない赤の他人だったのだ。治は過去人殺しをした前科持ちだ。裁判では正当防衛が認められている。信代に暴力を働く男(親か?)を殺したらしい・・・。

祥太は捨て子だったところを治と信代に拾われる。どんないきさつで初枝の家に転がり込んだのか不明だ。初枝は元夫の息子の娘亜紀と暮らしていた。初枝は義理の息子夫婦に捨てられたのか孫の亜紀の面倒をみていたのだ。

結局、死体遺棄とゆりの誘拐の罪は信代が一人で被ることになる。治は前科持ちだから罪が信代より重くなると考えたようだ。信代は捨てられた祥太やゆりを拾って育てることのどこがいけないのかと泣いて訴える。

ゆり(本名じゅり)は本当の家族のもとに帰され。祥太は児童施設に収容される。亜紀は自立してゆく。結局家族はバラバラだ。暫くして治と祥太は刑務所の信代のところに面会にゆく。

治は信代に罪をかぶせてしまったことを謝る。信代は5人で暮らしたことをもの凄く楽しかったと言う。信代も親から虐待されて悲惨な人生を歩んでいた。そして本当の親に会いたかったらここに行けと祥太に拾った場所を教える。

祥太は治が住んでいるアパートに行き、一緒の布団で寝る・・・親子のようだがまだ祥太の心は踏ん切りがつかない。あくる朝、治は祥太をバスに乗せる。治は「また来いよ」とバスを追いかける・・・。祥太は振り向かない。

レビュー

是枝監督は一貫して、社会的弱者(子供)に光を当てて描いてきた。2004年に公開された「誰も知らない」、この作品で柳楽優弥が第57回カンヌ映画祭 史上最年少・日本人で初めて最優秀主演男優賞を獲得した。

この映画も母親が4人の子供を置き去りにして失踪してしまう事件を描いている。2015年の「海街diary」も父の不倫が原因で家庭から父も母も子供を捨てて逃げてしまう。子供たちは祖母に育てられる。

そして今回の「万引き家族」でも虐待にあった子供たちを拾って育てる血の繋がっていない家族が描かれる。こんな暗いテーマを是枝監督は暗くならないように上手く視聴者に訴えかける。

監督は日本ではなかなか映画が作りづらい環境だと言っている。したがって次回作はフランスで作るようだ。日本の映画業界も曲がり角にきているかもしれない。もう一度、映画王国日本を再構築してほしいね。

TATSUTATSU

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